へーちょうなんだ。

ときどき書きます。
4コマ漫画「こねことへんないきもの」略して「こねへん」れんさいちゅう。

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小説「オレンジジュース」

2012-07-01 02:48:01 | にっき
「こんにちは」
「誰だい、幽霊か?」
「わたし、あなたが作ったキャラクターよ。忘れたの?」
「忘れた。作者の僕が忘れたのに、君は生きているんだな」
「だってあなた、書いたじゃない。わたしのこと、紙の上に。それが消えない限り、わたしずっと生き続けるわ。幽霊みたいね」
「消しゴムはどこだったかな」
「まってよ!わたし、あなたのこと呪いにきたんじゃないよ。お礼を言いにきたの」
「お礼?」
「オレンジジュース」
「洒落か?」
「オレンジジュース、わたし、大好きなの。あなた、自分がオレンジジュース大好きだから、わたしもオレンジジュース大好きってことにしたでしょう。おかげでわたし、あんなにおいしいものを好きでいられるの」
「なんだか、結果と原因が逆さまみたいだ」
「わたしとあなた、どっちも卵でどっちもにわとりなのよ。あなた、わたしを作ってから、ポニーテールが好きになったでしょう」
「かもな」
「わたし、色んなことを考えたよ。今は人物像だけだけどいつかわたしも何かのお話に放り込まれて、大冒険をしたり、大恋愛をしたりするのかな、って。わたしね、あなたが本を読むたびに、その本の中に自分が登場するのを空想したよ。あなた、きっと驚くかなって、自分の作ったキャラクターが、どうしてここに?なんて」
「それはね、僕も空想したよ。自分だったらこのお話をこんな人物で、こんな語り口で書くだろうな、って」
「だけど、一度もわたしは物語の中には出ていけなかった」
「……すまない」
「うらんでなんかないよ。わたしは、あなたが思いついて、でも紙にすら書かなかった何万もの人たちに比べたらずっと幸せだから。これまでずっと生きてこれたんだから」
「だけど…」
「約束して」
「約束?」
「あなたの書いたものは、たとえ誰にも読まれなくても、誰にも理解されなくても、ずっとずっと残り続けるの。いつか消えてなくなるまで、文字の上にずっと。忘れるなとは言わない。ただ、消えていくあなたの思念や感動や言葉を、どこか消えてしまった文字の彼方から見守り続けている人は、確かに存在するんだよ。だから、諦めないで」
「……」
「わたし、あなたのこと、けっこう好きなんだよ」
「そんなくだらない設定は作らなかったはずだ」
 僕の呟きは何もない虚空に消えていく。白紙のメモ帳だけが机の上に残っている。
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