監督: 呉美保
出演: 綾野剛 、池脇千鶴 、菅田将暉 、高橋和也 、火野正平 、伊佐山ひろ子 、田村泰二郎
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芥川賞候補に幾度も名を連ねながら受賞がかなわず、41歳で自ら命を絶った不遇の作家・佐藤泰志の唯一の長編小説を、綾野剛の主演で映画化。「オカンの嫁入り」の呉美保監督がメガホンをとり、愛を捨てた男と愛を諦めた女の出会いを描く。仕事を辞めブラブラと過ごしていた佐藤達夫は、粗暴だが人懐こい青年・大城拓児とパチンコ屋で知り合う。ついて来るよう案内された先には、取り残されたように存在する一軒のバラックで、寝たきりの父、その世話に追われる母、水商売で一家を支える千夏がいた。世間からさげすまれたその場所で、ひとり光輝く千夏に達夫はひかれていく。(映画.comより)
これも・・・ 実は2回も見ているのです。1回は4月にシネコンで、2回目は9月、テアトル新宿で監督の舞台挨拶付き凱旋上映の時に。
でもなんだかどっちも直後にバタバタしてしまって全然ブログ書けてなかった(汗)
ですが私にとって今年を代表する1本となりますのでこれだけは年内に書こうとw (→書いてる今日は年明け1月1日。。。)
佐藤文学の映画化、心待ちにしていました。ちなみに原作は未読。
彼の描いた世界、函館を題材にした架空の地方都市「海炭市」を舞台にしたオムニバス形式の『海炭市叙景』も、そこに生きる人々の日常と苦悩を緻密に描いていた。これもとても素晴らしかったけど、『そこのみにて光輝く』は1つの話に焦点を当てていたせいか、人物たちの描写も深く非常に見応えがあった。
達夫と千夏の出会いのシーン。
正体不明の男と、半ば自堕落に生きているような女。ここがもう、この後の展開を予感させるようなオーラに包まれている。
特に千夏の様子に度胆を抜かれる。下着姿で登場して、初対面の男の前でチャーハンを作る後姿。決して引き締まった、躍動感のある若い女の身体ではない。これ以上太ってしまったらずるずると堕ちて行ってしまう一歩手前の女の身体、そんな見本のような匂いがぷんぷんしてくる。脂肪がついて、その脂肪がブラジャーの肩紐に食い込んでいる様子は、よくここまで「役に合った肉のつき方」というものがあるもんだとある意味感心してしまった。またその脂肪のついた後姿は、それまでの千夏の生き方を思わせるような「諦めた人」を醸し出す。もしかして狙って役作りをしたわけではないのかもしれないけど、ここまで千夏にぴったりに仕上げてきた池脇千鶴、すごいものを見せてもらえるのかもと冒頭からかなり期待度高。
また達夫も正体不明だけどどこか過去に訳ありというか、苦悩に満ちた表情で、しかしその眼光には鋭いけど温かみももしかしたらあるんじゃないかというものを感じさせる。
「愛を捨てた男と、愛を諦めた女」というフレーズにふさわしい出会い。これは名シーンでした。
彼らを取り巻く環境はどこまでも辛い。取り返しのつかない過去を背負い、トラウマと自責の念に駆られて仕事を辞めた達夫と、家族のやむなき事情に翻弄されて真っ当な人生を歩むことを捨てていた千夏と。
彼らが望んだのは、本当にシンプルな、小さな幸せだっだのだろうけど、この作品の原作が発表されたころよりもそれを叶えることがますます難しくなっている現在では、この話がストレートに響いてくる要素も周りに簡単に見つけることができるかもしれない。所得は減り、貧困が蔓延し、人間関係が複雑になってきている時代では、たった1つの愛を叶えるのにも多くの障壁を超えて行かないといけないから。
自分には幸せはもう訪れっこない、こんな境遇から果たして自分は這い上がれるのか、救いはあるのか。逆境時に人はそう願う。しかし救いが現れることはとても少ない。しかしながら人は人に夢を見て希望を見出す生き物である以上、脱出の糸口もまた、人なのである。
世間話としてなら、達夫も千夏も見向きもされずに通り過ぎられてしまうような人生なのかもしれない。でもそこで出会った2人が為に、互いの一切を引き受けようとする。運命と言ってしまえばそれまでだが、相手の全てを引き受けることの重さは決心した者でないとわからないだろう。達夫も千夏も背負うものがあまりにも重すぎる。そして互いの周辺からも重たい十字架がやってくる。全て併せ呑んだ上で、そこに光を見出していこうと願い進む気持ち。それを愛と呼んでしまったらあまりにも短すぎる結論なのかもしれないけど。
そしてその真っ直ぐな愛を閉ざそうとする力のいやらしさもまた、本作では思いっきり歪んで描かれている。拓児はかけがえのない弟であり、そして父も母も大事な家族のはずなのに、どうしてこんなに私には重たいのだろう? 元上司のねじまがった愛情なんて抹殺してやりたいくらいなのに、どこまでも付きまとってくる。達夫の過去だってそうだ。前進しようとする自分を引き留めるものたちが多ければ多いほど、互いの気持ちを確かめるのが怖くなるのかもしれない。
愛した人を一体どこまで背負えるのか。幸せにならなくていい人などどこにもいない。わずかに差し込んで来た光を決して閉ざさないように、それだけを願って懸命に生きる人々は美しい。
丁寧にかつ無駄なく、人物たちの心情もきっちり押さえて映画化していて、文学ものの映画化の理想形に近いのでは?
綾野剛、池脇千鶴両名共にこれを代表作にしたいはずだと思いたいですね。
★★★★★ 5/5点
ひたすら暗くてメゲて帰ってきました。
downな時にみる映画じゃないです(笑)
その2本だとちょっとどんよりでしょう。
重すぎ・・・
いくらなんでも重すぎの2本立てでした(笑)
早稲田松竹、新文芸坐は好きで時々行きます。
都内だと名画座多くて、どっかで観れるからいいよね。
この人の最近の迫力はなかなかですが、若い時からそういやブーたれ顔で、スタイルもいまいちだったかなあと、思い返しました。
「ジョゼ・・」なんか、この人しか考えられないし。
貴重な女優さんですね。
逃げずに息も絶え絶えな人生に、
僅かに射した光、、、
誰かの光になれるということが、泣ける程美しかったです。。。
池脇さんは、asayanの頃から拝見してますが、
いい感じに女優業こなされてて、ティーンエイジャーから右とに転身したなと思いました。
このまま独自路線行っていただきたいです。
どうにか上げました。よかったです。
心に残る1本です。
池脇千鶴の最初のシーンについて書かれているあたり、roseさんの鑑賞眼に敬服するばかり。最初のショットで彼女の生き方がすべてわかりますね。
私は昔の神代辰巳を思い出しながら懐かしく見ました。
世界観というか、それぞれの苦悩がね。好きなんです。
池脇千鶴の役作りも見事だったと思います。
神代辰巳作品って観たことないんですけど、似てるんですね。そんな雰囲気でしたか。