『FAKE』
(2016・日本・1h49)
監督・撮影・出演 : 森達也
出演 : 佐村河内守、佐村河内香
聴覚障害を持つ音楽家である事で「現代のベートーベン」とマスコミに持ち上げられ、後のゴーストライター騒動で表舞台から姿を消した佐村河内守氏。彼は本当は何者なのか? カメラがその姿を映し出す。
ゴーストライター騒動について詳しい事は知らないが大体のいきさつは知っている。
このドキュメンタリー映画ではあくまで佐村河内氏側に立つ。それは森監督のこれまでのスタンスと一致するもので納得。
相対する二つの立場があるなら両方の意見を公平に聞くべきで、片方を世論側とするなら世論側ではないあまり意見が伝わってこない側の意見を公平に伝える。というのが森監督のスタンスではないかと思っている。
自分の場合、世間に詳しく伝わっているのであろうゴーストライター側の意見をあまりよく知らないのでこの件について佐村河内氏寄りの見方になってしまったが。
本作ではゴーストライターの人と暴露記事を書いた週刊文春の記者の方にも取材を申し込んだが断られたとの事。
ラスト12分間で世間で信じられている事実をひっくり返す出来事が起きる。
それによって音楽家としての才能を示したものの、聴覚障害についてはやっぱりそうなのかと思わざるを得ない。
そして最後に森監督が投げかけた質問、それに答えない佐村河内氏。やっぱりそうなのかと。
本作のタイトルに『FAKE』と付けた真意は、マスコミが騒動を面白さだけを優先させて伝えた事をFAKEとしているのか。
それとも森監督も佐村河内氏に対して何らかのFAKEを感じたのか。
佐村河内氏は結局本当の姿を見せなかったと思う。見せたいと思って見せた部分も有るけど、見せたらマズいと隠した、偽った部分もあるんじゃないか。
それがいいか悪いかは別として佐村河内氏だけでなく人間誰でもそういうFAKEな所は有るんだと思う。そういう意味なのか。

『ブルックリン』
"BROOKLYN" (2015・アイルランド=イギリス=カナダ・1h52)
監督 : ジョン・クローリー
出演 : シアーシャ・ローナン、エモリー・コーエン、フィオナ・グラスコット、ドーナル・グリーソン、ジム・ブロードベント、ジュリー・ウォルターズ
1950年代、アイルランドから職を求めてアメリカ、ニューヨークに渡った女性。母と姉と離れて暮らす生活に慣れアメリカで生きる決心を固めた頃、アイルランドに一時戻らなければならなくなった。
アメリカでの新生活に初めは馴染めず故郷に想いを馳せる姿に胸がキュンキュンした。アメリカとアイルランドが金銭的にも時間的にもおいそれと戻れる距離じゃないってところが余計切ない。
でも次第に芯の強さを発揮してたくましさを見せる。そういう弱さと強さを持った役にシアーシャ・ローナンがぴったりとハマっていて良かった。
主人公は局面を自ら切り拓いていくというより、成り行きに流されてゆくタイプの様。それは当時の一般的な女性においては至極当然な事なんだろうけど、一時戻ったアイルランドでどうなっちゃうんだろうと思ってちょっともどかしい。
しかし、流される中でここぞという重要な時には毅然とした決断を下す。やはり芯の強い女性だった。
アイルランドには水着を持って帰ったんだろうか? 帰った理由からするとなんで? と思わないでもないが。
偶然旅行カバンに詰めた衣服の中に水着が混じっていた。と理解するべきなのだろう。そういうシーンを入れてしまうのもわざとらしいし。

『トリプル9 裏切りのコード』
"TRIPLE 9" (2015・アメリカ・1h55)
製作・監督 : ジョン・ヒルコート
出演 : ケイシー・アフレック、キウェテル・イジョフォー、アンソニー・マッキー、アーロン・ポール、クリフトン・コリンズ・Jr、ノーマン・リーダス、ケイト・ウィンスレット、ガル・ガドット、テリーサ・パーマー、ウディ・ハレルソン
現役の警察官を含む犯罪グループは実現困難な計画を成功させるため、警察の機能を一時的にマヒさせる手段を実行する。
ネタバレ有。
警察と犯罪グループの細かいディテールにこだわりが感じられる所が良かった。特には警察が容疑者宅に捜索に入る際のフォーメーションがカッコいい。
群像ドラマの物語は最終的にウディ・ハレルソンが最重要人物となる。
ただ、ウディ・ハレルソンは見ようによっては可愛らしい顔立ちなのでやや重みに欠けるというか。そんな事は無いか。でも声もちょっと可愛いし。それがシリアス演技に逆に効果的というのはこれまでも見させてもらったけど。
ケイシー・アフレックが主演だと思っていたので、ウディ・ハレルソンが中心で物語が終わる展開が意外でしっくりこなかっただけなのかもしれない。
『日本で一番悪い奴ら』
(2016・日本・2h15)
監督 : 白石和彌
出演 : 綾野剛、中村獅童、YOUNG DAIS、植野行雄、矢吹春奈、ピエール瀧
北海道警察で銃器取り締まりのエースと呼ばれた刑事。何故エースとなる事が出来たのか、その真相と共に警察組織の実情に迫る。
国民を守る警察組織の薄汚い現実を見られる面白さを感じる所も多少は有ったけど、それを延々と長時間に渡って見せられるのはしんどかった。
ちょっと演技も大袈裟に感じられた。なんか無理してる感じ。
これがかつての東映やくざ映画の面々だったとしたら無理してるとは感じ無いのかもしれない。
矢吹春奈さんが時折森三中の黒沢さんに見えるのは多分正しい。

『二ツ星の料理人』
"BURNT" (2015・アメリカ・1h41)
製作・監督 : ジョン・ウェルズ
出演 : ブラッドリー・クーパー、シエナ・ミラー、ダニエル・ブリュール、オマール・シー、マシュー・リス、エマ・トンプソン、ユマ・サーマン
超一流の料理人がパリで姿を消して2年。ロンドンに姿を現しミシュランの三ツ星を獲得するべく行動に入った。
ネタバレ有。
天才であるが故に傲慢だった男が人との出会いによって新たな人生をスタートさせる。人情ドラマと括ってしまえばそれだけではあるけど、出演者が良いので安心して観ていられる。
ブラッドリー・クーパーの酔っぱらい演技はさすが『ハングオーバー』で面白い。
ある人物の復讐劇でもあるがその事に全く気付かせず、でも伏線はしっかり有って。そこが上手くて、ドラマにもいいインパクトが有ったなあと思う。
超一流であるためには超一流の厳しさが必要という事。その厳しさをただ見ているだけなのに挫けそうになってしまう。
超一流の厨房では叱責が飛び交う。料理の中に相当量の唾が入っているものと思われ、それは衛生的にどうなのかと思うが。
イギリスは食事が不味い。と、なんかで情報を得てそういう印象を持ってしまっていて、なんで本作はわざわざそのイギリスを舞台にしたんだろう?と思っていたが、フランス料理やイタリア料理の一流店ならそれは当然美味しいんだろう。
それにイギリスの食事全般が不味いのではなくて、イギリス料理にフィッシュ&チップス以外にこれといった名物みたいなものが無いという事を勝手に歪曲してイギリスの食事は不味いに誤変換していたのかもしれない。でもイギリス料理は本当にあれらしいが。

『シークレット・アイズ』
"SECRET IN THEIR EYES" (2015・アメリカ・1h51)
監督・脚本 : ビリー・レイ
出演 : キウェテル・イジョフォー、ニコール・キッドマン、ジュリア・ロバーツ、ディーン・ノリス、ジョー・コール、マイケル・ケリー、アルフレッド・モリナ
13年前に起きた一人の女性の殺人事件。当時FBIに所属していた男は辞職してからもその犯人を追い続け、ついにその手掛かりを見付け犯人逮捕へと行動を起こす。
2009年のアルゼンチン映画『瞳の奥の秘密』のリイマジネーション版。『瞳の奥の秘密』は強く印象に残っている所も有るが、内容はあまり覚えていなくて。
本作では2002年のアメリカで起きた事件が発端となっていて、そうなると2001年のニューヨークのテロも内容に絡んできて、そういう所がリイマジネーションなんではないか。
本作を観て『瞳の奥の秘密』ってこういう内容だったんだと改めて理解出来た気がしたが、どうやら結末もリイマジネーションされているらしく、そうなると理解出来た気がしたのも間違って理解した気になっているのかもしれない。
『瞳の奥の秘密』で強く印象に残ったのは、サッカースタジアム上空の空撮からスタジアム内での追跡劇をワンカットで見せ切ったシーン。
本作でもそのシーンが有るかと期待していて。本作ではアメリカ、ロサンゼルスという事で野球場、ドジャーススタジアム。スタジアム上空から客席に降り立つまではワンカット。
もしかして本当にやるのか? とワクワクしていたら追跡劇はカットを割っていた。残念。
再現するのは難しかったのか。それともやろうと思えば出来たけど、『瞳の奥の秘密』に敬意を表してあえてやらなかったのか。
『好きにならずにいられない』
"FUSI" (2015・アイスランド=デンマーク・1h34)
監督・脚本 : ダーグル・カウリ
出演 : グンナル・ヨンソン、リムル・クリスチャンスドウティル
フーシはアイスランドに住む43歳独身の男。愛する女性に出逢いそれまでのフーシには有り得なかった行動を起こす。
フーシは巨漢であるが手先が器用だったり、優ししいけれどそれをひけらかさず、趣味はマニアックであるが好人物。しかし、シャイ・ボーイであるがためにその良さが理解されなかったり、時には誤解されてしまう。観てるこちらもつらい。
そんなフーシが43歳にしてシャイ・ボーイから卒業。それはフーシにとってはつらい経験でもあったけれどシャイ・ガイとなりこれからの人生はきっと明るい。そう思わせるのはフーシがいい奴だったから。そして映画が良かったからだろう。

『教授のおかしな妄想殺人』
"IRRATIONAL MAN" (2015・アメリカ・1h35)
監督・脚本 : ウディ・アレン
出演 : ホアキン・フェニックス、エマ・ストーン、パーカー・ポージー
生きる意味を失った大学の哲学科教授がモラルに反した事で生きる意欲を取り戻す。
終盤眠気との闘い。睡眠不足で観たという事もあったけど、それよりも内容に興味が持てなかった。
インテリ層の高尚な会話劇によって反道徳的な物語が描かれる。それを哲学と絡めて批判、揶揄しているのかもしれないが、どうにも面白いとは思えなかった。自分には高尚過ぎたのかもしれない。
ホアキン・フェニックスはウディ・アレンの口調にはなっていなかった。
2016年はジェシー・アイゼンバーグ主演で『カフェ・ソサエティ』(日本では5月公開予定)とAmazonプライム配信で監督・脚本・主演のドラマシリーズ"CRISIS IN SIX SCENES"を発表。
2017年も新作映画の予定あり。ウディ・アレン、80才になってもまだお元気。

『葛城事件』
(2016・日本・2h00)
監督・脚本 : 赤堀雅秋
出演 : 三浦友和、南果歩、新井浩文、若葉竜也、田中麗奈
無差別殺人事件を犯した青年。その一家、そして青年と獄中結婚をした女性。事件に至るまでと事件が起きた後のそれぞれの人生。
無自覚であったり、自覚があったりしながらそれぞれが問題を抱えていて、その問題が他の人に影響を及ぼし更なる問題を生み出す。
どんよりとした映画で、日本映画だとよりそれがダイレクトに伝わってきてしまい観ててしんどい。
どうすればこのような悲惨な結果にならずにすんだのか。その答えは映画の中には無く。
家族の絆とか信頼とかの安易な答えを出さない。絆も有ったのだけどそれを無意識に壊してしまう人がいる。そういう人は実際にいて、そういう人への改善策は無い。
そういう人の身内として生まれてきてしまったのならどうすればいいのか。やはり安易には答えは出せないと思う。
青年が犯してしまった事は行き詰った上での一つの答えなのだろうけど、それは出してはいけない答えで。
人間社会には答えの出せない、しかも正解の無い問題が山ほど有ると。どんより。
池袋シネマ・ロサにて。

『ラザロ・エフェクト』
"THE LAZARUS EFFECT" (2015・アメリカ・1h23)
監督 : デヴィッド・ゲルブ
出演 : オリヴィア・ワイルド、マーク・デュプラス、ドナルド・グローヴァー、エヴァン・ピーターズ、サラ・ボルジャー
死者の蘇生の動物実験に成功した研究者チーム。まだ研究段階であったが禁断の人間の死者への蘇生を行なってしまう。
死後の世界を知った人間が現れた時、今有る宗教はどうなるのか。みたいな方向に話は行きかけて。とても興味深かったけどそこにはあまり深くは踏み込まず。
そんな方に行ったらとんでもなくややこしい事になるだろうし、あくまで死者の蘇生が可能となった時に起こり得る事として提示されるだけでも良かったと思う。勝手に色々考えられるし。
脳の活性化による超人類の誕生。というなんかどっかで観た事のある映画、『LUCY/ルーなんとか』みたいになったけど、こちらはSFホラー。しかも83分。『LUなんとか/ルーシー』も89分だけど。
超大作でも大作でもない小品のSFホラーとして面白かった。
デヴィッド・ゲルブ監督は日本の寿司職人のドキュメンタリー映画『二郎は鮨の夢を見る』の監督。『二郎は鮨の夢を見る』は未見なのだけど、SFホラーと寿司ドキュメンタリーの振り幅がすごいなあと。
『アウトバーン』
"COLLIDE" (2016・イギリス=ドイツ・1h39)
監督 : エラン・クリーヴィー
出演 : ニコラス・ホルト、フェリシティ・ジョーンズ、ベン・キングズレー、アンソニー・ホプキンス
ドイツで出会ったアメリカ人カップル。重病を患う愛する女性を救うため男は危険な仕事に手を出す。
主要キャストはほぼイギリス人ながらそれぞれが演じているのはアメリカ人、ドイツ人、トルコ人(?)と、なんかちょっと変わっている映画。
イギリス人俳優は出演料がアメリカ人俳優に較べたら安い。とかいう話も聞いたりするが。
でもベン・キングズレーとかアンソニー・ホプキンスにはダメ元でとりあえず話持っていったら引き受けてくれちゃった。みたいな事を想像してしまう。
変わっているのはそれだけで、カーアクション・ラブロマンス・サスペンス映画としてはそんなに変わってはいない。
ただアウトバーンでカーアクションをやりたかった。それだけかも。
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『デッドプール』
"DEADPOOL" (2016・アメリカ・1h48)
監督 : ティム・ミラー 製作・出演 : ライアン・レイノルズ
出演 : モリーナ・バッカリン、エド・スクライン、T・J・ミラー、ジーナ・カラーノ、レスリー・アガムズ
余命わずかと宣告された腕利きの元傭兵がある組織に目を付けられ不死身の体を手に入れる。しかしその代償として醜悪な容姿にされてしまった男は元の姿に戻るためデッドプールと名乗り組織をつけ狙う。
これまでのアメコミヒーローにはいなかった不真面目な正義のヒーロー。そこが面白かった。
一応正義側にいるという事だけで当人にその意識はほとんど無い。でも悪者ではない様。真面目な正義のヒーローたちと対立したりはしそうだけど。
コメディテイストもあるヒーローモノなだけに脇のキャラクターたちも面白かった。
本作は20世紀フォックスのマーベルヒーロー。『X-MEN』『ファンタスティック・フォー』との共演は可能なようだけど、ディズニーのマーベルヒーロー『アイアン・マン』『キャプテン・アメリカ』などとの共演は今の所は無さそう。色々ややこしい。
でも『X-MEN』にデッドプールが乱入したら大分作品の雰囲気が変わりそう。

『10 クローバーフィールド・レーン』
"10 CLOVERFIELD LANE" (2016・アメリカ・1h43)
監督 : ダン・トラクテンバーグ
出演 : メアリー・エリザベス・ウィンステッド、ジョン・グッドマン、ジョン・ギャラガー・Jr
声の出演 : ブラッドリー・クーパー
車同士の衝突事故で意識を失った女性が目覚めたのはある地下室。密閉された地下室には二人の男がいて、一人の男が地下室の外に出る事はとても危険だという。
『クローバーフィールド/HAKAISHA』の続編という認識で観たが、そんなに密接につながってはいなかったと思う。同じ世界でほぼ同時期に別の場所で起きた物語といった所。と思っていたが、ウィキペディアを見たら時代設定は違くて、数年後らしい。劇中のアイフォンが最新機種だとか。全然気付かなかった。声だけ出演のブラッドリー・クーパーも全然気付かなかった。
本作の登場人物は『クローバーフィールド/HAKAISHA』での大惨事を知らないように思えた。もし知っていたらその事と関連付けて考えたりもするんじゃないだろうか。それが無かったのでほぼ同時期かと思っていた。
そこら辺はまだ謎のベールに包まれているような。一応映画は3部作構想らしい。
アメリカ、怪獣(地球外生物)、「クローバーフィールド」。その3つのお題を劇中使用すれば何をやっても構わないという風にシリーズ化されれば面白いんじゃないかなあと思っていて本作はその方向性を示して上手くいったと思ったけど、その方向性とやらを勝手に勘違いしていただけなのかもしれない。でも面白かった。
と、自らに問うて実践してみた。
コンビニの親子丼をチンしてケチャップで炒めるだけ。
まあそりゃなるわな。と、当たり前のように親子丼はチキンライスに成り得た。
しかし、チキンライスは親子丼には成り得ないのだ。という事を忘れてはならないのでしょう。
コンビニの親子丼をチンしてケチャップで炒めるだけ。
まあそりゃなるわな。と、当たり前のように親子丼はチキンライスに成り得た。
しかし、チキンライスは親子丼には成り得ないのだ。という事を忘れてはならないのでしょう。