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第016話 噂の彼

2021-06-30 09:03:02 | 召喚大統領が異世界を逝く!

第16話

年の瀬も迫る頃、このコーライ国では、王室主催の”宵越しの晩餐会”が催されるのが通例であった。
王族の出席はもちろん・高位貴族・政府高官・高位軍人・その年の話題の人・地方で功績を挙げたお利口さんへのご褒美枠・各国大使などを招いて盛大に執り行われていた。異世界の某国の園遊会みたいなものであろう。

この時期の王室儀典局は、まさに戦場である。
招待者の確認、複雑な人間関係・国際関係を考慮した晩餐席の芸術的配置、晩餐に出される食事・酒肴の品質チェック、テーブルでの晩餐が終わったのちの立食形式での交流時に問題が発生しないように気を引く余興や身内の”工作員貴族”を配したり、気を遣うこと、気を遣うこと。
晩餐会が終わると儀典局の人間は数人はダウンするのが常であった。

儀典局晩餐会対策チームを取り仕切る儀典次官が、悲鳴を上げた!
「この時期になって、追加で二名をねじ込めだとぉ?!」

儀典局長
「すまんな。上(王室)からのごり押しでな。断れない案件なんだ…」

儀典次官
「…。しょうがないですね。で、誰なんです?」

儀典局長
「一人はマルペ・ヨンジューン子爵/大尉だな。なんでこんな下位の貴族・階級の軍籍でとは思うが、まだいい。こちらは卓に関しては特に指定されていないし、会場に入場できて立食の際にフリーで動ける立場でありさえすれば良いと、いかにも王室側の用意した”工作員”風だから、わかる。問題はもう一人のムーン・ジェガンとかいう男の方だ。こっちに関しては明確に上位卓への配置が指定されている。」

職業柄、この栄えある宴席に招待されるような上流階級の人間・高官や、彼らの話題の種になりそうな「時の人」に関する情報収集は日頃、決して欠かさない儀典次官であるが、初めて聞く名前だった。
「?!。不勉強で申し訳ありませんが、どのような方なのです?」

儀典局長
「王室から提供されたプロフィールだと、コチュ・ジュン市の島出身の田舎者だな。急遽"お伽衆"に任用されたのだとか。ずいぶんとまた古くさい役職を持ちだしたものだ。それにしたって上位卓に配置するというのも不自然だ。ジェーン・スク王女殿下の隣という指定も悩ましい。非常に不自然だが、ジェーン・スク王女殿下の席次を少し下げるしかなかろう。」

儀典次官
「まさか、ジェーン・スク王女殿下の”お相手”が平民出身のその人だとか?!」
職業柄、しないでいい邪推をする次官だった。

儀典局長
「いや年齢的にそれはないな。まあとにかく頼むよ。」

儀典局員たちがパズルの組み直しに呪詛を吐きつつ、プロデュースした”宵越しの晩餐会”その日がやってきた。
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王宮内にかくまわれているムーン・ジェガンが、侍女にお仕着せを着せられながら、念押しされていた。

ジェーン・スク王女
「いいですか。今回の目的はとにかく顔つなぎです。テーブルでは特にこの国の最重要人物達に囲まれることになりますが、異世界だの具体的なことは言わず、如才なく立ち回れることをアピールするのに専念してください。細かいことは横の私がサポートしますから。各方面のトップに顔さえ繋いでいけばそのうち少しずつ権限が振るえるように工作を進めることが出来ます。」

ムーン
「皆まで言うなニダ。ウリは一国の大統領を勤め上げた男ニダよ!礼儀の正しさでウリ達の右に出る民族はいないニダ。」

ジェーン・スク王女
「(なにかしらこのこみ上げる不安は…)」

かくて舞台の幕は開ける。


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