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えありすの絵本・Another

ここはmyギャラリー…
わたし視点のDQ・FF…絵物語も……そして時々、イロイロ

「いまはこぎいでな」

2009年11月13日 | *クォヴァディス
時は斉明天皇の御代。
百済の要請に朝廷は朝鮮へ出兵。
月夜の船団。潮を待つ。

*熟田津に 船乗りせむと 月待てば 潮もかなひぬ 今は漕ぎ出でな

さあ、すべては整った
今こそ漕ぎ出でよ

斉明天皇(中大兄、大海人の母)になりかわりに詠んだとされる歌。
額田王。出自は不明。

大海人皇子(後の天武)にめされ十市皇女を生む。
のち、中大兄皇子(後の天智、天武の兄)にめされる。

日本史上、最大の三角関係とも言われる。

二人の兄弟天皇に召されたとされるが、彼女の名前は歴史の中で妃として記されていない。
では彼女はなんなのだろうか。

*茜さす紫野ゆき標野ゆき
    野守は見ずや君が袖ふる

*紫の にほへる妹を 憎くあらば
      人妻ゆゑに 我恋ひめやも

額田王、大海人皇子の相聞歌。
蒲生野の「遊猟」の宴席で披露されたととるのが通説らしい。
すでに宮廷歌人として名を馳せる額田は座を盛り上げるためにこのくらいの歌を謳うことなど容易い。

額田の詠む「君」とは…
額田は自分の立場は充分心得ている。
天智の召人である自分が他の男と求愛行為をしている…
天皇の女に堂々と愛の表現する男がいる…
なんとセンセーショナルな歌なのであろうか。
その効果は本人が一番知っているはずだ。

列席者は心躍らせたことだろう。
席はざわつく。
真骨頂。
人々の心を翻弄し楽しませる優れた手法を宮廷歌人として存分に発揮しているのは周知。
「秋山われは」の歌はそれの最たるもの。

今日の蒲生野での薬狩りの野を想定し額田が創作した歌なのか、それとも本当にそんな場面があったのか…
それはわからない。

「『袖を振る』君とはだれなのだろうか」という宴席の人々の期待。
すでに天智天皇の御代。

天皇の思い人に「袖を振る」という魂のふれあい、つまり求愛行為を「標野」という「野守が見ているかも知れない天皇の御領地」(暗に天皇をさす)でできる大胆な男とは…

大海人はそれに対をなす歌を詠み上げる。
「大海人皇子さまだったのか…」
一瞬、座は凍りつく。
なぜなら、その頃から後継者についていろいろ囁かれていたからだ。

蒲生野で額田と大海人が本当に出会ったのか、はすでに問題ではない。
額田が詠んだ歌に応えたのが大海人である、ということが一番の注目なのである。

座興なのか…それとも余興を装って大海人は天智へ不敵な挑戦をたたきつけたのだろうか。
天智も大和三山をなぞらえ「妻あらそい」の歌を詠んでいる。
だが色恋沙汰というには3人ともすでに若くはない。
では…?
わたしは恋の戯れ言を詠みながら少なくとも大海人には何かしらの本心、裏の心があったに違いないと推測する。
だが、彼らの本心は今となってはわからない。
壬申の乱まであと数年。

天智はなぜゆえ弟の思い人を欲しがったのか。
美しいという理由だけではないであろう。
いずれこの弟皇子は大きな存在になるであろう。
周りは次の天皇は大海人だと思っている。
天智の息子はまだ幼い…

弟皇子に見せておかねばならない。
自分の強大な権力を。子をなした二人の仲さえ自分は割くことができる、と。
おまえが愛した女性をいとも簡単に手に入れることができる、と。
弟にも周りにも。

そしてそこまでしてその女性を欲しい理由。
それは額田が
「天皇になりかわって歌を詠む歌人」であるから。

彼女の歌は兵士を鼓舞し、あるいは魂を鎮め、そして人々を楽しませる。
人の心を歌をもってあやつることのできる存在。

わたしは彼女をシャーマン的存在だとみる。
天皇としてその力は必要不可欠。
天皇が神として君臨するためには神の心を詠む巫女が必要なのだ。

だからこそ彼女は誰の妃として記されずとも、二大天皇は彼女を欲したのだと推察するのである。

額田王。
彼女は天皇になりかわり神の声を歌い上げる美しき宮廷歌人。
だからこそ二人の天皇は彼女を愛した。
(これらは私的なわたしの考察です)

「きみなくして、神も我もなし」

2009年11月02日 | *クォヴァディス
骨はもろくなって手に取るとくずれていきそうだった。
小さな骨はひとつひとつが愛おしかった。
ぼくは骨を入れたその壷に花やいばらの模様をほどこし、最後にこう彫った。

「きみなくして、神も我もなし」

あの時、きみの手を離さなければよかった…
ぼくは…

*ハドソンの「緑の館」。
本なんて大嫌いで外遊びばかりしてたわたしが最初に夢中になった本。
美しい武部本一郎の挿絵に心うたれた。

大人になって大人版で読んでその切ないロマンスに涙した。

国の政争にまきこまれた青年アベルは南米の奥地にのがれて蛮族の中に身を潜める。
蛮族が決して近づかない「悪霊の森」の話しを聞く。
鳥や動物を味方につけた魔女がいて狩猟もできず、いつか魔女を倒したいと。

迷信を信じないアベルはその森を探検する。
そこで出会う妖精のような少女リーマ。
小鳥を寄せ動物と心通わせる不思議な少女。
やがて二人は恋におちる。

リーマは初めての恋心にとまどう。
二人は彼女のルーツをたどる旅をする。その旅の途中に心通わせ、愛を確かめ合うのだった。

彼女は先に一人であの森に帰るという。
「見て、これ」と彼女は自分の服をさす。出会った頃より少し色あせている。
彼女は新しい服を作ってアベルを待ちたいと言う。

密林に慣れている自分のほうが早く戻れ、服を作る時間ができる、と。
彼女は「花嫁衣装」を作りたかったのだ。彼女は微笑みながら発った。

戻った森にはあれだけ怖がっていた蛮族たちが自由に出入りしているのを訝しがる。
リーマの姿は見当たらなかった。
蛮族の村で過ごしたアベルは仲の良かった蛮族の一人から話しを聞き出した。

禁断の森から魔女がいなくなったので自由に狩りをしていたら、その魔女がかえってきた。
われわれはその魔女を追い立てた。
魔女は木の上に登ったので下から火を燃やした。
「燃えろ、燃えろ」とはやしたてた。
火は天までのぼるほどの勢いになった。

その時、木のてっぺんから「アベル、アベル」という声がして鳥のようなものが炎の中に落ちていった。

アベルは歯を食いしばってその話しを聞く。
やがて部族間の争いに乗じて元仲間にしてくれていた蛮族の村に復讐を果たす。

彼は気が狂ったようにその木を密林の中じゅうさがす。もしかして蛮族は自分に嘘をいったのだろうか。
リーマは密林の奥深くのどこかで自分を待っているのかもしれない。
だとしたら自分はとんでもないことをした。

だが…アベルはやがてその恋人の終焉の場所をみつけるのだった。
焼けこげた木。その下には灰。
彼は灰の中から業火でもろくなった彼女の骨のひとつひとつに口づけながら拾う。

小屋の中で、彼女のために骨をおさめる壷を作りながら彼は心を鎮めるのだった。
ある晩、焚いた火に吸い寄せられるかのように1匹の蛾が炎の中に舞い降りる。
彼は思わずその蛾をたすけようとするのだった。
それは火に焼かれ殺された恋人を彷彿とさせる。

彼は彼女をおさめたその壷を大切に持ち、文明社会へと戻っていくのだった。

*この蛾のシーンが忘れられない。
子ども心にはどうしようもないほどの胸の痛みがつらかった。
今でもそのシーンでは胸がぎゅっとなる。