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『聴こえてる、ふりをしただけ』 (2012) / 日本

2012-06-28 | 邦画(か行・さ行)


監督: 今泉かおり
出演: 野中はな 、郷田芽瑠 、杉木隆幸 、越中亜希 、矢島康美 、唐戸優香里
試写会場: 京橋テアトル試写室

公式サイトはこちら。(2011年8月11日公開)






webDICEさんからのご招待で行って来ました。 いつもありがとうございます。

今泉力哉監督の奥様のかおりさんの作品である。 力哉監督作品は先日『ヴァージン』の中の10代篇「くちばっか」を拝見しました。ティーンエイジャーの透明感やピュアな部分の描き方が素晴らしかったですが、奥様の今回の作品はもっと主人公の年齢を下げて11歳の小学生。
2012年ベルリン国際映画祭「ジェネレーション K プラス」(年少向け)部門にて、準グランプリにあたる「子ども審査員特別賞」を受賞した本作。文字通り11人の子どもたちが審査員となり、選出された作品である。
今泉かおり監督は助成金をいただき、産休を取得した間に本作を撮影したとのこと。 赤ちゃん産みながら、育てながら映画も作ってしかも受賞してしまうというのは並大抵のことではないはずで、そのバイタリティに感服する。


あらすじは、アップリンクさんのページよりお借りしました。
不慮の事故で母親を亡くした、11歳の少女・サチ。周囲の大人は「お母さんは、魂になって見守ってくれている」と言って慰めるが、なかなか気持ちの整理はつかない。何も変わらない日常生活の中で、サチの時間は止まっていく。お母さんに会いたい。行き場のない想いを募らせるサチのもとに、お化けを怖がる転校生がやってくる――。


11歳というのは、子どもが子どもでいられるギリギリの年齢なのかもしれない。
目に見えないことを信じてみたり、言われたことを素直に聞ける一方で、保身のためには自分を優先させてしまうという大人の悪い面もそろそろ引き継いでしまうような年齢。
しかしながら判断力は未完成だからいろいろと手探りで周囲との関係を取らないといけない。そのアンバランスさゆえに、この物語は生まれている。


母の突然の死は、それだけでも11歳の少女にとっては衝撃なのに、当然現実はそこだけでは済まなくて、あれこれと一気に立ち向かわなくてはいけないことがサチには訪れる。
日常生活の細々としたこと、今までお母さんが当然のようにやってくれていたことは自分がしないといけない、お父さんは忙しそうだけど大丈夫かな。そういった「目の前にあること」に、子どもの自分も否応なしに向かい合わないといけない。
その一方では、11歳の少女としての日常も次々と迎えないといけない。仲良しグループでの自分のポジション、クラスや学校で自分はどのように見られているのか、どう振る舞うのか。そして家の中の問題。悩みは尽きないのに悩みだけが飛躍して増えていく。
こんな時、友達ももちろん大事な存在なのだろうけど、お母さんがいてくれたら相談に乗ってくれたり、あるいは乗ってもらわないかもしれないけど、見守ってくれたり、こんなに心細くはなかったのに。でも子どもにとって絶対的に安心な存在であるはずの母はもう、この世にはいない。


この世にはいないはずの母だけど、魂はどこかできっと自分を見守ってくれているはず。そう思っているサチの前に現れた転校生・希との交流は、サチの信念を揺るがしていく。
見えない霊を怖がる希に、サチは見えないものを信じている自分との共通点を見出し、仲良くなる。そのために、希を排除しようとする元々の友人と決裂してまでも。
だが希が自力で霊を凌駕してしまったとき、サチは裏切られたように感じたのではなかったか。
その時、サチの中に初めて悪魔が生まれてしまう。自分を裏切った子に優しくする必要なんかない。優しいお母さんにならって周りの人には真心を持って接してきたけど、その優しかった母の面影を信じている自分を否定することは許さないと。


少女たちの葛藤は、この作品のもう1つの柱となっている。
誰もが自分を認めてもらいたい、受け入れてもらいたいと願う思春期だけど、少女たちは残念なことに器用ではない。人と人との関係が推し図れなかったり、心が読めないこともある。自分に都合が悪いこと、不快なことが起こったとき、大人なら何事もなかったかのようにやり過ごすのに、少女たちはそれができない。
学校だけが世界の全てである子どもたちには、否定されることは嫌なはずなのに、そこをうまく泳ぎ切れない。大人になる過程で誰もが味わう苦々しさの描き方は自然体である。


ラストの長い長いサチの慟哭は、母の死がもたらした思いもよらぬあれやこれやの出来事に対して、うまく受け止め切れない自分へのいらだちもあっただろうし、そんなことを考えなくてもよかった子ども時代が終わってしまうことへのジレンマなのかもしれない。
お母さんの魂が見守ってくれているはずなのに、お守りだってあるはずなのに、どうしてこんなに苦しいの?
取り巻く環境に押しつぶされそうになる自分が、いつの間にかにっちもさっちもいかなくなって吐き出した叫び。
思いっきり叫んだら、きっと何をしていいのかが見えてくる。そして自分の信念に流されないことを学んでいく。大人になるとはそういうことだ。
サチは皆よりも早くそのことを感じてしまった。
もう元には戻れないけど、多くのことを感じた分、素敵な人になるはずだから。




とにかくキャスティングが素晴らしい。 特に子どもたち。 サチも、希も、美由紀もどんぴしゃりな子どもたちばかり、よく見つけたなと思う。
サチが全編にわたって醸し出す不安。彼女が子どもらしく笑うのはほんの1シーンくらいだっただろうか。弾けるように笑えないことがあれば、子どもだって大人と同じように顔が曇る。気が晴れないしんどさをよく表現している。
そして特筆すべきは希役の郷田芽瑠。純粋なのに「他の子とはちょっと違う」役柄をスクリーンからすぐ認識できるようにすると共に、周囲を微妙に苛立たせるという難しい表情を、出だしのしゃべり方から完璧に演じている。手助けしてあげないといけないのに、手助けしてしまうと友達関係のバランスが崩れてしまう存在。小中学生の女子同士の関係なら「あるある」とうなずけるシチュエーションにぴったりの配役。
全員が自分の立ち位置をとてもよくわかっているので、演技が自然。 クラス内のヒエラルキーがもたらす、女子のグループによくある出来事を焙り出すことに成功している。
母の死が円心状に描き出す事情と、少女の成長をうまく絡めています。 落ち付いた作風なのに心を離さない魅力がある作品。


★★★★☆ 4.5/5点






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6 Comments

コメント日が  古い順  |   新しい順
ありがとうございます (今泉力哉)
2012-07-08 12:15:32
ご鑑賞ありがとうございます。昨晩この文章を読んで、なぜか泣いてしまいました。ありがとうございます。監督の夫、今泉力哉
今泉監督 (rose_chocolat)
2012-07-08 12:37:12
拙文をお読みいただきましてありがとうございました。

実は私も書きながら泣けて泣けて仕方がなかったのです。
心の中に「11歳の少女」を抱えている人ならば、わかっていただけるのではないでしょうか。
また思い出すことがありましたら書き足すかもしれません。それほど奥が深い作品でした。奥様にもどうぞよろしくお伝えください。
Unknown ()
2012-08-27 03:01:54
2回目をやっと鑑賞。
8/26はこっぴどい猫背も気になったのですが両作品とも3回目で飽きたので(汗)
1年ぶりに鑑賞。
いろいろ追記しました。

2回目になると「ああ、そういえば・・・」のシーンがたくさんありましたね。

かおり監督は次回作の構想が固まったらしいですよ
谷さん (rose_chocolat)
2012-08-27 08:28:51
アップリンクはなかなか行く時間が取れないんですが、2回目見たんですね。確かに再見するといろいろと気がつくこともある作品のように思います。
Unknown (SGA屋伍一)
2012-12-25 22:38:50
ども。感心したのは指輪を捨てたさっちゃんの後ろで、ささーっと誰かが走ってたシーン。本当にちらっとだったので気のせいかな、と思ったんですが、あとで「ああ・・・」と腑に落ちました
さっちゃん役の子は「もうこれでお芝居はしない」と言ってたようですが、もったいないな・・・
ごいちくん (rose_chocolat)
2012-12-26 06:11:40
そのシーンは忘れちゃったけど、この年代の少女たちの描き方が秀逸でしたね。
駆け引きとか嫉妬とか。

さっちゃん役の子、そうなんですよね。進路とか決まって落ち着いたら役者目指してほしいなあと思うけど、無理なのかな。

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