仙台POSSE(NPO法人POSSE仙台支部)活動報告

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被災地で広がる将来の住居への不安―送迎支援を通じて見えてきた問題

2012-09-25 12:32:50 | 活動報告(送迎支援)
 震災から1年半がたった。私たちが送迎事業などを行なっている仮設住宅からはすでに何世帯かは新居へ移っていき、新たな生活が始まっている人々もいる。しかしその一方で、未だに出ていく見通しが立たず、今年度以降も仮設で生活を続ける必要のある人々も多い。

 最近の仮設でよく話題に上るのが将来の「住居」の話題だ。そしてそれらの話題の多くは将来への不安や現在の行政の対応への不満の色が濃い。私たちが支援を行なっている仮設の中で特にこれらが話題に上るのは、津波で完全に自宅が流されてしまい津波の危険のため集団移転の対象となっている地域の人たちが多く住んでいる仮設だ。これらの地域はさまざまな防災施設の整備を行ってもなお予測される津波の浸水深が2mを超え、被害の危険性が高い。そのためこれらの地区は、住宅の新築や増築などを禁止されている。つまり、これらの地域の住民は再び同じ地域に住むことができない。必然的に個別、もしくは集団で安全な地域へ移転せざるを得ない。しかしその移転に関して、住民からは将来への不安が広がっている。その理由を大まかに整理すると、①復興公営住宅への不安、②住宅再建の困難、③移転跡地の買取額、の3つが挙げられる。それらを以下に一つずつ説明する。

①復興公営住宅への不安
 まず復興公営住宅に関しての不安で大きいのは、いつできるのかがはっきりしないこととである。仙台市の資料(下記にURL有り)を見てみるとわかるが、実際の完成は来年度以降であり、再来年度完成予定のものもある。見通しをなかなか立てられない事情もあるのだろうが、1年近く仮設で生活してきた人々にとってはもう少し具体的に決まらないと不安は払拭されないようである。

 次に、立地場所と定員の問題がある。この資料を見てわかるように、宮城野区の復興公営住宅は平成25年度で一つ(田子西)、26年度で一つ(鶴ケ谷第二)と2ヶ所しか用意される予定がない。私たちが支援を行なっている仙台港背後地6号公園仮設や岡田西町公園仮設の人々は蒲生や岡田の地域の人たちが中心だが、ここの人々にとってこれまでの生活圏に1番近い場所は田子西しかない。ここに定員以上の希望が殺到してしまうとあぶれてしまう人が出てしまい、新たな土地で生活しなければならなくなるのではないか。そのような不安の声はよく耳にする。高齢者が長らく住み慣れた土地を離れて新たに生活を始めることは大きな精神的負担になることが予想される。宮城野区以外でも、生活圏やアクセスの問題などで定員を超過する場所が発生する可能性はあり、同じような不安を抱えている人もいる。

 そして最後に挙げられるのは家賃の問題だ。まず高齢者には収入がほとんどない人々もおり、この資料で挙げられている1番低い家賃も厳しい人もいる。また、一番小さな部屋であれば確かに家賃は低いのではあるが、これまでは1軒屋に住んでいた高齢者の方々にとってはやはり窮屈に感じられてしまい、大きなストレスになるだろう。そのような窮屈感はすでに以前から仮設での暮らしの中でも大きなストレスになっており、よく住民の方からの話題に上っていた。次に家賃として問題になっているのは家族の人数である。家族の人数が多ければ多いほど、また大きな部屋が必要となればなるほど、家賃は高くなる。さらに稼ぎ手が複数同居する場合は収入も上がることになり、収入要件の区分も上がってしまい家賃が上がる。高齢者のなかには息子や娘家族との同居を望む人もいるのだが、家賃がネックとなりどうするか悩んでいる人も多い。特に子供を抱えている家族であれば大きい部屋は必要となるし、出費もかさむことから、入居を躊躇している人もいると聞いている。また、現在は収入要件の範囲内であっても、将来的に収入が上がってしまうと民間賃貸並みの家賃を請求されたり、住宅を出ていかなくてはならない場合もある。
このように、復興公営住宅の入居にかんする不安は少なくない。
・復興公営住宅について(仙台市HP)
http://www.city.sendai.jp/news/2012/d/__icsFiles/afieldfile/2012/05/15/beshi3.pdf

②住宅再建の困難
 元々一軒家に住んでいた人々にとって、自宅を再建したいという希望を持つのは当然であろうと思われるが、これもなかなか簡単ではない。

 住居の建て替え・取得に関しての支援としては、独立行政法人の住宅金融支援機構が被災者向け融資を行う災害復興住宅融資というものがあるが、こちらはあくまでも融資でしかない。他の支援としては、移転対象地区から安全な地域に移転する場合に移転に要する費用や移転再建資金の借入利子相当額の助成が受けられる支援を仙台市が行なっている。家財道具の運搬等に要した金額(上限は78万円、離農等をする場合の上限は237万2千円)と、借入利子相当額(上限は、建物のみの場合444万円、土地購入費も含めた場合708万円、土地の造成費を借り入れない場合は650万円)の助成額を支援してくれるというものだ。こちらは単独移転した被災者にも助成される。後者の方の支援は融資ではないため、利用しやすい支援ではあるが、といっても住宅の建設には最低でも1500万円以上はかかるのが相場であり、以前の財産や仕事を失った人々はそのような高額を払えるような状況にはない人々が多いだけではなく、年齢や収入の状況により新たにローンを組みにくいという事情がある。利子相当額を助成してもらう前に、ローンすら組めないという問題があるということだ。高齢者の方々は自分たちの子どもにローンを肩代わりしてもらうこともできなくはないが、自分たちの息子や娘に新たに借金をしてもらうことはやはり生活を圧迫してしまうので、それに踏み切るには大きな壁がある。

 また、集団移転まではいかなかったが浸水してしまった地域は、宅地を盛土し、または基礎のかさ上げ等をすることによる宅地防災対策を行う場合、宅地防災工事用の一部を助成が受けられる制度(上限は460万円)もある。しかし、支援は住宅の補修までは助成してくれず、補修に関しての支援は貸付制度しかない。このような状況も再建が困難な状況を作っている。

 他にも、集団移転先の土地を市から借りて住宅再建する場合も、借地料を最長50年間免除するという支援もあるが、50年後はどうなっているかわからない状況の中、「孫やその次の世代に負担を押し付けてしまう」という理由で利用できない人もいる。

・移転対象地区(災害危険区域)における住まいの移転(仙台市HP)
http://www.city.sendai.jp/hisaishien/tsunami1.html
・現地再建による宅地防災対策の助成(仙台市HP)
http://www.city.sendai.jp/hisaishien/1203659_2751.html
・仙台市・集団移転 独自支援、緑ケ丘も適用(河北新報 2012年08月08日)
http://www.kahoku.co.jp/spe/spe_sys1062/20120808_10.htm

③移転跡地の買取額
 集団移転の対象となっている土地は、移転後は国が同意のもと買い取ることになっている。しかしこの交渉がうまくいっておらず、仮設では行政に対して不満の声が噴出している。土地の買取額を震災前ではなく現在の浸水後の状況で評価したためだ。少し前に掲載された朝日新聞の記事(2012年07月08日)で具体的な状況が報道されていたので、一部引用する。


仙台市の集団移転、9日期限 路線価影響、不安広がる

 宮城県仙台市の集団移転をめぐり、対象の住民が移転先を決めて市に提出する期限が9日に迫る中、住民の間で不安が広がっている。2日公表された路線価で沿岸部が震災前の半分程度の評価になり、住宅の跡地を売却した代金で住宅再建する算段が狂いかねないからだ。
■「半減」の評価に衝撃
 「これじゃ家なんか建てられない。仮設住宅にいられる間はいるしかない」。同市宮城野区の背後地6号公園仮設住宅の佐藤修一・自治会長の元には2日以降、被災者からそんな諦めの声が相次いで寄せられている。
 入居者の多くが震災前に住んでいた同区蒲生地区の路線価が、いずれも震災前の半額程度になった。例えば、蒲生2丁目は震災前の1平方メートルあたり3万2千円から56%下落して1万4千円になった。
 仙台新港の工業地帯に隣接する蒲生は市街化区域で、市沿岸部の集団移転対象区域の中では比較的地価が高めのはずだった。それだけに、跡地を売った資金を使い、移転先で土地や家を買おうと思っていた被災者には衝撃が大きい。「持ち家を諦め、災害公営住宅に入ると決めた人もいる」と佐藤会長は言う。
 市は、蒲生地区での跡地の買い取り価格の目安として「震災前の80%程度」と説明している。ただ、あくまでも目安で、地価が下がると買い取り価格も下がりかねない。
 実際の買い取り価格が決まるのは早くても来年度以降になる。市は跡地の具体的な再開発計画を秋までに公表する方針。将来の土地の利用価値への期待を高めて跡地の地価上昇につなげるねらいだが、住民の間には「1~2年で震災前の50%前後から80%まで上がるのか」との不安が広がる。



 以上のような理由が主で、現在仮設の住民の方々は将来への不安を抱えており、生活上の大きなストレスになっている。また、もともと住んでいた土地を離れたくないという強い思いを持った方がいたり、制度の手続きが煩雑でその利用方法がわかっていないという方もいるなど、移転に関しては上記の理由の他にも円滑に進みにくい要因もある。生活の再建には住居の安定が不可欠であり、行政側は住民の方々の目線に沿った政策や制度運営が求められる。

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