the Saber Panther (サーベル・パンサー)

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新記載の巨大シミター型・剣歯猫「アデイロスミルス」 & 〈解説〉現行のマカイロドゥス亜科の分岐系統

2023年12月18日 | ネコ科猛獣の話

新記載のシミター型・剣歯猫「アデイロスミルス」(巨大種)  〈最新〉マカイロドゥス亜科の分岐系統

 

(図)中新世後期のアフリカ中部・チャド・トロス・メナーラの主な動物相(旧作)
イラスト Images by ©the Saber Panther(All rights reserved)

Species
From front to back:

イクティテリウム属種 Ictitherium ebu

アデイロスミルス属種(真ん中のネコ科猛獣) Adeilosmilus kabir

ディノフェリス属種 (樹上のネコ科猛獣) Dinofelis sp.

ゴンフォテリウム属種 Gomphotherium sp.

デイノテリウム属種 Deinotherium bozasi

パレオトラグス属種 Palaeotragus germaini

インパラ Aepyceros premelampus

 


解説
マカイロドゥス亜科・シミターネコ群の分類刷新 現状

アフリカ中部の国、チャドの中新世後期地層(トロス・メナーラ)で化石が出た巨大なシミター型剣歯猫、アンフィマカイロドゥス・カビール(当復元画)について、かつて詳述しましたが、ご記憶の方もいらっしゃるでしょうか。

Peigne, et al.(2005)が本種を初めて記載した当初の分類はマカイロドゥス属(マカイロドゥス・カビール)でしたが、後年のマカイロドゥス亜科の分岐系統の刷新を経て、アンフィマカイロドゥス属に帰属し直された経緯があります。このブログの読者には説明不要でしょうが、一応述べておくと、これは中新世中期のシミターネコ標本群をマカイロドゥス属、同後期の標本群をアンフィマカイロドゥス属に区別することとなったためです。

一方、近年の中国とアフリカにおけるシミター型剣歯猫の相次ぐ新種発見を受けて、シミターネコ群の分岐系統の刷新が進展しており、後で詳しく解説しますが、カビール種の分類についても再度見直しがなされています(アデイロスミルス属となった)。

Christiansen(2013)の記念碑的な分岐系統研究以来、アンフィマカイロドゥス属から更新世ホモテリウム属に及ぶシミターネコ群を、「Homotherini(ホモテリウム族)」として表形分類することはご存じかもしれません。それ以降も剣歯猫タクソンの形質特徴マトリクス(=データセット)には補強が重ねられ、マトリクスに基づく系統樹の作成にも、改編が見られます。

直近のJiangzuo (北京大学教授)et al.(2022)の分類研究では、マカイロドゥス属をシミターネコ群の基底に置き(Christiansen(2013)ではマカイロドゥス属が外群基底剣歯猫に位置づけられ、後続のシミターネコ群との繫がりが否定されていたものが、現行の分類では改められた、わけですね)、ロコトゥンジャイルルス属、アンフィマカイロドゥス属、アデイロスミルス属、タオウ属、そして最後期のアドヴァンス型タクソンである、ホモテリウム属、ゼノスミルス属、イシロスミルス属までを「Machairodontini(マカイロドゥス族)」のもと下位分類し、さらに更新世のアドヴァンス型タクソンは単系統群、「Homotheriina(仮に、ホモテリウム亜族、と訳しておきましょうか)」のもと、纏める分類法が提起されています。

整理しますと、Christiansen(2013)ではマカイロドゥス属を除くシミターネコ群を「ホモテリウム族」として表形分類していたものを、Jiangzuo et al.(2022)はマカイロドゥス属と新発見のタクソンを含めて「マカイロドゥス族」として拡張したうえ、更新世の3属(ゼノスミルス属+イシロスミルス属+ホモテリウム属)を単系統群、「ホモテリウム亜族」としてクラスターした、ということ。

下に、Jiangzuo et al., 2022に基づく最新の剣歯猫分岐系統樹(シミターネコ群のみ)を示します。

Machairodontini
マカイロドゥス族  (シミターネコ群)
 
 
 
 
 Homotheriina
ホモテリウム亜族 
 
 

 Xenosmilus(ゼノスミルス属)

 
 

 Ischylosmilus(イシロスミルス属)

 
 
 

 Homotherium(ホモテリウム属)

 
 
 
 
 
Taowu(タオウ属)
 
 
 

 Adeilosmilus(アデイロスミルス属)

 
 
 

 Amphimachairodus(アンフィマカイロドゥス属)

 
 
 

 Lokotunjailurus(ロコトゥンジャイルルス属)

 
 
 

 Machairodus(マカイロドゥス属)

 

 

アデイロスミルス・カビールについて
マカイロドゥス亜科の最新の分類について足早に学んだところで、ここからはカビール種に話を移しましょう。


単刀直入に書きますが、Jiangzuo & Werdelin(2022)の再分析を経て、カビール種の歯(第三小臼歯、第四小臼歯、第一裂肉歯)や下顎形質が、アンフィマカイロドゥス属よりも後続のホモテリウム属に近似していることが判明しております。アンフィマカイロドゥス属の段階よりも明瞭にアドヴァンス型であるため、「ホモテリウム亜族」の近傍に置かれる新しい属、「アデイロスミルス属」が提起され、アデイロスミルス・カビール(Adeilosmilus kabir)として再分類されるに至っています。


マカイロドゥス・カビール ➡ アンフィマカイロドゥス・カビール と分類が変遷し、現行の分類では、アデイロスミルス属に帰属することで落ち着いた、ということ。

私はこの分類見直しを受けて、「剣歯猫屈指の巨大種」といわれる本種のサイズについて、Peigne et al.(2005)のオリジナルの学術論文(タイトルは巻末に明記)をあらためて紐解き、再確認することにしたのですが、以下のように思わぬ発見がありましたので、以下、主にサイズと形質についてですが、述べてみます。

本種の化石標本としては、P3(第三小臼歯)、P4(第四小臼歯)、M1(第一裂肉歯)を含む下顎と頭蓋の一部、下顎犬歯、および骨端を含む上腕骨の一部が見つかっています。完全な上腕骨が出ている他の剣歯猫(アンフィマカイロドゥス・ギガンテウス、ホモテリウム・ラティデンス)の上腕骨骨端幅とfunctional length ('FctL'→上腕骨関節面の間の長さ)の比率に基づく本種の推定FctLは、413㎜~423㎜(現生ライオンとトラの上腕骨比率に基づくFctLも出されていますが、マカイロドゥス亜科(剣歯猫群)とヒョウ属の種類は分岐系統・形質ともに異質であって、全く無関係とはいわないまでも、対象外でしょう)。Peigne et al.(2005)は上腕骨全長については言及しておりませんが、剣歯猫の上腕骨プロポーションでは、FctLは骨端部位も含む上腕骨全長の0.93程度になるといいますから、カビール種の上腕骨全長は推定、450㎜超に達するわけです。

現生雄ライオンの上腕骨全長が300~350㎜、更新世の巨大ヒョウ属種、アメリカライオン(Panthera atrox)の既知の最大の上腕骨全長が409㎜であることを鑑みれば、これがいかに大きいか実感されようというもの。もっとも、その著しい長さと対照的に、本種の上腕骨骨端幅は107㎜であり、現生のヒョウ属種と比べて、相対的に細身の剣歯猫との表現が強調されています。ただこれは、その著しい肢の長さからすれば、相対的に細身という見方ができるということで、例えばアメリカライオンの既知の上腕骨骨端幅の範囲は85.7~111.3 mmであり、実はカビール種の骨端幅も、遜色ないことがわかります。

 
なぜにPeigne et al.(2005)が「FctL」を求めたかというと、Anyonge(1993)作成の、FctLを予測子にする回帰分析の方程式を採用して、ネコ科種の推定体重を算出するため。その結果、カビール種の推定体重は350~490kg(有名な推定値ですよね)と出ましたが、Anyonge(1993)が述べているように、肢長骨の周囲(circumference)や骨面(cortical area)なども対象にして平均値を求めるほうが、推定体重の確実性が増すし、FctLのみを用いた推定体重は、過小になる傾向があるといいます※。

※(この点について、Peigne et al.(2005)の実際の言及を引用します→'It is worth noting, however, that Anyonge indicates that the humeral length is not a good predictor of body mass, and it produces indeed the lowest estimates for all extant species included in his study')

しかも、カビール種の化石記録は断片的であるため、現状では雌雄の別も分からない。これらを踏まえてPeigne et al.(2005)は、今後の化石記録の充実に伴い、推定体重範囲はより拡大するだろう、と述べています。実際、それを裏付けるかのように、Peigne et al.(2005)が論文を出した翌2006年には、Sardella et al. (2006)がアフリカ北部・リビアの中新世-鮮新世境界の地層から新たなカビール種の頭蓋、下顎の一部の発見を報告し、この標本のM1はトロス・メナーラ標本のそれを上回る大きさ※だったのです。

※(Peigne et al.(2005)報告のトロス・メナーラ標本のM1長=34.7㎜、幅=13.7㎜、対してSardella et al.(2006)報告のリビア標本のM1長=36.4㎜、幅=14㎜。つまり、リビア標本はもっと大きな個体に属する可能性がある。

とはいえ、この2006年以降、カビール種に帰属される化石は2023年にランジバーンウェグ(南アフリカ)で左上顎犬歯と下顎の一部が出ている(Jiangzuo et al., 2023)のみなので、「化石記録の充実」とは程遠い状況が続いています)



中新世後期の巨大シミターネコ群
上腕骨長に関しては、2021年に新記載の巨大剣歯猫、アンフィマカイロドゥス・ラハイシュププAmphimachairodus lahayishupup)の上腕骨全長がやはり460㎜にもなるということで、当時私も、復元画とともに詳解したものです。

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今回、古い学術文献を探りなおしてみたことで、カビール種の長骨寸法についても、同等であることが分かりました。中新世後期のシミターネコ群の大型種(アンフィマカイロドゥス属とアデイロスミルス属の最大種)というのは、ボディーダイメンジョン(体高×体長)に関してはネコ科史上、最大級になったであろうことが、見えてきましたね。


(図)アデイロスミルス・カビール Adeilosmilus kabir
イラスト Images by ©the Saber Panther(All rights reserved)


なお、このカビール種の復元画についてですが、これは結構古いもので、発表当時はまだ「マカイロドゥス属の大型種」という認識だったのが、上述のように本種は「ホモテリウム属により近縁」という位置づけとなっているので、ポストクラニアルについては不明とはいえ、尾をホモテリウム的に短く修正しておきました。いずれにせよ、またしっかり描き直すつもりです。

 

参照学術論文
(Peigne et al., 'A new machairodontine (Carnivora, Felidae) from the Late Miocene hominid locality of TM 266, Toros-Menella, Chad', 2005) 
 
(Sardella et al., 'Amphimachairodus (Felidae, Mammalia) from Sahabi (Latest Miocene-Early Pliocene, Libya), with a review of African Miocene Machairodontinae', 2006)
 
(Jiangzuo et al., 'A dwarf sabertooth cat (Felidae : Machairdontinae) from Shanxi, China, and the phylogeny of the tribe Machairodontini', 2022)
 
(Jiangzuo et al., 'Langebaanweg's sabertooth guild reveals an African Pliocene evolutionary hotspot for sabertooths (Carnivora; Felidae)' , 2023)

 

イラスト&文責  Images and text by ©the Saber Panther(All rights reserved)

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