the Saber Panther (サーベル・パンサー)

トラディショナル&オリジナルの絵画芸術、化石哺乳類復元画、英語等について気ままに書いている、手書き絵師&リサーチブログ

『バトル・ビヨンド・エポック』其の九 '中生代と新生代 ・ 北米トップ級のハイパー捕食動物' (ユタラプトル ♦ 新種剣歯猫 INTERACTION)

2022年02月09日 | 中 / 新 生代インタラクション 特集(期間限定シリーズⅢ)

 

マカイロドゥス(巨大剣歯猫) ユタラプトル(巨大ラプター恐竜)
INTERACTION


Battle Beyond Epochs
Part

The Meso / Ceno zoic interaction 2 : The Top Two Hyper Predaceous Predators in Western North America
'中/新 生代 INTERACTION 2・北米トップ級のハイパー捕食動物'

Machairodus lahayishpup   v Utahraptor ostrommaysi 


今回のバトル・ビヨンド・エポックでは、中生代と新生代、それぞれの時代を代表する「ハイパー補食動物 hyper predaceous predators」として、特に二種を選別、例によって、時空を超越したinteraction を描出しています(「中/新 生代 INTERACTION」)。

2021年に新種として記載された巨大剣歯猫、マカイロドゥス・ラハイシュププ Machairodus lahayishupup と、白亜紀前期のドロマエオサウルス科恐竜の最大種、ユタラプトル属種 Utahraptor ostrommaysi 。共に北米西部(もっとも、白亜紀前期と今とでは大陸の地形が異なっていましたが)に分布、似通った推定体重、そして、大物猟に特化という特異な捕食ニッチを占めたとされるなど、共通項も多いと思います(それ以上に形態の違いが目立つわけで、少し強引かもわかりませんが)。

以下に、新記載のマカイロドゥス属種についてを中心に、比較的詳細な記述を付してまいります。


:Species:

<左>
中新世後期・北米西部(今日のアイダホ)およそ600万年前
The late Miocene Western North America (present day Idaho)

マカイロドゥス属新種 Machairodus lahayishupup
Bodymass=weighed upto 900lbs (約410 kg)
中新世後期、ヘンフィリアン期の北米にシミターネコ系統の大型剣歯猫が生息していたことは、断片的ながらポストクラニアルや頭蓋ー下顎の一部が集積しており、広く認知されている。

Martin(1975)がマカイロドゥス・コロラデンシスとして記載した標本は、骨格肩高1.2m。Sorkin(2008)によると、コロラデンシス種の上腕骨長は、北米のスミロドン属種(ファタリス種)やユーラシアホラアナライオン(スぺレア種)のそれを上回っていたという。

中新世北米の大型剣歯猫は、歴史的にニムラヴィデス属、マカイロドゥス属、アンフィマカイロドゥス属のいずれかに同定された経緯があり、その分類の変遷、混乱はいまだ収束したとは言い難い(後述)。加えて、「集積」しているのは大部分、ポストクラニアルであり、Orcutt & Calede(2021)によれば、「大型ネコ科動物」という認識以上には特定が進まず、記載の機会を逸してきた標本も多いという。

アイダホで発掘され、オレゴン大学自然史・文化史博物館が所蔵していた上腕骨も、そうした標本の一例(長らく、単に'big cat'のラベル表記がされてきた。したがって、新発見の標本ではない)だが、2021年、Orcutt & Caledeの調査を経て新種、マカイロドゥス・ラハイシュププとして記載されるに至った。

この上腕骨は全長460.5 mmでネコ科史上最長アメリカライオンの既知の最大の上腕骨長を大幅に上回る(参考に、現生成獣雄ライオンの平均的な上腕骨長がおよそ330㎜)。推定の肩高は驚異の1.4m超、上腕骨の各寸法に基づく推定体重はおよそ410kg

本上腕骨の骨幅は相対的に、現生ヒョウ属種の平均値と同等である(下記寸法データ参照)。

マカイロドゥス・ラハイシュププ 
上腕骨寸法データ(after ©Orcutt & Calede, 2021
Humerus length: 460.5 mm
Mediolateral width of distal end: 123.3 mm
Anteroposterior diameter of midshaft: 46 mm
Distal articular width: 88.2 mm


ホモテリウム族のシミターネコ群(ホモテリウム属など。マカイロドゥス属も含まれる)は肢長骨の骨幅がヒョウ属より劣る場合が多いのだが、中新世のマカイロドゥス段階の種類では、肢長骨長で上回りながらも、ヒョウ属と同等のロバストさが保持されていた、ということに他ならない。

肢長骨の際立った長さとヒョウ属と同等の骨幅を考えると、この推定体重値は妥当なのかどうか。

参考に、アメリカライオン(上腕骨)、ステップ・ホラアナライオン(上腕骨)といった大型の古代ヒョウ属、そして言うまでもなくダーク型剣歯猫は、相対的骨幅も現生ヒョウ属を上回る。これら更新世の大物と比べると、マカイロドゥス属種が幾分細身であったらしいことは、認識しておいてよいかもしれない。

ともかく、同時代にアジアに分布したホリビリス種(405kg。頭骨のcondylobasal長に基づく(Deng et al., 2017))、アフリカ分布のカビール種(350-490kg。上腕骨に基づく(Peigné et al., 2005)) と同等の推定体重値を示す結果には、なっている。

Orcutt & Calede(2021)は北米西部産の他のマカイロドゥス属のものと考えられる上腕骨も調査しており、計7標本の推定の平均体重は274kgという(雌雄の分別は‐上腕骨のみでは不可能であり‐されていない)。「肘の形状の類似」をもって、いずれの上腕骨も同一種に帰属することが考えられるとのこと。

ただ、アイダホの標本の異様な大きさを鑑みて、これら全てを同一種とみるのは無理があるのではないか。
各上腕骨の年代など不明瞭なので何とも言えないが、少なくとも、全てがへンフィリアン期に由来するのでない限り、問題があるだろう。一口にマカイロドゥスといっても、中新世中期のグレードの種類(古くはニムラヴィデス属として独自に分類されていたが、ユーラシアのアファニスタス種と同定されることもある)は、中新世後期種より明瞭に小型であったことが判っているのだから。

このように述べたところで、専門家ではない私の、外部からの個人的な見解 / 疑問にすぎない。しかし一般に、クラニオーデンタルが見つからないことには種分別は困難だといわれる。そのことを示す例として、ユーラシアのギガンテウス種とホリビリス種も、年代、分布とも近接するにもかかわらず、頭蓋と歯形の形態学的差異から別種であることが確実視されている(Deng et al.(2017), Geraads et al.(2020))。


マカイロドゥス属の頭骨に関しては、ホリビリス種が剣歯猫史上最大の頭骨(頭骨長415㎜)の持ち主として知られるが、化石コレクターの間で出回り、公式な記載はされていない、プライベート所有の化石頭骨も含めると、ギガンテウス種の460㎜級が知られている(この事例に関する詳細はこの記事(英文)。あくまで、参考まで)。

推定体重に関していえば、頭骨が相対的に小ぶりなダーク型剣歯猫でありながら、頭骨長390㎜を超えるウルグアイ産の南米スミロドン(おそらく、ポプラトール種の大型亜種。ウルグアイ産には他にも400㎜超の頭骨が知られる)が436kg(Manzuetti et al., 2020)にもなり、無双状態であろう。しかしボディー・ダイメンジョン(体高×体長)については、マカイロドゥス属大型種が剣歯猫史上、最大級であったらしいことを示すデータがまた一つ、加わったことになる。


このように、アフリカ、ユーラシア、北米など各地で特大種(カビール種、ホリビリス種、ラハイシュププ種)を産したマカイロドゥス属において、著しい大型化は複数種に共通の進化傾向であったことが窺える。

剣歯猫は大物猟に特化した形態型(morphotype)だという見方が一般的だ。大型化自体も、大物猟の捕食ニッチを占める特殊化の一端だと考えられよう。

Orcutt & Calede(2021)によれば、ラハイシュププ種ほどの大物にもなれば、最大で6000ポンド(2.7t)級の獲物を襲えたはずだという。対してDeng et al.(2017)は、ホリビリス種は開口角度が剣歯猫にしては小さく、巨体に反して、後代の剣歯猫ほど大物猟に特化していなかったと考察している。頭骨とポストクラニアルのどちらを対象に考察しているかの違いがあるが、実態に近いのはどちらの言い分なのだろう。

狩猟に関して、双方が言及していない点がある。シミター型犬歯の特異性だ

ホモテリウム族のシミター剣歯は側腹圧縮(ナイフ型)形状だが、多方向圧への耐性に優れ、クランプ・ホールドバイトにも支障がないことを示す研究がある(Figueirido et al., 2018)。長大なダーク型剣歯の一撃必殺的殺傷力は欠く代わりに、より柔軟な(?)殺傷法が想定できようし、シミター剣歯の長さからしても、極端に深い開口角度は不要 とは考えられないだろうか?

その狩猟形態については、ある意味、スミロドンなどダーク型剣歯猫の場合より、興味深いところだ。


本種の学名表記、分類についてだが、冒頭で述べたように、マカイロドゥス属 / アンフィマカイロドゥス属分類を巡る変遷は紛糾し、決着がついた風ではない。Christiansen(2013)やWerdelin et al.(2010)に従えばヘンフィリアン期の本種はアンフィマカイロドゥス属(詳細はこの記事参照)、直近のGeraads et al.(2020)に依れば、従来のマカイロドゥス属表記が妥当(詳細はこの記事(英文)参照)ということになる。

いずれにせよ、ここでは単純に、Orcutt & Calede(2021)の Machairodus lahayishupup という学名表記に倣った。
種名lahayishupup (英語風の発音では「ラヘイシュパップ」)は、アイダホのネイティヴ・アメリカン、カユース族の言語 Laháyis Húpup('ancient wild cat'を意味する)から採られたという。


なお、上述のごとく本種は頭骨が見つかっていない。よって、本復元画は近縁と考えられるホリビリス種とギガンテウス種の頭骨を基に、描いた。)

テレオセラス属種 Teleoceras sp. 後半身のみ
(カバに似た形態のサイ群、テレオセラス族(アセラテリウム亜科)を代表する中型種(現生スマトラサイより少し大きい)。広範な分布域は北米西部から中西部、南部、南東部にいたる。小ぶりな鼻骨角を具えていた。2020年の骨アイソトピック解析(Wang and Secord, 2020)の結果、テレオセラス属種はC3植物を摂食する純グレイザーであったことが判明、長く(実に、1世紀以上!)幅を利かせていた半水棲という仮説が、覆ったとされる

 


<右>
白亜紀前期・北米西部(今日のユタ。もっとも、当時は大陸の地形が異なる)およそ1億3600万年前
The early Cretaceous Western North America (present day Utah)

ユタラプトル属最大種 Utahraptor ostrommaysi
Bodymass=weighed upto 900lbs (約410 kg)
(中生代・北米の「ハイパー補食動物(hyper predaceous predator)」の代表格として、巨大剣歯猫に対峙する存在として選んだのは、ユタラプトル属最大種。俗にラプターと総称される、獣脚類恐竜・ドロマエオ(ドロメオ)サウルス科の、最大種だ。


全長6~7mともいわれるユタラプトルはドロマエオサウルス科最大だが、推定体重についてはばらつきが見られる。

発見者でもあるKirkland(1993)は体重500kg弱にもなることを主張していたが、後年の推定では下方修正される傾向がある。
T.R. Holtz Jr.(2012)による算出では230~450 kg。Eofauna代表のA. LarramendiとR. Molina-Pérez(2016)による既知の最大標本(BYU 15465)の調査に基づく算出ではもっと小さくなり、全長4.65m、腰高1.5m、推定体重280kgとなっている。

複数の推定体重値には幅があるが、概ね、マカイロドゥス属の特大種と同等か少し重い程度、とみて大過なさそうだ。

頭骨も非常に大きく、比較的短吻、ロバスト型で頑強なつくりである。ドロマエオサウルス科種の中には咬筋力が弱いとされる種類(例えばデイノニクス(Therrien et al., 2005))もある一方で、ユタラプトルの顎の力は強く、恐るべき殺傷力を発揮したことだろう。

後足第二指の「シックルクロー」はドロマエオサウルス科種の代名詞的存在だが、Manning et al.(2005, 2009)によると、切り裂きにはさほど適しておらず、獲物に掴みかかる際のフックとしての用途が考えられるとのこと。

後足でグラスピングし、獲物を抑え込むプロセスにおいて、前肢を「羽搏かせて(羽毛については後述)、バランスをとった」とする仮説が提示されている(Fowler et al., 2011)。こうなると現生猛禽の捕食プロセスとそっくりなようだが、中~大型種、いわんやユタラプトルの体重では、前肢の羽搏きは不要 ‐ というより、羽搏きがバランスをとる役には立たなかっただろう。その巨体、後肢の強大さや造りからして、シックルクローを伴う「蹴撃」自体が、相当な威力だったはず。


羽について言及した流れで述べると、獣脚類の中でも源鳥群(Paraves)に分類され、特に鳥群(Avialae)と系統的に近いとされるドロマエオサウルス科は、小型∼中型種から大型種に至るまで、全身に羽毛を生やしていたという説が定着している(当復元画でもそれを踏襲)。

大型種であっても前肢にぺナシウス羽を生やしていたことがわかる種類も見つかっているほど。ここから、ドロマエオサウルス科の祖先筋は元々グライド飛翔の能力を有していて、飛翔能力を失った後代の中~大型種においても(現生のダチョウなどがそうであるように)、前肢の風切羽が保持されるに至っていたとする説、いわゆる the flight came first (飛翔の方が先)theoryも生まれた。

ドロマエオサウルス科の大型種までもぺナシウス羽を生やしていたと仮定すると、「前肢の可動域やグラスピングの有効性」について、無毛で復元される場合に比べ、多少の制限を考慮する必要があるかもしれない。

むしろ、狩猟時のグラスピングは上述のように、主に後肢でなされていた可能性がある。


G.S.
Paul(2016)の考察が示すごとく、ユタラプトルの狩猟は剣歯猫のようなアンブッシュ型であり、これらの諸特徴からしても、かつてBakker博士が小説『Raptor Red』の中で活写したごとくに、優れた大物猟ハンターであったことが窺われよう。コンテンポラリーであったイグアノドン類やノドサウルス科の恐竜を襲っていたと、考えられている。


マカイロドゥスのシミター(三日月刀)型剣歯と、ラプターのシックル(三日月鎌)クローという、「切り裂き対決」の様相も呈しており、興味深い。



ガストニア属種 Gastonia burgei
前半身のみ
(アンキロサウルス科の中型種)

 

: Which do you believe would have survived? :
例によって個人的な見解のもとに、能力比較ごときものを作ってみたので、併せて記載。これは学問的根拠を欠く興味本位の戯れ事に等しい試みであって、何らの資料的価値を有するものではない。
各項目を選び、それぞれにおいて優位と考えられる方の名前を上げる形式。

Machairodus lahayishpup   v Utahraptor ostrommaysi 

Bodymass= U. ostrommaysi
Bite force = U. ostrommaysi
Striking=  U. ostrommaysi
Grappling= M. lahayishpup
Explosiveness= M. lahayishpup
Agility= M. lahayishpup
Leaping= Tie
Flexibility= M. lahayishpup
Endurance= U. ostrommaysi
Killing Efficiency= M. lahayishpup
Intelligence= undecided
Defense= Tie
Tenacity= U. ostrommaysi
Agressiveness= Tie


いずれも(咬筋力を除き)拮抗しているようにも思える。最重要の項目の一つ、Killing Efficiency についても決め難く、Tieにしてもよいようだ。が、可動性、グラスピング共に優れた大型ネコ科の強大な前肢と、「前肢のグラスピングからの剣歯によるキリングバイト」のefficiencyは、大きな優位点だと考える。

その他、各能力項目が拮抗していると考えられる中、一つ決定的とも言えそうな武器がラプター側に。
強大な頭骨と咬筋力とだ。ご覧の通り、頭骨、吻部の大きさが段違いである。

剣歯猫の上顎犬歯(剣歯)は脅威そのものだが、シミター型剣歯の場合、スミロドンほどの殺傷威力を誇ったわけではないだろうし、顎の力については、そもそも剣歯猫はあまり優れていない。最重要の一つ、「頭骨そのものの殺傷力」について、ユタラプトルの方が上回るといえそうだ。


いずれにせよ、サイズ(推定体重)は非常に似通っており、共に自重を上回る獲物を狩ることに長けるとされる両者巨大剣歯猫と、巨大ドロマエオサウルス科ラプター

サバイブするのは、どちらか?

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