このたび仙台POSSEでは、震災復興支援を通じて見えてきた実態を報告し、いま必要とされている制度や支援の在り方を考えるために『断絶の都市センダイ ブラック国家・日本の縮図』を上梓いたしました。書店には5月21日から並び、地元仙台の書店でもフェアを企画していただくなど、多くの反響をいただいております。
そこで今回は、本書の内容について簡単にご紹介しようと思います。
本書の目次は以下の通りです。
目次
序章 「ブラック国家」とは何か?
第 1章 3.11後の悲惨
第 2章 吸い取られた義援金 ――福祉不在の「絆」の構造
第 3章 被災地を食いつぶす「復興予算」と「支援ビジネス」
第 4章 虚構の求人倍率と不可能な自立要求
終章 仙台からのオルタナティブ
あとがき
各章は次のような内容となっています。
序章では現場の実態から調査を通じ、普遍的な社会制度や支援の課題を提起するという本書のスタイルについて説明しています。その際、キーワードになるのは「ブラック国家」という捉え方です。ブラック国家は、もはや国内における財の再配分を目指さず、外資や大企業に集中的な税金を投入することで「成長」を実現しようとします。さらにブラック国家は、無理な条件のもとで人々に「自立」を強制し、最終的には社会を解体させてしまいます。「ブラック国家」は被災地に限定された問題ではなく、日本社会全体が抱える構造的な課題を指摘したものなのです。
第1章では、被災地で支援活動を行う中で仙台POSSEが出会った具体的な事例を紹介し、「自立」「絆」の掛け声のもとで被災者がかかえる生活の困難と課題の実態を明らかにしています。
続く第2章では具体的な事例を排除の4つの局面として整理し、普遍的な福祉が存在しない中で抽象的に語られる「絆」に依存する社会の問題点を指摘しました。
第3章は、巨額の復興予算の使われ方に着目し、ジャーナリストのルポ、各種のメディア報道、研究者の論文等を参照しながら、大規模な予算がむしろ被災地の地域と人々の生活を壊すように機能してしまっている構図を明らかにしました。また、自分たちの都合や利益を優先し、住民の生活再建に関心を持たない、「ビジネス化」した支援の問題も取り上げました。
第4章は、被災者の生活自立のカギとされている雇用の問題に目を向け、有効求人倍率だけでは分からない雇用の実態を論じました。また、ブラック企業としての責任を裁判で訴えた「東北医療器械」事件の当事者の方のインタビューも交え、被災者の生活の安定のためにはブラック企業をなくし雇用の質を改善することが重要であると論じています。
終章は「仙台からのオルタナティブ」と題し、仙台市で「ブラック国家」の論理を乗り越えようとする実践が生まれていることを紹介しています。
POSSEは東日本大震災以降、被災者の方に対する送迎支援、就労支援、就学支援などをおこなう中で、ブラック国家の論理と実践の中で格闘してきました。特に就労支援では、仙台市の生活再建支援室と協働し、劣悪な雇用に対処し、生活再建を目指す、以下のような特徴を持った取り組みを行っています。
①劣悪な雇用に飛びつかないように生活環境を整える「生活支援」
②仕事に就くために必要なスキルを身につけたり、労働問題に直面した際に適切に対処したりすることができるような知識を身につける「就労支援」
③終了後のトラブルに対応するための「労働相談」
こうした総合的な支援のあり方は、生活困窮者自立支援法の枠組みで今後行われていく「自立支援」のあるべき姿を考える上でも重要です。
仙台市では、行政と協力してこうした支援を行っているのはPOSSEだけではありません。
本書では他にも、「福祉削減」に抗し、一人一人に即したきめ細かな支援を行っているパーソナルサポートセンター(PSC)の事例を紹介しています。
被災地では国の社会保障・地方行財政政策の「ブラック国家」化や震災復興の「ビジネス化」により様々な困難が生じています。こうした実態を、被災地外の方にもぜひ知っていただき、その解決のために何が必要なのかを考えていただければ幸いです。
また、仙台では行政やNPOなど多くのアクターが協力して「ブラック国家」や支援の「ビジネス化」の論理を乗り越えていこうとしており、全国的にみても先駆的な「仙台モデル」をつくりだそうとしています。本書はそうした実践の意義と課題を全国的に発信することも目標としています 。
先に述べた仙台市における就労支援の取り組みは、もともと仙台市生活再建支援室から「就労支援を行ってほしい」と打診を受けたことがきっかけでした。その問題意識には、就労支援が「ビジネス化」した支援にならないようにしなければならないというニュアンスが感じられました。実際に就労支援が始まってからも、POSSEと生活再建支援室はケース検討会議を月に一回開き、密度の高い連携を行っています。ともすれば就職率だけが重視されがちな就労支援の枠組みの中で、生活支援や労働相談なども含み込んだきめ細かな支援を行えたのは、生活再建支援室をはじめとした仙台市職員の方々の熱意と問題意識があったからこそです。
私たちが、本書で述べている「ブラック国家」や支援の「ビジネス化」に代わるあるべき支援のイメージに確信を持つことができたのも、こうした仙台市の方々との連携と協働の取り組みがあったからです。その意味で、本書の内容は仙台市での連携の中で見出したものだといえます。
もちろん、こうした取り組みはまだまだ端緒についたばかりです。今後も仙台POSSEは仙台市をはじめ行政とのさらなる連携によって、取り組みをさらに発展させ、仙台からのオルタナティブを全国に広げていくつもりです。
ぜひ多くの方に本書を読んでいただき、「ブラック国家」を乗り越えるために必要な社会制度、支援のあり方を考えるうえで少しでもお役に立てれば望外の喜びです。
(仙台POSSE事務局)
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