「昔から…小学生の時から成績優秀で、周りからチヤホヤされて育ってきた。ボクもボクで、調子に乗っていた。
でも、そんなある日だった。高校1年の期末テストで初めて平均点を下回った時があった。悔しかった。けど、周りの反応はその悔しさをも吹き飛ばすものだった。先生には呆れられ、同級生達からはからかわれ、親からは見放され…たった一回、そうなっただけで目の色を変えられた。それは、ボクにとっては天地がひっくり返るくらいショックな事だった。そんな状況をなんとかしようと必死に勉強した。部活も休み、遊びにも目もくれず勉強のみに絞った。おかげで、2学期中間は学年トップになった。これで、元に戻ると思った…」
奈央はそこで、区切りジュースを飲んだ。そして、ふうっ、とため息し首を横に振った。
「…戻らなかったのか?」
「戻ったよ。でも、一度そんな事されて素直に喜べない事に気付いてしまった…。先生や友人はまだいいけど、親には……親とはなんだか一緒に居たくなくなってね。一人暮らしを始めたよ。今もそんな状態が続いてる」
苦笑する奈央。なるほど、人間不信になっているわけだ。無愛想というか…恐れているんだろうな。……しかし、気になる事がある。
「どうして、俺に話したんだ?」
飲み終えた缶ジュースの缶をベコッと潰し、奈央の顔を見た。奈央は笑顔でこちらを見た。
「わかんない。なんで、あんたなんかに話したんだろうね」
そう言うと立ち上がり、歩き出した。
「ジュース、ごちそうさま」
そう言い残し、てくてくと歩いて行く。…うーん、なんというか…。
「今の笑顔、可愛かったぞー!!」
と、大声で言ってやる。
「うるさい!馬鹿ーっ!!」
と、顔を真っ赤にして怒鳴られた。ずんずんという足音が似合うような足取りで去っていった。
「あ」
去っていった方を見たまま大事な事を思い出した。
「課題、手伝ってもらっている最中じゃんか」
がくりとうなだれる俺。仕方ない、一人でやるか…。
ただいまー、と重たい袋を持ちながら玄関で靴を脱ぐ。まっすぐ部屋へ。途中会った麗菜に読書家ではないと説明して部屋に入る。ベッドに本を並べ、うーんと唸る。すると、コンコンとノックの音。
「どうぞー」
本とにらめっこしなら適当な返事をする。カチャと開く音。しばらくの間の後、
「…………あの、兄さん。本をじっと見つめてどうかされたのですか?」
遠慮がちな麗菜の声が聞こえた。
「うむ、兄さんは今忙しいんだ。何か用か?」
「あ、いえ、忙しいなら後にします」
ドアをしめようとする(正確に言うと音が聞こえる)麗菜にこう言い放った。
「ちなみにな、俺は24時間忙しいから言うなら今だぞ」
「えっ!?24時間ですか!?」
かなり驚いたようだ。
「あの……24時間は困ります…」
俺はようやく顔を上げると困ったような顔をしている麗菜がいた。
麗菜がコーヒーを淹れてきてくれた。ベッドに腰掛ける二人。
「で?」
「は、はい…。あの、明日なのですけど…お友達が兄さんにお会いしたいと…」
「…は?」
いきなりな展開に間の抜けた声を出してしまった。明日って…。
「なんで、いきなりそうなるんだ?」
「その…兄さんの話をしていたら会いたいと…。そして、善は急げという事に…」
ごめんなさい、としゅんとしてしまった。うーん、女子高生に『会いたい』なんて言われるなんて思わなかったぞ。
「そ、それで、どうでしょうか?ほ、放課後とか!」
麗菜が押しに来た。もう後には引けないといった感じだ。表情も強気中に弱気が微々たるくらいは入っていた。まぁ、課題提出にはまだ時間はあるし…良いか。頷くと、ありがとうございます!と喜んでくれた。
…そういえば、昨日の件はどうなったか聞いてみるか。
「麗菜、友達には怒ったのか?」
ギクッ!という反応された。
「それが……」
話によると、怒るには怒ったが上手い事避けられたらしい。しょんぼりする麗菜。うーむ…麗菜の友人というのは相当頭が切れるor麗菜の性格を知り尽くしているくらいの長い付き合いの子なのだろう。
さてさて、明日はどうなる事やら。
続く