5月16日(金)、NPO法人POSSEは、厚生労働省記者クラブおよび、宮城県県政記者クラブにて「東日本大震災後3年目における仙台市応急仮設住宅の入居者生活実態調査」の結果に関する記者会見を行いました。
本調査は、POSSEが仮設住宅での送迎支援活動を通じて築いてきた仮設入居者との関係を基礎に、昨年夏から、東北学院大学経済学部佐藤滋ゼミと共同し、仙台市内の仮設住宅に入居している40世帯に対して、現在の生活実態を把握するためのヒアリング調査を行ったものです。
本調査を通じて、現在も仮設住宅に居住する被災者の困窮深まる生活の実態が明らかとなりました。
1.世帯収入は回復せず
多くの世帯が震災によって世帯収入の減少を経験し、現在も震災前の収入水準を回復できていませんでした。
平均世帯収入の推移
震災前 |
249万円 |
震災直後(仮設入居時) |
168万円 |
現在(調査時の収入) |
179万円 |
2.仮設入居後の健康状態の悪化
調査では、震災前後から現在までの健康状態の変化について質問しました。
その結果、「悪化」22人、「やや悪化」5人である一方で「改善」、「やや改善」は0人と全体の67.5%の世帯で健康を悪化させた世帯員がいることが分かりました。
震災後の健康状態の変化(n=40)
3.医療費減免措置終了後の医療サービス利用抑制
こうした経済的困窮のために、医療費減免措置の終了後、医療サービスの利用そのものを抑制したり、生活水準を下げたりするなどせざるをえなくなった被災者がおり、健康を悪化させてしまう例もありました。
医療費減免終了後の対応(n=23)
①通院の頻度を減らした |
8世帯 |
②他にかかる費用を減らした |
9世帯 |
③その他 |
6世帯 |
医療費の減免にどう対処したかについては、自由回答で具体的にどのように対応しているかを答えてもらっています。その中から、いくつかご紹介したいと思います。
①通院の頻度を減らした
・「病院にいく頻度を減らし、薬は1~2ヶ月分一気にもらうようにした。骨粗鬆症、脊椎の病気を持っている。様々な病気をもっているのに我慢し、圧迫骨折になり、通院を我慢した結果、骨粗鬆症になり、手術ができなくなり、痛み止めでごまかすしかなくなった。」
・「病院に行かなくなった。血圧の治療が必要だが全く通院していない。」
・「医療費を減らさざるを得ず、少し我慢し、歯医者を減らした。腰が悪く長くて15分しか歩けない」
②他にかかる費用を減らした
・「食費や公共料金を節約している。」
・「食料品、ガス、風呂を節約。風呂は週1回にすることもある。」
4.仮設を出た後も見通しの立たない住宅事情
また、仮設住宅を出た後の住居確保の見通しについても、経済的問題から、家賃の支払い等のあてがなく住居確保の見通しがない世帯が多数存在しました。また、見通しが立っていると回答した世帯にも、実際には復興公営住宅の抽選に外れた場合の見通しがないケースも見られました。
5.生活保護基準を下回る多くの世帯の存在
一方で、生活困窮者を支えるべき生活保護制度は利用されていないことが多く、被災者の中には利用に消極的な意識もみられるなど、制度的福祉が十分に生活を支える機能を果たしていないことも伺われました。
仮設住宅入居者の生活実態が厳しい状況にあるにも関わらず、最低生活を保障するための生活保護制度の利用を抑制し、厳しさを「我慢」しながら生活している傾向が明らかとなりました。
生活困窮時に生活保護を利用するか(n=40)
利用する |
17世帯(うち4世帯が最低生活費以下の収入にも関わらず、生活保護を利用していない) |
利用しない |
23世帯(うち5世帯が最低生活費以下の収入にも関わらず、生活保護を利用していない) |
※項目①で記載した最低生活費以下の12世帯(生活保護利用中の3世帯を含む)と、表6の但し書きの最低生活費以下の世帯数の合算9世帯が異なるのは、表6の但し書きには生活保護利用中の世帯を含んでいないためです。
※記者会見時の配布資料では内訳が間違っていたため訂正しております。
「利用しない」と答えた世帯の自由記述欄の理由は以下のように分けられます。
・「親族に迷惑がかかるから」7世帯、
・「行政の世話になりたくないから」7世帯
・「手続きが負担だから」3世帯
・「生活保護を利用することは恥ずかしいから」2世帯
・「その他」8世帯
以下には、具体的な回答をご紹介します。
・「どんなに貧乏をしても他人の世話にはなりたくない。」
・「家族に迷惑かけたくない。」
・「世の中の雰囲気が一番の理由。また、家族を頼れと言われるから。しかし父とは包丁を突きつけ合うような関係。だから絶対に無理。本当にのたれ死ぬような状況なら行くかもしれないけど。」
・「娘がいたりするから頼れと言われるけど、実際頼れない。頼ると家族崩壊につながる。息子も頼れないし、娘からは「嫁に行ったから両親の面倒は見ない」と言われており
その後、娘から絶交宣言をされている。誰にも迷惑かけたくない。」
入居者の生活実態から見えてくる社会保障の脆弱さ
今回の調査では、住宅保障の脆弱さや医療サービスの利用の困難さ、そして、生活保護の利用抑制などをもたらした制度的福祉の脆弱さという、現在の日本社会が抱える普遍的な問題が浮かび上がりました。
こうした客観的状況にありながらも4割の世帯が現在の生活に満足していると回答しています。これは、苦しい状況にありながらも、生活の向上が望めないがゆえに我慢や諦めという形で現状への「満足」を表明したものが多く含まれています(震災直後の屋根のない状況よりましだ、高望みしても仕方がない、というような趣旨の回答が目立っています)。
しかし、こうした「満足」や「我慢」は持続可能性が怪しいものです。持続可能な地域社会を形成するためにも、「自助」や「絆」ではなく、普遍的な福祉による対応が求められているのではないでしょうか。
なお、仮設調査の内容に関連し、このたび仙台POSSEでは数年間での被災地での支援の経験から、被災地から見える日本の普遍的な課題をより深く論じた『断絶の都市センダイ―ブラック国家・日本の縮図』(今野晴貴編著、朝日新聞出版)。本調査の結果も踏まえて、現在の被災地で問題になっていることとは何か、今後の復興政策や福祉政策はどうあるべきかについて論じています。5月20日に刊行予定です。ぜひご一読いただければ幸いです。
(Amazonにて注文が可能です。http://amzn.to/1qKdTC9)
※本調査結果に関しては、後日に詳細な報告書のインターネット上での公開を予定しております。
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