せっかく5月にも祝島へくることができたので、
さらにもう少し幸運に恵まれたら
念願のイカス漁へ行ってみたいと思っていた。
「イカス漁」とは
海底にしずめた籠で甲イカ(コウイカ)をとる漁法のこと。
4月1日が解禁だとかで、
3月後半にもなるとイカス漁をする漁師さんたちは準備に忙しい。
3月のある日、
「イカスの準備をしようや」と出かける一行に
わたしも加えてもらって山へむかった。
イカス漁というのを見るのも聞くのも初めてなので
なぜ漁の準備に山へいくのか、いまいち解せない。
とはいえ、理由もなく山へいくはずもないので
みんなのやるのを見ながら
わたしも竹やぶにわけ入って細い竹の枝をたくさん切りだす。
それをある程度の量でたばね、あとで軽トラックに積みこんで持ちかえる。
後日、庭先でその束をひろげ
鋏(ハサミ)で葉をすべて切り落としていった。
シロウトでもできる作業はここまで。
それを漁師さんがいい具合に成形し、籠につけて準備を整える。
これが、準備万端のイカス籠。
網の真んなかにある穴の両側に、
竹の枝先でつくった仕掛けがつけられている。
イカス漁解禁日の前日、籠をすべて船に積みこむ。
こうみえて籠は重量があるうえ勝手分からぬ初心者なので
嬉々として出かけたわりに、わたしはあえなく見学組。
翌朝は早くから船をだし、籠を所定の位置に沈める。
そのあとは一定期間ごとに船をだして籠を揚げ、
中にはいっている甲イカをイケスにいれて持ちかえる。
これをイカス漁の期間が終わる6月上旬までつづけることになる。
最盛期は5月と聞いていたから、
できれば5月、せめて6月上旬の漁期間中に祝島へきて
籠をあげるところを見たい、というのが
4月からわたしのココロ密かな願いだった。
なので、今回はついた早々にイカス漁のことを尋ね、
翌朝は張りきって起きて漁に連れていっていただいた。
予報では雨が降るかもということだったけれど
さいわい青空もみえたうえ、そのうち日も射してきた。
祝島沖の漁場へいき、
自分の目印の浮きから祝島へむかって船をゆっくり移動させながら
籠をひとつひとつあげていく。
(上の写真で奥にみえるのが祝島)
海底からあげた籠には、
仕掛けにも網にも小さな黒い塊みたいなものがついている。
この黒いのが、甲イカの卵だという。
イカス漁は、産卵にきた甲イカに
産みつけ場としてイカス籠(特に入口両側の竹枝の仕掛け)を提供しつつ
籠のなかに入ってきた甲イカを獲るという漁法のようだ。
籠の中の甲イカをすみやかにイケスへ投げこみ、
空になった籠をふたたび海底へ。
甲イカはもちろん生きているので、油断すると顔や服に墨をかけられる。
作業にはかなりの素早さが必要のよう。
ド素人でどうにかなる感じにはとても見えなかったので
我が身の無能ぶりを噛みしめつつ、おとなしく見学。
イケスにおさまった甲イカも眺めてみる。
上にむかって墨を吐くこともあるというので
あまりボケッと見ているわけにもいかない。
そうはいっても、
見れば見るほどおもしろくて、つい見入ってしまう。
何かに似てるなあ…と思ってずーっと考えて、
甲イカは爺さん顔だと気がついた。
もっといえば、爺さんは爺さんでも、仙人みたいな爺さん。
霞(かすみ)でも食べていそうな風貌でふわりふわりと泳ぐさまは
なんだか不思議でいい感じ。
あまりいい写真がないのが残念。
機会があったら、ぜひご自分の目で
爺さんな甲イカを確認してみてほしい。
ところでこのイカス漁、けっこう体力を使う労働だとおもった。
ぜんぶの籠をあげるのにかかる時間は1時間半か2時間くらいだったけど
まるで一日たっぷり労働したような気分だ。
実際に漁をしたならいざ知らず、
わたしは見学しただけだというのに。
海風に吹かれるせいだろうか。それとも日ごろの体力不足?
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