それは美しいスラムダンクだった。
10頭身の痩身、漆黒の肌に純白のユニホームを纏った2メートル超の体躯が両手で持つボールを高く掲げ空中に舞い上る、両腕はそのしなやかな肢体と一体となりまさに一本の弓のように軽く反り、ゆっくりゴールへ向かって行く・・リングの遥か上に達した刹那、両手で掴むボールを左手に持ち替え直下のリムに叩き込んだ。
誰もがボスハンドダンクと抱いた予想を裏切るクラッチからの左ワンハンドダンク。魅せるダンク。
会場は一瞬静寂に包まれ、その後のどよめき。
インターハイ東京都予選順位決定戦どちらも勝てば東京都1位となる八王子学園と実践高校との一戦で放たれた八王子学園留学生のショットである。
こぼれたボールを自陣で拾いひとりドリブルで持ち込んだ状況で生まれた。
時折見せる異次元の高さのシュートブロック、リバウンドは「その高身長だったらあるよね」という圧倒的な高さにちょっと意地悪な見方が会場に漂っていた。
これまで長い手足を窮屈そうに動かし、マークマンのファウル覚悟の圧力に腰を屈め必死にペイントエリア内のポジション取りをする姿。かなりのストレスを感じていたはずだ。
そしてスラムダンク。気持ちを解き放つような渾身のダンク。長い手足はこのシュートの為の存在だと言われても、納得させられる。そして利き手ではないクラッチワンハンドダンク。インテリジェンスを感じる。
彼は派手なアクションをする事もなくチームメイトのリアクションに淡々と応えるだけであった。
石神井のチームが4回戦で負けた対戦相手の東大和南チームがその後快進撃を続けベスト8に入り、ベスト4は逃すも順位決定戦の1回戦に勝利し5~6位決定戦に回った。
東大和南チームが短期間で変貌したのか。疑問と興味、そして今年度東京都高校バスケの上位八チームの公式試合がコートサイドで観戦できる事もあり順位決定戦最終日に会場校である巣鴨高校へ向かった。
会場は意外と空いていた。前日迄の試合で八王子学園と実践高校、両校がインターハイ出場を既に決めていたからか。
7位8位戦は東海大菅生対保善高校。
東海大菅生高校勝利、7位。
関東大会6位
保善高校8位。
新人戦7位、関東大会8位、3大会Best8達成
2023年度(令和5年度) 東京都高校男子インターハイ予選 順位決定戦
第5位決定戦
東大和南:早稲田実業
1P 17:14
2P 39:29 (22:15)
3P 58:48 (19:19)
4P 74:70 (16:22)
東大和南チームは石神井戦と変わっていなかった。接戦になるも決して逆転は許さず、終盤の苦しい時間帯もエースやポイントゲッターが確実にスコアーする。
第4ピリョウド、早実のゾーンディフェンスに手を焼き劣勢になるも外せば絶対的に不利になるシュートをNo.7のスリーやNo.12のインサイドカットインシュートで凌ぎ、一度もリードを許す状況には持ち込ませない粘り強い戦いは石神井戦そのままであった。常に力を出しきれる事が実力チームの所以か。
エイト決めの日大三高戦2点差、5位決定戦対早稲田実業戦4点差。
見事なゲームマネイジメント。結果が実力を物語っている。
東大和南高校、東京都インターハイ予選第5位。
皁実も総合力で戦う東大和南に似たチーム。強力なセンターもシューターもいない。ディフェンス力で接戦に持ち込むも攻めきれず敗退。
早稲田実業高校第6位。
ベスト4の各試合はスピード、ディフェンスの強度、シュート力、プレーの判断の速さに優れ、ケアレスミスの少ないテンポある小気味いい試合が続いた。スーパーなプレイヤーはいない。
差はリバウンド力か。
1位:八王子学園、2位:実践学園、3位:國學院久我山、4位:成立学園。
成立学園はテンポあるスピード豊かな好チームであったが、前日迄に優勝、準優勝両チームとの対戦で両ゲーム共、延長戦(オーバータイム)まで持ち込むも敗れていた。今日は難しいゲームになった。
八王子学園は4校の中で唯一留学生を擁する。高さでは全国レベル。
インターハイ予選上位8チームは年末のwintercupの予選参加権が与えられた。
全くの私見だが、東京都の男子バスケ事情は公式戦対戦結果やスコアーから推測すると上位4校は頭1つ抜きでている感がある。
それ以外の30余チームには絶対的差がないように思える。ベスト8も2回戦敗退もあり得る。
都立の強豪、城東高校も、関東大会3回戦で石神井に敗退。しかし、インターハイでは32決めで私立の雄足立学園に1点差、16決めでは実力校共栄学園に3点差の接戦を制しBest16。
早稲田実業も関東大会ではBest64。
インターハイでは東京都6位。 ジャンプアップ。
東大和南も関東大会東京都第4位の日大三高に8決めで3点差で勝利。
新人戦で14点差で敗れた(8決め)相手にリベンジを果たした。
その後、順位決定戦で関東、インターハイ連続Best8の保善高校にも勝利し、
結果は東京都5位。
敗戦の悔しさをバネにリベンジ劇を成し遂げたチーム、気概が届かなかったチーム。各チームドラマがある。
組合せ、チームのコンディション、プレイヤー意識、等 僅かな要因によって成績が大きく変動する。
コロナ禍はどの高校も練習時間やチームメンバー構成に大きく影響を与えたのだろう。それが現在の群雄割拠の様相を生み出している一因かもしれない。
だからこそチャンスなのだと思う。強豪、伝統校、実力校、といわれてきたチームもウカウカしていられない。
新チームの活動が始まる。努力と工夫によってはこの混沌とした状況からあの美しいスラムダンクのように、高く舞い上がり飛翔するチームが出現するかもしれない。