「グッドナイト&グッドラック」は,1950年代に活躍したジャーナリスト,エドワード=マローの物語で,題名はかれが放送の終わりに必ず言った言葉から来ています。キャスターを務めたテレビ番組「シー・イット・ナウ」で,空軍を不当な理由で解雇されそうになった人物を取り上げたことから,マローは20世紀アメリカ最大のデマゴーグ,ジョセフ=マッカーシーと対決することになります。そして,マッカーシーが失脚するきっかけをつくったものの,自らの番組改編を余儀なくされるという物語です。ジョージ=クルーニーが,マローの相棒でこの作品の元ネタになった「やむを得ぬ事情により…」を著わしたフレッド=フレンドリーを演じ,監督と共同脚本を兼ねています。
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ジョセフ=マッカーシーは,ウィスコンシン州選出の上院議員で,1950年のある集会で国務省には205名の共産主義者が潜り込んでいると爆弾発言をし,そのリストをちらつかせました。実際はリストなどなく,かれはただ2年後の選挙に当選するための売名行為をやっただけでした。しかし,前年の1949年に19世紀末以来アメリカが市場として期待してきた中国が共産主義陣営に加わり,またソ連が核実験に成功してアメリカの核独占が崩れたというような情勢を背景として,一躍時の人になってしまったのです。
アメリカでは第二次世界大戦後,冷戦の開始とともに反共ムードは高まっていました。1947年には,下院非米活動委員会がドルトン=トランボなどハリウッド・テンと呼ばれる10人の映画関係者の共産党との関係を追求しました。かれらが憲法に基づく権利として証言を拒否すると,議会侮辱罪で告発され,1950年には最高裁判所で有罪が確定して投獄されました。以後,業界を追われ,偽名でしか仕事ができなくなってしまったのです。
「シー・イット・ナウ」が終わろうとする1958年のマローの演説が,この映画の最初と最後に取り上げられています。そこでマローはテレビが娯楽と逃避のためだけになっていくことを警告しています。テレビなどのメディアは,人々に娯楽を提供することによって,本当に重要なことから目をそらす役割を果たします。ただし,重要な問題を取り上げるようになっても,今度は政治権力が自分に都合の良い世論を作るために利用する危険性もあります。
ところで,マローやそのスタッフがさかんにたばこを吸うのを見て,眉をひそめる方もいらっしゃるでしょう。マローは実際に肺ガンを患って57歳でなくなっています。ただし,一方で「シー・イット・ナウ」は,たばこと肺ガンの関係を取り上げて,たばこ会社と対立した事実もあります。それでは,グッドナイト,アンドグッドラック。