the Saber Panther (サーベル・パンサー)

トラディショナル&オリジナルの絵画芸術、化石哺乳類復元画、英語等について気ままに書いている、手書き絵師&リサーチブログ

『バトル・ビヨンド・エポック』其の十一 魁偉❕ 10トン級・竜王と獣王 (アジアステップマンモス(松花江マンモス)♦ トリケラトプス類 ♦ エラスモテリウム INTERACTIONS)

2022年06月03日 | 中 / 新 生代インタラクション 特集(期間限定シリーズⅢ)

Battle Beyond Epochs  Part Ⅺ 

魁偉❕ 10トン級・竜王と獣王

A dozen tonnes Behemoths!  The Greatest Herbivore Showdown

中生代と新生代最もアイコニックな草食動物角竜類マンモスその最大種







ご覧いただいているのは、更新世中期、およそ28万年前の中央アジア北部、現在のカザフスタンに該当する地域に展開していた大平原、いわゆる「マンモスステップ」における情景です。

 
アジアステップマンモス(同時代、および更新世後期初頭まで中国北部に分布した、「松花江マンモス」と同じ種類)と、そのコンテンポラリーの巨犀、「Giant Unicorn 大一角犀」ことエラスモテリウム・シビリクムの群れとが、同じ索餌場で草を食んでいます。すると、平穏な雰囲気を破るように、血気盛んな一頭の雄のステップマンモスがエラスモテリウムに近づき、長鼻で器用に掴んだ木片を投げつけるなどちょっかいを出していたところ、警戒心を強めた風のエラスモテリウムが、角をかち上げつつ突進しました!


 
野性のアフリカゾウ、シロサイの間で間々観察されているこのような相互干渉が、更新世のマンモスと大一角犀、あるいはケナガサイの間でも同様に起こっていたであろうことは、想像に難くありません。
 
エラスモテリウム・シビリクムは肩高2m超、推定体重3.6~4.5トン(Zhegallo et al., 2005)に達する、真正サイ中の史上最大種。実に、現生のマルミミゾウに匹敵する程の大きさのサイでした。
一方のアジアステップマンモスは大きなもので肩高4m超、推定体重8~14トンに達する(Larramendi, 2016)史上最大のマンモスであり、両者の体格差は現生のアフリカゾウ、シロサイの間におけると同等か、それ以上の開きがありました。
 
大一角犀が、その呼び名に恥じぬ巨角を額に有していたことを考慮しても、この体格差ではマンモス側が明確に優勢であったことでしょう。
 
 

ところで、サイと形態が収斂し(高い目の位置、角、短く頑丈な四肢、重心が低い丸い体、大きなサイズなど)、「サイ型フォルム」のプロトタイプなどとも称され、大一角犀をもさらにずっと上回る大きさの怪物が、中生代には存在しました。言わずと知れた角竜類・ケラトプス科の大型種のことであります。


試みに、今ここで、中生代におけるサイの形態アナローグともいえるケラトプス科の中でも最大級の種類を、大一角犀と「置き換えて」みましょう。
 
突拍子もない発想ですが、ついてきてください(笑)
要は、エラスモテリウムがいる箇所と、白亜紀後期・北米西部内陸部の河畔林で群れていた角竜類の場面とを、時空超越の体で置換してみた!!
 
 

という設定になります。

 
Species

左〈白亜紀後期・マーストリヒティアン期・北米西部内陸部 およそ6800万年前〉

トロサウルス属種 Torosaurus latus
 

右〈更新世中期・中央アジア北部・マンモスステップ およそ28万年前〉
 
アジアステップマンモス(松花江マンモスと同一亜種) Mammuthus trogontherii spp. sensu lato.
 
エラスモテリウム属種 Elasmotherium sibiricum
 
 
 
特大級の角竜類としては、トロサウルス・ラトゥスを選びました。角竜類の最大種を問うた場合に候補に挙がる種類の一つです。
 
同種の既知の成体標本はトリケラトプス属種の最大級標本に匹敵するほど大きく、頭骨の発達の程度もより進んでいることから、成長が完了した、トリケラトプスの老成個体群とみなすべき、とする説(Horner et al., 2010)が出たほど。陸生動物史上最大級という頭骨はフリルを含めて長さ2.77m、体高は背骨の最も高い位置で3m超、全長7.9~9m(Holtz Jr., 2011)。
全長8m級のトリケラトプス属種の標本を対象に、恐竜の体重算出に定評がある第一人者、G. S. Paul(2010)の手になる、推定体重9トンという見積もりがあります。トロサウルス・ラトゥスの大型個体であれば、これと同程度の大きさにはなったことが考えられます。
 
 
対するステップマンモスは、著名な氷河期のケナガマンモスを一回り以上も凌駕する、史上最大のマンモス。
ドイツのモスバッハで発掘され、マインツ自然博物館所蔵の左上腕骨は、既知の長鼻類の上腕骨の中で最長で、1463㎜にもなります(Larramendi, 2016)。
 
内蒙古自治区のザライノールで発掘され、Zhalainouer No.Ⅰ & No.Ⅱとラベリングされる二体分の骨格を組み合わせた標本(「松花江マンモス」と通称されるのは、ご存知の通り。近年の分類で、固有種ではなくステップマンモス Mammuthus trogontheriiのアジア北部分布個体群と見なされています。詳細は、Wei et al. 'Mammuthus trogontherii, with discussion on the origin and evolutionary
patterns of mammoths'(2010)、Larramendi, 'Skeleton of a Late Pleistocene steppe mammoth (Mammuthus trogontherii) from Zhalainuoer, Inner Mongolian Autonomous Region, China'(2014)を参照されたし)も最大級であり、内蒙古博物館のオリジナル標本※は肩高4.3m、生前の推定体重13.5トンにも及びます(Larramendi, 2016)。



複製標本は日本の茨城県自然史博物館所蔵で、私も何度も訪れてその魁偉さを体感させてもらっておりますし、その形態調査の成果を当復元画に反映させてもいます。


 
Which do you believe could have dominated?
ステップマンモスとトロサウルス・ラトゥスの推定の体重範囲には大きな開きはないようですが、体高では前者が顕著に上回るため、一見、大変な体格差があるように感じられます。

しかし現生のアフリカゾウとシロサイの場合を見ても、サイは体格で大きく劣りながら、重心の低いタンクのような体での突進力や、強力な角の突き上げで善戦する場面も観察されています。
ましてこの両者、ステップマンモスとトロサウルス属種の場合は体重差がさほど開いていないのですから、接戦も予想されようというもの。
 
 
史上最大のマンモスと史上最大(級)の角竜類、中生代と新生代屈指のアイコニックな大型草食動物(マンモスと角竜類)。現生ゾウとサイのインテラクションのアナローグにして、それを遥かに凌ぐスケールの両者の激突。優勢に索餌場を占領することができそうなのは、どちら、或いはどちらの群れ、だと考えられるでしょうか。
 


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3 Comments

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Unknown (yuyu)
2022-06-11 17:55:54
こんにちは

トロサウルスってそんなに大きかったっけ?と思いましたが、こんな話↓もあるみたいなので相当大きいようですね。
https://getawaytrike.hatenablog.com/entry/37884115

記事の中で気になった点があるのですが、「トロ=トリケラ論文」については、↓の記事を読む限りは頭骨の形に基づく説であり、サイズが考慮されているかはわかりません(なお現在は否定派が多い)。「トリケラの老成個体とする説もあるほど大きい」というのは少々飛躍しているように思えます。もちろん明らかに小さかったらそのような説はそもそも出ないのですが。
https://getawaytrike.hatenablog.com/entry/36564955

トロサウルスは大きいのは間違いないのですが、トリケラトプスを上回るという可能性を論じる際にこの説を根拠として用いるのは違うのではないかと思いました。

とはいえ最大の角竜の称号をトリケラトプスがほぼ独占しているなかで、そこに一石を投じる本記事はとても興味深いものでした。

(「最大」の称号に関してはトリケラと同時代の暴君が何かと引き合いに出されすぎというのもありますが)
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Unknown (管理人)
2022-06-15 09:17:59
お久しぶりです。かつてコメントをくださった、yuyuさんでしょうかね?

頭骨の発達具合(形状)の違いに基づく、件の説から全長も違ってくるだろうと判断したのではなく、ほとんどのトロサウルスの成獣個体の推定の大きさが、トリケラトプスの既知
の最大級個体に匹敵する、との言説から、平均的にはトロサウルスのほうが大きいと解釈したのでした(ただ、この言説について厳密に信憑性を確かめたわけではありません)。

著名なT. R. ホルツ(2011)によるトロサウルス属種の全長9mという報告があります。ただ、トロサウルスはポストクラニアルのデータがトリケラトプスに比べ乏しい面があるよう
ですね。厳密に両者の推定体重や全長など比較した研究が見当たらない状況では、どちらが大きいかを判断するのは早計であったことは、確かです。
「大型のトロサウルス個体」の体重が、トリケラトプスの約8m級個体(G. S. paul(2010)算出)と同等、或いは重くなるだろう、とした箇所は、修正しました。

また、ご指摘のようにホーナーによる「トリケラトプス老成説」は現在では(というか、当初から?)あまり支持されなくなっていますね。

まだ不慣れな恐竜関連ではありますが、今後もしばし記事にするところがあると思うので、今回のように気になるところがあれば、ご指摘してもらえるとありがたいですね。
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Unknown (yuyu)
2022-06-15 16:05:12
管理人様

お久しぶりです。ご想像の通り以前コメントした者です。

トロサウルスの成体は自分の想像よりずっと大きかったみたいですね。自分も充分に調べないうちにコメントしてしまい申し訳ありません。

まだまだ勉強中なので少々おかしな点もあったかと思いますが、温かいコメントをいただき感謝します。
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