the Saber Panther (サーベル・パンサー)

トラディショナル&オリジナルの絵画芸術、化石哺乳類復元画、英語等について気ままに書いている、手書き絵師&リサーチブログ

ヒョウ属、チーター、スミロドンの狩り

2008年08月05日 | ネコ科猛獣の話

☆ヒョウ属
●オオカミやハイエナ、クマといった他の大型肉食獣とは異なり、ネコ科種は基本的に獲物を「仕留めて」から、消費を始める(もちろん、場合によって例外も多いことだろう)。大きく、伸縮可能な鉤爪と強靭な前脚は、獲物を捕え、犬歯による「キリングバイト」が可能な体勢に相手を抑えつけておくのに、理想的である。

"The large claws of the cats, and the powerful forelimbs, are ideally suited to catching their prey  and retaining a hold while wrestling it into a position where the canines may be employed in a bite."
Alan Turner『The Big Cats and their fossil relatives』 P.166

大小様々な生きた動物を捕え、仕留めるための各技術は母親から学ぶが(母親はよく、小型動物を生きたまま子供に与え、狩りの練習をさせる)、狩りの手ほどきを受けていない個体でも、本能的に相手の頸を狙うようである。

ハンターとしての捕殺の本能ということでは、例えばライオンやチーターが消費中の獲物を捨て置いてまで、目の前を走り過ぎた動物を追いかけるといった行動が観察されている。
(↓この動画では、雌ヒョウが同様の反応を見せている)

●小型の獲物の場合、首の後部への一噛みで長い上顎犬歯を頚椎の間に差し込み、脊髄を切断して殺すことができる。
ジャガーのやり方はさらに洗練されていて、カピバラなど比較的大きな動物の頭部にも噛みつき、耳のあたりから上顎犬歯を突き刺して、脳まで達するダメージを与える。

Jaguar predation on Capybara


ジャガー、カイマンを狩る(ナショナルジオグラフィック・日本語公式サイト)



(↑ジャガーの顎力は大型ネコの中で最強と断ずる記事。真偽はともかく、圧倒的なパワーであることに間違いはないだろう)


(もちろん、脊椎への噛みつき攻撃は、大型有蹄動物に対しても有効だ)

●自分より大きな有蹄動物、特に角を有する相手の場合は、主に異なった「殺傷法」が用いられる。エネルギー収支の問題から言って、ヒョウ属、殊に際立って大柄なライオンやトラは、"大型"の動物を優先して襲う必要性があるのだ(Carbone))。

例えば、ライオンやトラはよく獲物の喉元や鼻口部に喰らいついて、窒息死を狙う。ライオンが群れで襲う時には、各個体が犠牲者の体のそこかしこに噛みつくが、それでも最低一頭は窒息させようとするものである。

大型動物を捕獲する際、彼らは後足を地面に接地したまま、強力な前脚で相手を掴み、自分の方に引き寄せて動きをコントロールする。

"As a rule, the larger the prey the more important are fully retractable claws."
Jens Uwe Scmieder 『Killing behavior in Smilodon fatalis based on functional anatomy and body propotions of the front and hind limbs』

この際、ネコ科の鉤爪は獲物が動くほどに体に食い込んで、優れたグリップ力を発揮する。窒息を狙うキリングバイトは、相手が立ったまま、自分は相手の首や肩にぶら下がった状態からでも実行可能である。加えて、トラは獲物の首を捻り、そのままへし折った例も知られている。

"In some cases the tiger has been obsarved to twist the neck of the prey, and it has actually been  heard to break it."
『The Big Cats and their fossil relatives』 P.170

You Tube
(↑トラが牛の首筋に噛みつくや頭を振って、瞬殺するシーン(恐らく首の骨が折れた)。
注意:残酷な映像でもあるので、個人の責任で視聴してください)

Lioness kills Zebra(Animal Planet)

ジャガー、ヒョウ、ピューマも相手や状況に応じて殺し方を使い分けているが、多くはライオンの場合よりも獲物との距離を詰めてから、ファイナルダッシュに入る。

"although most get closer to their chosen victim before the final dash and capture than does the lion."
同上 P.170

●これら単独生活を営むネコ科にも複雑な社会性が見られる例は枚挙にいとまがないが、有名なのはインド、ランサンボーア国立公園のトラの例である。

ランサンボーアのトラは、水辺で草を食むサンバーなどを猛スピードで水中に追い込み、捕えるという壮観な狩りで知られるが、この狩猟法はゲンギスという雄トラが1980年代の初頭に創めたのが発端で、他のトラが見て学び、真似をするようになったと言われている。
ゲンギスの死後も水辺での狩猟テクニックはランサンボーアのトラの間で受け継がれており※、彼らの社会性を示す好例となっている。 ※yuyuさんのコメントも参照されたし。

"But this technique was unknown before the early 1980s, when an athletic male nicknamed Genghis seemingly invented it.
Even after Genghis died the technique lived on, learned by others and itself evidence for some degree of social interaction."
同上 P.170

Ranthambore tigers


●狩りが成功すると、次は他の肉食獣に横取りされないように、いかに効率よく獲物を消費するかということが重要になる。トラやライオンはその巨体である程度脅しを利かせることができるが、捕えた獲物の処理方法が最も洗練されているのは、ヒョウだろう。

ヒョウは自重の2~3倍の死骸を口に咥えたまま、垂直の高い木を登ることができると言われ(この芸当には圧倒的な筋力が必要だとされる)、

"Leopards often hide their kills in dense vegetation or take them up trees, and are capable of carrying animals up to three times their own weight this way."
wikipedia

競争者の手が及ばない樹の上に運びあげて、安全に食事をする。

 

ヒョウ属の強靭な筋線維とタンパク質消化能力は、捕食獣として限定的なニッチを占めるべく進化
(ナショナルジオグラフィック・日本語公式サイト 『絶滅危惧種、シベリアトラのゲノム解読』)

 

☆チーター
大型ネコの中で、狩りの捕獲テクニックが他と大きく異なるのが、チーターである。

チーターも忍び寄りで獲物との距離を詰める術には長けているが、「ファイナルラッシュ」は数百メートルに及ぶことが多く、高速追跡の形をとる。チーターの加速力は驚異的で、全速で走った場合、スタートしてから2秒後には時速72kmに達すると言われている(今泉忠明)。
捕獲は全速力のときに最も効果的に行われるが、これは遅いペースだとアンテロープの足の接地時間が長くなり、バランスを崩させにくくなるからであろう。
多くの場合、背中に飛び乗るのではなしに、前足で巧みに相手の後脚を引っ掛け、転倒させる。チーターの狼爪(親指の爪)は大きく発達しており、文字通りアンテロープの後脚を「引っ掛ける」のに用いられる。経験を積んだ成獣の狩りの成功率は、70パーセント近くになるという。

Cheetah tackles Gazelle

成功裡に終わる狩りでは、チーターは全力で走りきっている場合が多く、残った余力で確実に仕留められるよう(大抵は喉元に噛みついて窒息を狙う)、獲物は主に小型のガゼルが好まれる。

☆スミロドン族
スミロドンの狩りにおいても、忍び寄りからの飛びつきや爆発的なダッシュで獲物は捕獲されていただろうが、実際の「殺し方」となると、現代のネコ科とは少し異なっていたはずである。

Illustration: Mauricio Anton
(エクウスstenonisに襲いかかるメガンテレオン(スミロドン族))

まず、サーベル犬歯というのは比較的折損しやすいため、首の後ろや後頭部といった硬い箇所は避け、獲物を地面に抑え込んで動きを制した後に、喉や腹部にピンポイントで噛みついていたと考えられる。長大で平べったい上顎犬歯は、垂直に深々と突き立てるというよりも、「スラッシュバイト」によって血管を食い破り、体の表面に大きな裂傷を与えられるところに利点があった(Ackersten)。

一般にサーベルネコは首が長く、加えて頭を上下左右に動かす深頚筋(斜角筋など)はいずれも極めて発達していたことが示唆されており、同サイズのヒョウ属よりも首の可動性が高かったと考えられる(Turner & Anton, Merriam & Galobart)。長くて強靭、かつ柔軟な首は、狙った箇所に素早く正確にスラッシュバイトを決める上で、枢要だったのだろう。

Howellは、四脚の遠位部(distal elements)の伸長は走行性(cursorial)に特化していることの表れだと述べているが、スミロドン族の前脚の檮骨、尺骨、中手骨長はヒョウ属と比較しても短く、これは前脚で大型の動物を抑え込む(体幹に引き寄せる)という目的において、機能的に有利な形態であったことを示唆している。

"Radius, ulna, and metacarpals of Smilodon fatalis are shown to be extremely shortened, suggesting functional advantages to seize and struggle with bigger prey."
『Killing behavior in Smilodon fatalis~』



骨格筋の付着点の大きさから、彼らの前腕の屈筋と伸縮筋、大胸筋や上腕二頭筋、三角筋なども著しく発達していたことが分かっている。
この強靭な前脚に加えて、伸縮自在なスミロドンの鉤爪は非常に大きく(LiveScience)、自重よりずっと大きな獲物を襲うことが可能だっただろう。Bakkerは、第三紀のサーベルネコとジュラ紀のアロサウルス科の肉食恐竜を特に挙げて、これらは共に、自重の10倍以上もの草食動物を襲うことができるという、特殊な捕食ニッチを獲得していたと述べている。

一部の学者(Ackersten, Turner)が言うように、もしスミロドンが「プライド」を形成していたとすると、長鼻類の若個体や地上性ナマケモノをコンスタントに餌食にしていたというような従来からの説も、あながち誇大ではないのかもしれない(?)。

(他に形態上の主な特徴として、比較的背骨が短かったために広背筋を効果的に筋収縮できたであろう点や、大円筋が現生のネコ科に比べて肩関節から離れた位置に付着していた点(Scmiederによると、これにより肩関節の可動性は制限されるが、一気にトップスピードに入る加速力は一段と優れていた-有能なアンブッシュハンターの証である)などが挙げられる。)

"the Teres major muscle inserts farther away from the shoulder joint on the inside of the humerus as  for cats of group one and two, indicating a restricted action of movements of the joint... ...Nevertheless, this anatomical feature finds its advantages for a quicker and more powerful acceleration to maximum speed, which would be typical for well-adapted stalkers."

(スミロドン(とホモテリウム)は肩甲骨が高い傾向にあるが、この機能的利点についてはよく分かっていない)
"One other point of similarity between the two genera may be mentioned: both tend to have a high scapula, although the functional significance of that is not clear to us."

最後に、スミロドンは後脚(脛骨、中足骨)も短かったのであり、前脚に比べると華奢(gracile)なつくりだが、膝関節は頑強で、また踵骨が長く、跳躍力には優れていたもようだ。
高速で追跡する能力には乏しかったスミロドンにとって、相手との距離を一気に詰めることができるロングジャンプの力は、不可欠であったことだろう。

踵骨の長さと跳躍力の関係
"Smilodon also had a relatively longer calcaneum and may have been a better jumper and leaper than Homotherium in spite of its heaviness, since the increased length would have increased leverage at the ankle joint."
『The Big Cats and their fossil relatives』 P.67

Smilodon hunts Toxodon

(@0:21 "you can see, she's got really stocky front legs, that's because of this big mega fauna, animals like toxodon that they have to bring down. They've got big front legs and those massive teeth."
 @1:00 "one bite to the throat crushes the windpipe and severs the jugular. For the poor toxodon, it's all over very quickly.
")
動画:Prehistoric Park

~~~"Smilodon's elongated canines, its long muscular neck, and shortened, sturdy limb propotions and peculiarities make it to one of the most terrifyng predators of prehistoric times, that was perfectly equipped to deal with large prey."
「スミロドンの長大な剣牙、長く筋肉質な首、そして短く頑強な四肢は、大型の動物を屠るための見事な適応であり、彼らは先史時代で最も戦慄すべき捕食獣の一つである。」~~~
『Killing behavior in Smilodon fatalis~』

 

おまけ

☆ウンピョウ

"Interestingly, the modern clouded leopards are anatomically similar to the primitive sabertoothed cats, and in time, they may become more specialised and truly sabertoothed."
「興味深いことに、ウンピョウは形態的(解剖学的)に、サーベルネコにごく近いのである。いずれは、より特化した"真の"剣牙猛獣へと進化を遂げるかもしれない。」
Per Christiansen 『
Evolution of Skull and Mandible Shape in Cats (Carnivora: Felidae)』


ヒョウ属とマカイロドゥス亜科の特徴を併せ持つというウンピョウは、まさに"サーベル・パンサー"を地で行くような存在なのだ。

Jens Uwe Scmieder 『Killing behavior in Smilodon fatalis based on functional anatomy and body propotions of the front and hind limbs』他 参照


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8 Comments

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Unknown (スケ口太郎)
2008-08-07 08:30:10
4年程前に、ディスカバリーチャンネルでスミロドンの狩りの仕方を検証する番組がありました。
例によってアルミでロボットを作る訳なんですが(笑)、それによると、やはり気管や血管を狙って噛みつかないと犬歯がもたないというのが実験後の一致した見解でした。
また、大きく張り出した肩甲骨や肩幅の広さ、前足の長さからヒグマのような走り方をしていただろう、とも。
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Unknown (味噌らーめん)
2008-08-08 06:20:42
おぉぉ~、雌ヒョウダイナミックですねぇ
凄いな
獲物あるのにヌーの突進の中に飛び込んでくなんて

ジャガーもあんな筋骨隆々で速い!
…凄いな。

これ見るとスミロドンも同じように速く走れた気はしますね。
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ウンピョウ! (Unknown)
2008-08-09 20:23:32
ウンピョウが進化して新たなサーベルタイガーになっていったら面白いですねー!!そしてスミロドンのように巨大化とか。まあ、その姿を見る事は決してできないのですが。
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トラの狩り (yuyu)
2013-02-02 18:26:40
現在ランサンボーアでは、ゲンギスの狩りの方法は行われていないそうです。密猟の影響で、この狩りの方法を知るトラがいなくなってしまったからだそうです。3つの湖を支配していたMachaliも、この狩りを行うことはなかったそうです。(代わりに湖の周りの茂みを、わざと大きな音を立てて歩き回り、驚いて飛び出した小鹿を襲うという、さらに独特な狩りの方法を編み出していました。)
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Unknown (サーベル・パンサー)
2013-02-02 21:32:49
伝説的個体、Genghisが没して二十年以上経ちます
が、伝統の後継者がついえたということですね。
Machaliの狩猟法が効果的であれば、またそれが次世
代に受け継がれていくことになるのかもしれません。
それにしても、この雌トラはまだ生きているんですか
ね。たしかB2(バンダウガル)よりも年上だったはず
ですから、野生での記録的な老個体ということになり
そうです。






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トラの狩り (yuyu)
2013-02-04 19:59:42
現在Machaliが生きているか、現在何歳なのかは分りませんが、3歳のときに母から縄張りを奪い、13歳のときに娘のサトラに縄張りを奪われ、かつての縄張りの隅に新しい行動圏を作ったそうです。
何回かテレビ放送されていますが、撮影された年と、放送された年が違う可能性があるので、生存と年齢は不明としました。(縄張りを奪われたときは、Machaliの犬歯は3本折れていたそうです。)
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Unknown (サーベル・パンサー)
2013-02-07 00:11:39
Save the Tiger のfacebookでの情報を調べると、
Machaliはまだ生きている模様です。1997年に初めて
存在が確認された個体ですから、現在は少なくとも15
歳以上にはなるはずです。満身創痍といった状態では
あるでしょうが。先日にもマチャリとNick-maleとの
間の子で、巨虎ぶりが有名であったJhumru(Jhumroo)
http://i1198.photobucket.com/albums/aa458/phantera1/Machalifamily.jpg
(credit goes to Phants)

という雄の死が確認されていますから、野生下での15
歳を超える長命の珍しさがうかがわれます。
長い間、現地の人やツアー客の間で親しまれてきた有
名な個体ですし、ランサンボーアの守り神のような存
在でしょうか。
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Machali (サーベル・パンサー)
2014-04-08 07:42:48
Machali(Machli)のサンバー狩りの様子を捉えた、新
しい動画(2014/03/21付)です。

http://www.youtube.com/watch?v=cZC6ctt3cTw

記録が取られている野生トラの中では、最高齢ともい
うべき、稀有の老雌ですが、狩猟能力はまだ健在のよ
うです。必ずしも、近況を伝えている映像とは限りま
せんが。

現在のMachaliは、上下ともすべての犬歯を失ってい
るそうです。犬歯による殺傷力が殺がれている状況下
でも、サフォケーション狙いの「キリングバイト」
は、引き続き有効であることがうかがえます。
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