こんなのを見つけた。
『もし恋愛相手がタモリの少女漫画があったら』
タモリのために、いろいろなほんとにいろいろな知識を身につけよう、
と努力するヒロイン。しかしありとあらゆる分野に関してタモリが持つ
底知れない情報量は、次第に彼女を追い詰めていった。
「だから、さしすせそだけじゃ足りない料理の隠し味は・・・あはっ」
「どうしたの?」
「・・・あたし、ちょっと疲れちゃったかも」
涙目のヒロインに、タモリは初めて、
どうしたらいいかわからない、という気持ちを覚える。
いつもの約束の場所に、彼女はいつもどおり現れるだろうか?
不安になってタモリは尋ねる。
「・・・明日、来てくれるかな」
~@~@~@~
夕暮れ時の土手。
付き合うことになって、初めての放課後デート。
家までのほんの少しの距離を遠回りして、
ふたりならんで川面を眺める。
ヒロイン「あのね」
タモり 「んー?」
ヒロイン「・・・カズヨシ、って呼んでも、いい?」
夕映えに照らされたからだけでなく、紅く染まるヒロインの頬。
タモりの小さな目が、サングラスの向こうでやさしく微笑む。
「いいとも」
~@~@~@~
あとからじんわりと来る。
これを読んで川上弘美の「センセイの鞄」を思い出した。
以下立ち読みより引用。
センセイの鞄
月と電池
正式には松本春綱先生であるが、センセイ、とわたしは呼ぶ。
「先生」でもなく、「せんせい」でもなく、カタカナで「センセイ」だ。
高校で国語を教わった。担任ではなかったし、国語の授業を特に熱心に聞いたこともなかったから、センセイのことはさほど印象には残っていなかった。卒業してからはずいぶん長く会わなかった。
数年前に駅前の一杯飲み屋で隣あわせて以来、ちょくちょく往来するようになった。センセイは背筋を反らせ気味にカウンターに座っていた。
「まぐろ納豆。蓮根のきんぴら。塩らっきょう」カウンターに座りざまにわたしが頼むのとほぼ同時に隣の背筋のご老体も、
「塩らっきょ。きんぴら蓮根。まぐろ納豆」と頼んだ。趣味の似たひとだと眺めると、向こうも眺めてきた。どこかでこの顔は、と迷っているうちに、センセイの方から、
「大町ツキコさんですね」と口を開いた。驚いて頷くと、
「ときどきこの店でお見かけしているんですよ、キミのことは」センセイはつづけた。
「はあ」曖昧に答え、わたしはセンセイをさらに眺めた。ていねいになでつけた白髪、折り目正しいワイシャツ、灰色のチョッキ。カウンターの上には一合徳利とさらしくじら一片の載った皿ともずくが僅かに残った鉢が置いてある。さても肴の趣味の合うご老体だと感心しているうちに、高校の教壇に立っていた姿をかすかに思い出した。
センセイは必ず黒板拭きを持ちながら板書した。『春は曙。やうやう』などとチョークで書き、五分もたたない間にすぐさまぬぐってしまう。生徒に向かい講義する間も、黒板拭きを離さなかった。黒板拭きの帯は、センセイの筋ばった左手の甲にはりついているように見えた。
「キミは女のくせに一人でこういう店に来るんですね」センセイはさらしくじらの最後の一片にしずしずと酢味噌をからめ、箸で口に持っていきながら言った。
「はあ」ビールを自分のコップにつぎながら、わたしは答えた。高校時代の先生だったことは思い出したが、名前が出てこなかった。よくも一生徒の名なぞ覚えているものだとはんぶん感心、はんぶん困惑しながら、ビールを干した。
「あのころ、キミはおさげにしていたでしょう」
「はあ」
「店に出入りするキミに見覚えがあったので」
「はあ」
「キミは今年三十八になるんでしたね」
「今年いっぱいはまだ三十七です」
「失敬、失敬」
「いいえ」
「名簿とアルバムを見て、確かめました」
「はあ」
「キミは顔が変わりませんね」
「センセイこそお変わりもなく」名前がわからないのをごまかすために「センセイ」と呼びかけたのだ。以来センセイはセンセイになった。
その夜は日本酒を二人で五合ほど飲んだ。代金はセンセイが払った。次に同じ店で会って飲んだときには、わたしが勘定をした。三回目からは、勘定書もそれぞれ、払うのもそれぞれになった。以来そのやりかたが続いている。往来が途切れずに続いているのは、センセイもわたしもこういう気質だからだろう。肴の好みだけでない、人との間のとりかたも、似ているのにちがいない。歳は三十と少し離れているが、同じ歳の友人よりもいっそのこと近く感じるのである。
やばい・・・。
タモリが好きになりそうだ。
『もし恋愛相手がタモリの少女漫画があったら』
タモリのために、いろいろなほんとにいろいろな知識を身につけよう、
と努力するヒロイン。しかしありとあらゆる分野に関してタモリが持つ
底知れない情報量は、次第に彼女を追い詰めていった。
「だから、さしすせそだけじゃ足りない料理の隠し味は・・・あはっ」
「どうしたの?」
「・・・あたし、ちょっと疲れちゃったかも」
涙目のヒロインに、タモリは初めて、
どうしたらいいかわからない、という気持ちを覚える。
いつもの約束の場所に、彼女はいつもどおり現れるだろうか?
不安になってタモリは尋ねる。
「・・・明日、来てくれるかな」
~@~@~@~
夕暮れ時の土手。
付き合うことになって、初めての放課後デート。
家までのほんの少しの距離を遠回りして、
ふたりならんで川面を眺める。
ヒロイン「あのね」
タモり 「んー?」
ヒロイン「・・・カズヨシ、って呼んでも、いい?」
夕映えに照らされたからだけでなく、紅く染まるヒロインの頬。
タモりの小さな目が、サングラスの向こうでやさしく微笑む。
「いいとも」
~@~@~@~
あとからじんわりと来る。
これを読んで川上弘美の「センセイの鞄」を思い出した。
以下立ち読みより引用。
センセイの鞄
月と電池
正式には松本春綱先生であるが、センセイ、とわたしは呼ぶ。
「先生」でもなく、「せんせい」でもなく、カタカナで「センセイ」だ。
高校で国語を教わった。担任ではなかったし、国語の授業を特に熱心に聞いたこともなかったから、センセイのことはさほど印象には残っていなかった。卒業してからはずいぶん長く会わなかった。
数年前に駅前の一杯飲み屋で隣あわせて以来、ちょくちょく往来するようになった。センセイは背筋を反らせ気味にカウンターに座っていた。
「まぐろ納豆。蓮根のきんぴら。塩らっきょう」カウンターに座りざまにわたしが頼むのとほぼ同時に隣の背筋のご老体も、
「塩らっきょ。きんぴら蓮根。まぐろ納豆」と頼んだ。趣味の似たひとだと眺めると、向こうも眺めてきた。どこかでこの顔は、と迷っているうちに、センセイの方から、
「大町ツキコさんですね」と口を開いた。驚いて頷くと、
「ときどきこの店でお見かけしているんですよ、キミのことは」センセイはつづけた。
「はあ」曖昧に答え、わたしはセンセイをさらに眺めた。ていねいになでつけた白髪、折り目正しいワイシャツ、灰色のチョッキ。カウンターの上には一合徳利とさらしくじら一片の載った皿ともずくが僅かに残った鉢が置いてある。さても肴の趣味の合うご老体だと感心しているうちに、高校の教壇に立っていた姿をかすかに思い出した。
センセイは必ず黒板拭きを持ちながら板書した。『春は曙。やうやう』などとチョークで書き、五分もたたない間にすぐさまぬぐってしまう。生徒に向かい講義する間も、黒板拭きを離さなかった。黒板拭きの帯は、センセイの筋ばった左手の甲にはりついているように見えた。
「キミは女のくせに一人でこういう店に来るんですね」センセイはさらしくじらの最後の一片にしずしずと酢味噌をからめ、箸で口に持っていきながら言った。
「はあ」ビールを自分のコップにつぎながら、わたしは答えた。高校時代の先生だったことは思い出したが、名前が出てこなかった。よくも一生徒の名なぞ覚えているものだとはんぶん感心、はんぶん困惑しながら、ビールを干した。
「あのころ、キミはおさげにしていたでしょう」
「はあ」
「店に出入りするキミに見覚えがあったので」
「はあ」
「キミは今年三十八になるんでしたね」
「今年いっぱいはまだ三十七です」
「失敬、失敬」
「いいえ」
「名簿とアルバムを見て、確かめました」
「はあ」
「キミは顔が変わりませんね」
「センセイこそお変わりもなく」名前がわからないのをごまかすために「センセイ」と呼びかけたのだ。以来センセイはセンセイになった。
その夜は日本酒を二人で五合ほど飲んだ。代金はセンセイが払った。次に同じ店で会って飲んだときには、わたしが勘定をした。三回目からは、勘定書もそれぞれ、払うのもそれぞれになった。以来そのやりかたが続いている。往来が途切れずに続いているのは、センセイもわたしもこういう気質だからだろう。肴の好みだけでない、人との間のとりかたも、似ているのにちがいない。歳は三十と少し離れているが、同じ歳の友人よりもいっそのこと近く感じるのである。
やばい・・・。
タモリが好きになりそうだ。