後ろ姿

わたしは外を歩くのが好きだ。思い立ったらぶらっといろんなところへ出かけて行く。

ある日気づいた。出かける先々で同じ人をよく見かけることに。その人はおそらくわたしの知り合いではないと思う。おそらく、というのは、その人の後ろ姿しか見たことがないからだ。

山道でも、海辺でも、遊歩道でも、川沿いのサイクリングロードでも、街中でも、ショッピングモールでも。いつも、その人はわたしの少し前を歩いている。

その後ろ姿は、特徴があるといえばあるような、ごく一般的な姿といえばそうともいえるような。それでも、わたしにはその後ろ姿がその人のものだと何故かわかる。理由は説明できない。

何度も見かけるうちに、気になる存在となった。一度でいいから顔を見て話がしてみたい。そう思い、ある日わたしは走り出す。その人に追いつけるようにと。

ところが、わたしの足音に気づいたのか、その人も走り出すのだ。だから距離は一向に縮まらない。それどころか、その人は足がとても速く、どんどん遠ざかっていく。

そんなことがあって以来、わたしはますますその人のことが気になって仕方が無くなった。悶々として眠れない日が続く。夢にまでその人が現れる。

その日は電車を乗り継いで出かける用事があった。ある駅で下車し、別の電車に乗り換えようとホームに出る。ふと前を見ると、ホームの先頭に立って電車を待つ人の後ろ姿に見覚えが。

そうだ、あの人だ！！！

初めて、動いていないあの人の後ろ姿を目にして、わたしは興奮した。これなら絶対顔を見ることができるはず。

そして、足音を立てないようにそっと歩き、静かにその人のすぐ後ろまで近づいて、声をかけた。

「突然お声かけしてすみませんが、今まで何度もあなたの後ろ姿を見てきた者です」

するとその人は・・・。