大航海時代~ロイルート編~

大航海みたいな日々の事。そんな日のこと。

『この虹の先へ…』第十五回

2006-10-09 | 小説
ただいま、と家に入る。まっすぐ居間を目指す。親父がのん気に酒を飲みながらテレビを見ていたが、視線をこちらに移した。
「おかえり」「ただいま」
お互いそっけない。これは、いつもの事だ。
「姉さんと麗菜は?」
「優はさっき飯を食い終えていたから、台所だろう。麗菜は部屋じゃないのか」
そう言い終えると、再びテレビに視線を戻した。
 台所に行くと、姉さん発見。おふくろと話しながら食器を洗っていた。
「ただいま」
「おかえりなさい~」
二人の声がはもる。
「姉さん、ちょっと良いか?」
?顔をして、手を止め、目の前まで歩いてきた。
「どうしたの?」
これ、とバッグの中からウサギのぬいぐるみを取り出して渡した。
「まあ!ありがとう♪」
にこにこ喜んでくれた。そして、すかさず余計な一言が飛んできた。
「麗菜ちゃんのもあるんでしょう?」
くっ…やはりバレるのか。ああ、と素直に頷いた。さて、あとは麗菜に渡すだけだな。台所を出て行こうとすると、おふくろに止められた。
「英志、待って。お母さんのは?」
「……」
「……」
沈黙する俺と、にこにこするおふくろ。
「親父にでも買ってもらえ」
そう言い残し、台所を出た。扉の向こうから、『あらあら』と聞こえたが気にしない方向で。
 部屋の前に立ち、コンコンとドアをノックする。
『はい、どうぞ』
中の人から許可が出たので入る。麗菜は机に向かっていたようだ。
「お帰りなさい」
「おう、ただいま。何してたんだ?」
ちらっと机の上を見て、視線を戻す。
「宿題をやっていました」
なるほど。そういえば、麗菜の学力はどのくらいなんだろう。俺以上なのは確実なんだろうが。…と、用件を済まさなくては。
「これ、取ってきた」
人形を渡す。受け取った麗菜は目をパチクリとさせてから、ウサギのぬいぐるみをみつめる。
で、その状態が数分続いている。人形を見たまま全く動かない。
「…どうした?」
俺の言葉を聞いていたのか聞いてないのか、ぎゅっとぬいぐるみを抱きしめてこう言った。
……ありがとうございます、と。その時の笑顔が…。笑顔が…とても脳裏に焼きついた。

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