『エミリア・ペレス』 2024年、フランス=ベルギー、2時間13分。を観た。
メキシコシティ。危険な街で弁護士の職を得ながら上司のための下働きに甘んじているリタの前に突然現れる泣く子も黙る麻薬王マニタス。リタの有能さを見抜いているマニタスは破格の報酬で極秘の依頼をするがリタには断る権利は無かった。
ネタバレ有り。
ミュージカルだったのが意外だった。メキシコの麻薬カルテル絡みという事で物騒になり過ぎるのを和らげるためなのかと思った。実際その効果は有ったと思うがそれよりも麻薬カルテルがそれほど絡んではこない。
ミュージカルなのも麻薬カルテルの事も想像していなかったが話自体も思ってもいなかった方向にどんどん進んでいく。
自分の観た限りでジャック・オーディアール監督作品は必ずハッピーエンドでいくら不穏な前触れが起きても安心して観れていたが本作はどう考えてもハッピーエンドは無理だと思えた。
実際ハッピーエンドでは無かった様に思えたが、しかしよくよく考えてみればエミリアはその町の人たちからしたら突然どこかから現れて豊富な資金力によって町の浄化を始めた聖人(聖母とは言わない方がいいのか)で、エミリアが現れてからは多分何ヵ月という感じだったと思うけどその成果は確実に出ていたその矢先にああいう事が起きた事で更にエミリアを周囲の人から見た聖人にしたのだろうと思う。エミリアが聖人になる事を望んでいたのかは分からないがこれもある意味でハッピーエンドなのかもしれない。『スカーフェイス』のトニー・モンタナの最期、誰も信じられなくなって屋敷に何台も防犯カメラを設置して厳重な警備を施してドラッグでラリってる中殺し屋集団の襲撃受けて重火器で応戦するけど蜂の巣にされる事からしたらやっぱりハッピーエンドではないか。
町の人たちはエミリアの聖人伝説を疑わないけど、その伝説の裏側には知る人は殆どいない想像もつかない物語が有ったと。裏側の重大な一部だけを知るのがリタと整形外科医。実際の聖人伝説を知らないけどどんな伝説にも知る人の少ない裏側が有るという事か。
情報過多な現代(自ら発信するという意味においても。それによって現実で本作の主演俳優の過去の行動が議論を呼んだ)では神聖な伝説は起こり得ないのかもしれないが、もし現代で起こり得るとしたら自分の過去を消したくてそれが完璧に出来る人物は麻薬王ぐらいだけなのかも。
ジャック・オーディアール監督はちょっとした日常描写が上手い監督だと思っている。本作ではメイド達が休憩時間にスキーゲームをする所。あれで雇い主のエミリアとメイドとの関係が良好なのが窺える。スイスでもメイドと言うかスタッフ(?)の人達と別れを惜しんでいるシーンが有って、こちらはエミリアではなく元妻だったけど人間関係が良好に築ける人物である事が窺えた。