仙台POSSE(NPO法人POSSE仙台支部)活動報告

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「多様な正社員」実現のための二つの条件:朝日新聞「働く」今野インタビュー補足

2012-04-08 09:41:25 | お知らせ


若者が展望を持って働ける社会へ
~朝日新聞「働く」インタビュー補遺~


POSSE代表・今野晴貴


◆待遇は「非正規」の無期雇用の増大

 最近、有期雇用法案の絡みで、非正規雇用関連の取材や原稿依頼が増えて来た中で、あらためて日本の雇用政策がどうあるべきかを考えさせられている。

 特に有期雇用法案が、期間制限を越えた場合に、正社員化を義務付けていながら、既存の正社員と同じ待遇ではなくてよいとしている点が重要である。なぜなら、この条項は、非正規雇用だけではなく、正社員まで含めた問題を提起しているからである。つまり、非正規雇用並みの待遇の無期雇用、というカテゴリーの増大を意味する。この間政府の審議会でも、「正社員の多様性」は基本的なトピックの一つになり始めている。「正社員の多様化」には私も賛同する。


◆「多様な正社員」の二つの弊害

 問題は「正社員の多様化」の中身である。政府の審議会では、現状の「多様化」が労使の選択肢を増やすものと手放しで評価しているが、これは間違いである。主に二つの弊害がある。一つは、選択肢が増えるのではなく、一方的に厳しい条件が押し付けられているということである。もう一つは、福祉の脆弱性だ。

 第一に、正社員の変化が、80時間残業を含みこんでの「基本給」20万円や、若いうちにいくらサービス残業をしても給与はあがらず、使い捨てられるといった、ただ「低処遇」になったことを多様化ということはできない。金銭的な処遇が低くなることがまったく悪いわけではないが、同時に責任を低くすべきである。長時間労働で、昇給もなく働き続ければ、途中で立ち行かなくなる。身体を壊してしまうこともある。つまり、「使い捨て」である。これが第一の問題だ。残念ながらこれが「正社員の多様化」の大きな部分を占めているだろう。

 第二に、仮に「多様な正社員」の内容が、日本型雇用の変形として、年功賃金を伴わず、低処遇のままに、且つ勤務地などが限定され、責任も低く、過労死の危険も少ない正社員の場合があるとしよう。この場合には、まさに「低処遇」故に、家族を構成し、世代を再生産できないという問題が生じる。実際、こうした低処遇の正社員、つまり「限定正社員」こそが、政府の審議会で念頭にある「多様な正社員」の像であろう。そして、今回の有期雇用法案で念頭におく、正社員転換は、まさにこうした「限定正社員化」であるものと考えられる。だが、この賃金では単身者はよくても、世帯の維持はできないしたがって、「限定正社員」という新しい働き方、多様な正社員が可能になるためには、低処遇でも世帯を構成し、世帯を再生産するだけの基本的福祉政策が必要だということである。この間つとに思っていることは、何でも雇用の「待遇」の問題ではないということ。福祉プラス雇用で再生産できればよいからだ


◆「多様な正社員」を現実的なものにする二つの条件

 以上をまとめると、非正規雇用改革と連動する「多様な正社員」という雇用モデルを現実的なものとするためには、二つの課題がある。第一に、低処遇の条件が、責任の緩和、言い換えると「指揮命令権の限定」と結合することである。第二に、低処遇でも世帯を構成するために、福祉政策が拡充されることだ。私のイメージでは、この二つの条件を満たす内容は次のようなものになる。労働に関しては、「いじめない」「簡単にはやめさせない」「過労死ラインの長時間労働はさせない」「違法行為はしない」、これだけ。極めて低いもの。そして福祉に関しては住居、医療、教育が現物・無料が十分生活できる。

 実際、私たちがうける労働相談は、処遇の水準に関するものはほとんどない。若者が今、何に困っているか? と問われれば、一言で言って「この先どうなるかわからない」ことである。会社では「何をされても仕方ない」ことが、一番の恐怖なのだ。だから、「いじめない」「やめさせない」を社会のルールとするだけだけで、今とは全く違う社会を想定することができる。「いじめない」「やめさせない」を守らせ、その代わりに低処遇であっても、何とか雇用をつなぐ。これで足りないところは国家が福祉で補う。このくらいのコンセンサスがとれないものだろうか? これだけで、若者は将来を見据えて生活を建設し、子供を育てることができるようになるはずである。


◆雇用・福祉のモデルと、担い手の転換を

 このまま「先が見えない」中で一段と少子化が進めば、社会保障費と現役世代のバランスがさらに崩れ、財政もますます危機へと落ち込んでいく。ここで世代を再生産できるように思い切って転換した、「雇用と福祉のモデル」を構築するしかないのだ。それだって効果は20年後。すでに遅すぎるくらいである

 さらにいうと、このモデルが今、もっとも実現できる可能性があるのは被災地である。なぜなら、被災地では被災者限定ではあるが仮設住宅として住居が保障されている。だから、被災者の生活再建を低処遇かつ長期雇用、加えて住居保障で実現するならば、新しいモデルのさきがけとなるだろう。被災地でのこうした雇用と福祉モデルの実現の鍵を握るのは、間違いなく地元企業である。特に、中小企業。彼らにとっても、低処遇で長く働いてもらって、かつ従業員がまともな暮らしができることは、望ましいことのはずだ。だから、いっしょになって政府に福祉政策を提言する側にまわってほしい。

 地元企業が「いじめない」「やめさせない」低処遇を堅持し、政府に福祉を被災者と共に要求する。こういう構図にできないものだろうか。ながらく日本は福祉を要求する勢力が不在であった。企業福祉と企業補助金が「充実」していたからだ。だが、低処遇正社員と中小企業には福祉こそが必要である。こうした「現実感」の下に、新しい政策推進の連帯=非正規・低処遇正社員・中小企業、という構図をつくれないものだろうか。いずれにせよ、有期雇用改革を考える中では正社員の変化、福祉の充実、これらを実現する新しい政策推進の社会的連帯、といった問題まで含みこんで考える必要がある。


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今野晴貴のツイッターでの発言を、修正の上まとめました。
今野の発言は、( @konno_haruki )でご確認ください。
朝日新聞のインタビューについては、http://blog.goo.ne.jp/sendai-posse/e/78286b96933fae7e6e1f36e0b231db7cをご覧ください。

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