the Saber Panther (サーベル・パンサー)

トラディショナル&オリジナルの絵画芸術、化石哺乳類復元画、英語等について気ままに書いている、手書き絵師&リサーチブログ

メギストテリウム ♦ ヒアエノドン科の最大種

2019年09月14日 | プレヒストリック・サファリ
次回『バトル・ビヨンド・エポック』シリーズの7作目では、アフリカ大陸東部という、新生代を通じて世界規模で見ても屈指のメガファウナ密度を保持してきた地域において、直近の三エポックそれぞれを代表する最強の大型肉食獣の復元画を、比較的詳細な説明文と併せてご紹介します。
 
昨日の「更新世ナトドメリライオン」に続いて、今日は中新世の巨大肉歯類「メギストテリウム属最大種」、明日は鮮新世の「アフリカショートフェイスベア(アグリオテリウム属最大種)」の順に復元画を紹介していきます(生息年代の新しい方から順にアップするつもりでしたが、予定を変更します)。
最後にバトル・ビヨンド・エポック其の七で全種を一度にフィーチャーするわけですが、その際にそれぞれの形態や体のサイズを比較吟味してみてください。

バトル・ビヨンド・エポック其の七では、個人的な見解のもとに各種の「能力チャート」ごときものを数値化してみたので、それも併せて記載します。勿論、この能力チャートは学問的根拠を欠く興味本位の戯れ事に等しい試みであって、何らの資料的価値を有するものではありません。ただ、各種の形態要素に関する理解に幾らか与するところは、あるかと思います。




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メギストテリウム属最大種
(Megistotherium osteothlastes)
デイノテリウム科の中型種、プロデイノテリウム(Prodeinotherium hobleyi)の下腿遠位部に噛みついて襲う場面

 

メギストテリウム属最大種について

陸棲肉食哺乳類の進化史上、アンドルーサルクス属最大種と並んで最大級の頭骨サイズ(頭骨全長約66cm)の持ち主。現生の食肉目とは進化系統の異なる肉食獣群、「肉歯目」(ヒアエノドン科・ヒアイナイロウロス亜科)の史上最大種として夙に認知されています。

メギストテリウム属最大種は、2019年4月に同じヒアエノドン科の近縁種で既知の肉歯目史上二番目に大きい標本(学名シンバクブワ・kutokaafrika と命名された)が新発見されたことで、いわば間接的に、昔日以来の再脚光を浴びることとなった経緯があります。 というのも、シンバクブワ属種の発見と記載に携わったBorths et al.(2019)の試算によれば、同種の推定体重は1.5トン前後に達したことが示されており、形態的に酷似するメギストテリウム属最大種のサイズはそれをさらに凌駕して、なんと体重3トン前後にもなったはずだというのです。

これが事実であれば文句なしに新生代の陸棲肉食動物史上、最大種の座に位置づけられますが、これらの数字の信憑性には疑義を挟む余地があるといわざるを得ません。

ヒアエノドン科の大型種(シンバクブワ、ヒアイナイロウロス、メギストテリウム)の推定体重値を得るために、Borths et al.(2019)はVan Valkenburgh(1990)が第三臼歯(裂肉歯)の大きさに基づいて化石ネコ科種の推定体重を算出した回帰分析の方程式を採用しているのですが、本人らも論文で言及しているように、この採用を巡っては複数の問題点があります。

しかし最大の難点と考えられるのは(そしてこの点についてBorths et al.(2019)は一切言及していないのですが)、一般に肉歯目の種類は体長に占める頭骨長の比率が食肉類の場合よりも大きい、つまり前者は後者に比べて相対的に頭部(および歯)が顕著に大きかったという特徴があり、前述の試算においてはその点が度外視され調整が加えられていないという事実でしょう。


メギストテリウム属最大種がいかに大型であったにしても、体重3トン前後というのは一見してアノマリーな数字だと言わざるを得ないし、Van Valkenburghの方程式をヒアエノドン科大型種のサイズ算出に適応することの不具合が、数字に如実に表れているように思います。

ヒアエノドン科大型種のより現実的な(と考えられる)サイズについては、幸いにTurner & Anton(2002), Agusti & Anton(2004)が、シンバクブワ属種と形態、サイズともに酷似するヒアイナイロウロス属種と、そのコンテンポラリーであったベアドッグ最大種(アンフィキオン giganteus)との形態比較を通じて考察を加えています。

いわく、ヒアイナイロウロス属種の頭骨寸法はべアドッグのそれを顕著に上回るにもかかわらず、ポストクラニアルのサイズは頭骨から推察されるよりも意外に小さく、ベアドッグと同程度か、僅かに下回っていたということです。ベアドッグ最大種の推定体重としてはFigueirido(2011)が540kg前後と算出しているので、ヒアイナイロウロス属種およびシンバクブワ属種の実際的な体重もその程度であったと解釈するのが妥当かもしれません。
メギストテリウム属最大種はそれら(ヒアイナイロウロス属種とシンバクブワ属種)よりも少し大型ですが、形態的にはやはり酷似していたとされているので、果たして実際的な体重(ポストクラニアルのサイズ)は如何ほどであったのか、大いに興味を惹かれるところです。

しかし、推定体重がどうであれ、メギストテリウム属最大種の頭骨サイズが古今のあらゆる大型食肉類のそれを凌駕していたことは明らかですし、ポストクラニアルのサイズにしても、鰭脚類を除けば現生食肉類で匹敵できる種類は皆無でしょう。


実際、本種はまさに畏怖すべき恐ろしい肉食獣だったと思います。ヒアエノドン科の動物は、四肢が相対的に短く半蹠行性、胴が伸長していたなどの相違点もあるものの、ポストクラニアル形態(及び形態機能)は概ね大型のモロサス犬種によく似ていたといわれています。譬えてみれば超巨大なピットブル犬といった風情で、しかも頭骨サイズは大型クロコダイルのそれにもひけをとらぬという具合です。

私はヒアエノドン科大型種の咬筋力を調べた研究にお目にかかったことがないですが、かつてナショナルジオグラフィック・チャンネルの番組内(2007)でWroeが体重70kg未満の中型種、ヒアエノドン horridusの咬筋力について言及し、雄の成獣アフリカライオンのそれに匹敵すると断じていたものです。その真偽のほどはともかく、メギストテリウム属最大種は体重でいえばH. horridus を恐らく10~15倍近くも上回っていましたし、咬筋力たるや陸生哺乳類史上最強かそれに準ずる位だったのではないか。

吻部の大きさと相まって、ただ一噛みするだけでも相手に与えるダメージは甚大たるものがあったはず。
前述のシンバクブワ属種の吻部など中新世の長鼻類、ゴンフォテリウム科中型種の脚の遠位部周囲を覆ってしまうほど大きいので、Borths et al.(2019)は、実際に脚の遠位部に食らいつく手段で原始的な長鼻類やサイの仲間を狩っていた可能性に言及しています※。
 
本復元画では、メギストテリウムがゴンフォテリウムではなく、同時代コンテンポラリーのプロデイノテリウム(デイノテリウム科の中型種。肩高2.2mほどで、現生アジアゾウより少し小さい)の下腿遠位部に噛みついて襲う場面を描いています

ただ、ヒアエノドン科の動物は前脚の構造上、回内・回外運動性に乏しくグラップリング力を欠いていましたし、加えて過剰なまでに大柄な体格を考慮すると、いかに頭骨そのものを駆使した絶対的な殺傷力を有していたとしても、純然たる捕食性のハンターであったとする解釈には難点もあるのではないか。

そのことと関連して、上で紹介したヒアエノドン科の大型種はいずれもヒアイナイロウロス亜科に下位分類されますが、ヒアイナイロウロス亜科の種類は他のヒアエノドン科種に比べて、臼歯の骨砕き機能が高度に発達していたのであり、驚異的な体格と併せて、クレプトパラサイト系スカヴェンジャーとしても有能であったと考えられるのです。
その実態は、臨機応変に狩猟とクレプトパラサイティズムを使い分けていたのでしょうが、現代とは比較にならない肉食獣競合の過密さ、死骸数、さらには狩猟エネルギー収支の効率といった観点からみれば、クレプトパラサイティズムにより比重がかかっていたと考える方が自然だと思います。
 
果たして、ヒアエノドン科の複数の大型種が長大な中新世の大部分、およそ1500万年という長期にわたり存続していた事実は、ハンターであったにせよスカヴェンジャーであったにせよ、あるいはその双方に優れたバーサタイル系であったにせよ、彼らが有能な肉食獣であったことを雄弁に物語っています。
 
イラストと本文 by ©the Saber Panther(Jagroar) (All rights reserved)
 


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