グラグラグラ!!激しい揺れに思わず上体を起こす。
「な、何だ!?地震か!?」
隣でクスクスと笑い声。
「おはよう~」
和枝だった。
「ちなみに、地震じゃなくて私が揺すったんです。呼んでも起きないんだもん」
そ、そうだったのか…。なんという失態を見せてしまったのだろう。くっ、恥ずかしいな。
「照れちゃってたり?」
くっ、バレバレかよ!しかし、頷く事はできずに目を逸らしながらポリポリと頭をかくしかない。
「新しい本、借りたから帰りましょう」
時計を見る。どうやら1時間くらい眠っていたようだ。そうだな、と立ち上がり二人で外に出た。
で、何を借りたんだろうと尋ねてみると裁縫の本だそうだ。そのような本が置いてあるのが驚きだが、プロ級の力を持つ和枝が裁縫の本を読むのがさらに驚いた。って、プロ級でも本は読むか。プロなんかじゃないよーと本気で否定された。これで、プロ級って言われたらプロの人に失礼とまで付け加えた。いやぁ…それは逆なんじゃないかと。過去、マフラーだのセーターだのを見せてもらったが最初市販品と思ったくらいだ。腕だけではない、デザインも良く美希も高野も『店に出せば確実に売れる』と太鼓判を押していた。そんなんに、先ほどの台詞をプロに言ったら、それこそ逆に失礼というもんだろう。
「で、これからどうするんだ?まっすぐ帰宅か?」
「どうしようかな…」
悩む姿。
「どうだ?昼飯でも一緒に」
と、誘ってみたところ大きい頷きが帰ってきた。
で、入ったのが定食屋。ファミリーレストランやファーストフードにでもしようと思ったのだが、和枝の希望でここにした。和枝が言うには、こういう定食屋の方が落ち着いて食べられるとの事。ファミリーレストランもファーストフード店もゆっくりは食べられるが、どこか落ち着かないところがあるそうだ。そんなもんだろうか、と俺にはイマイチ分からなかったが定食屋は嫌いじゃない。先ほどの2店とはまた違う満腹感が味わえるからだ。満足感もこちらの方が上だろう。そんなわけで、俺が注文したのはトンカツ定食。和枝が鯖の味噌煮定食。意外とシブい子である。なんでも、おふくろさんの得意料理で好物の一つだそうだ。まさに、『おふくろの味』だな。そんな話をしている間に、注文した品々がやってきた。
トンカツは合格範囲の美味さだった。噌汁も合格。和枝を見ると、嬉しそうに、そして美味しそうに鯖の味噌煮を食べていた。その姿を見ると、異様に鯖の味噌煮が食べたくなってくる。そんな俺の意思に勘付いたのか、食べる?と差し出してきた。ほんとに勘の鋭い。じゃあ、と未使用の箸を使い味噌煮をちょっぴり取ってこちらの皿に移した。そして、トンカツ一切れをお返しに向こうの皿に乗せた。ありがとうと笑顔の和枝。さて、味噌煮の味は、っと…。……美味い。鯖も悪くないし、味噌も濃すぎずにちょうど良い味。和枝の表情が納得できた。また今度絶対来て、必ず頼む事にしよう。
店から出て、駅で別れた。また明日、講義で会う事になるだろう。さて、どうしようか…。
続く