「夜光虫ってきれいなんだよ」
あの夜、呆れた顔で彼女はそう言った。
私はその頃とてもふさいでいて、閉じこもった生活をしていた。
様子を見に来てくれた彼女に吐露するように私は訴えた。
「全然出かけたくない。誰にも会いたくない。だけどそればっかりだと自分が本当にこの世界にいるのか分かんなくなって、夜中にふらふら歩くことがあって、まるで私、夜行性の虫みたい。誰にも気づかれないところでただ息だけしてるの。むしろ虫の方が何万倍も健全だよ。だって彼らは彼らの法則で活動して子孫をちゃんと残してるんだもの」
そう言うと彼女は気遣うふうでもなく、いつもの調子で「夜の虫ねぇ」と私をじっと見つめて「夜光虫って知ってる? 光るヤツ」と言った。
あの夜、呆れた顔で彼女はそう言った。
私はその頃とてもふさいでいて、閉じこもった生活をしていた。
様子を見に来てくれた彼女に吐露するように私は訴えた。
「全然出かけたくない。誰にも会いたくない。だけどそればっかりだと自分が本当にこの世界にいるのか分かんなくなって、夜中にふらふら歩くことがあって、まるで私、夜行性の虫みたい。誰にも気づかれないところでただ息だけしてるの。むしろ虫の方が何万倍も健全だよ。だって彼らは彼らの法則で活動して子孫をちゃんと残してるんだもの」
そう言うと彼女は気遣うふうでもなく、いつもの調子で「夜の虫ねぇ」と私をじっと見つめて「夜光虫って知ってる? 光るヤツ」と言った。
「海の夜光虫ってとってもきれいなんだよ。私は別に彼らが子孫を残してることなんて考えないし、彼らも人間が自分たちをきれいだと思ってることなんて知らないし、そんなこと彼らにはどうでもいいことだよ。でもね、夜光虫を空から見たときに感じる気持ちは、どうでもいいことなんかじゃない。あんたが夜に徘徊しようが部屋にこもろうが、私はあんたの顔見て、当たり前みたいな気持ちになる。それは私にとって、すごく大切なことなんだよ」
空から海の夜光虫を見たことなんてない。
空から海の夜光虫を見たことなんてない。
でも彼女の呆れたこの顔があれば、それでいいような気がした。