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パイロット養成講座

多くの機長、副操縦士を育てた坂井優基が、パイロットになろうとする人や訓練生に送るアドバイス

4000Mの滑走路は必要か

2011-01-30 | その他
KNさんの質問に答えて

KNさんの質問

大型機の長距離便で必要離陸滑走路長が4,000m近くに算出されるケースは実際にあるのでしょうか?
書籍やネットであちこち調べたのですが、最大離陸重量の747-400の場合、
無風、海面、15℃、勾配なし、路面ドライの時の理想的な条件下で約3,300~3,580m程度。
と書かれている資料はいくつか見つけることができたのですが、
理想通りではない実際の運航で算出される数字は見つけることができませんでした。
路面がドライとウエットではどの程度差が出るものなのか、
また、例えば成田や関空の4,000mという長さが本当に必要なのか、気になって質問させて頂いた次第です。

答え
一言でいってしまえば必要だと思います。
大型機の場合、当然ですが必要離陸滑走路長に満たない場合は、満たすように燃料や貨物を減らします。
短い滑走路からでも離陸できますが、そのときは燃料を減らしたり、貨物を減らしたりしています。
特に燃料を積めないと、ヨーロパなどで目的地の天気が悪く本当はもっと燃料を積みたいのだけれど、余分に積む余裕がないために余裕を減らすことにつながります。
ジェットエンジンは空気の温度が上がるととたんに推力が減少します。また空気密度が小さいとその分、物理的に加速しないと同じ対気速度が得られません。成田では気温35度を超すこともありますし、このときの滑走路上の温度は実際はもっと高い温度です。気温40度以上になるとかなりの滑走距離が必要になります。

また、一番クリティカルなのは離陸して浮き上がるときではなく、滑走路が雪や氷で覆われた状態で、V1直前で離陸中止をするときです。このような時は考えられないような距離が必要になります。
当然このときはV1をかなり遅い速度に設定しますので、もしV1直後にエンジンが故障したらそこからVRまで加速するのにかなりの滑走路長を必要とします。
つまり滑走路が雪氷状態のときに便が出発できるのかどうかが、かなりかわります。

またボーイング系の飛行機は、離陸推力を段階的に選んでその離陸滑走路長を出しますが、エアバス系は違います。滑走路の長さに合わせて推力を決めます。滑走路が長ければ長いほど離陸推力を下げることができます。(当然限界はあります)エンジン推力を下げて離陸すればエンジンの寿命を延ばすのとともに、エンジン故障の確率を下げることができます。A380などにはこのファクターは重要です。

その他にもFLAPが故障してまったくでなくなった場合にはNO FLAP LANDINGを余儀なくされます。このような場合進入速度が非常に速くかつ着陸後も抵抗が少ないために、着陸距離が非常に長くなります。さらに雪などがあった場合には、とてつもない距離が必要です。
関東と関西両方に長い滑走路があることは十分に意義があることかと思います。


KNさんはそういう意図ではないと思いますが、滑走路が乾いていて、機体もまったく故障がない最良状態だを考えて、長い滑走路は必要がないという論理を展開すると、最悪のケースが起きた場合に事故につながる気がします。

正直、今の羽田の滑走路はヨーロッパ向けの長距離機には、状況によってはかなりきつくなる気がします。


2 コメント

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ありがとうございました! (KN)
2011-01-31 20:47:05
突然の質問にも関わらずこんなに早く、そしてこれほど丁寧にお答えを頂いたことに感激致しております。
十分必要な長さを確保することは非常に重要なことなのですね。
本当にありがとうございました。
これからも拝見させていただきます。
返信する
Unknown (Yuuki)
2011-01-31 22:42:12
KNさんこんばんは
とんでもありません。こちらこそ質問ありがとうございました。
KNさんの質問のおかげで多くの方がいろいろなことの理解を深められたかと思います。また私もパイロットからの意見を書くことができました。
ぜひ、これからも質問をお願いいたします。
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