大航海時代~ロイルート編~

大航海みたいな日々の事。そんな日のこと。

真・女神転生~The earth~

2009-06-15 | 小説
新たに小説をまったりやっていこうかと思います。
ここでお詫びを。
以前の小説終了後に、『次はまたオリジナル書くのか?』と聞かれ、『そうだなー』と答えましたが…こうなってしまいました。
申し訳ありません。

言い訳みたいで見苦しいですが、今回は真・女神転生ですがロイのオリジナルストーリーでございます!
真・女神転生をご存知の方も知らないという方も楽しめるようなものを書いていきたいと思います。

なお、悪魔のデータは真・女神転生ⅠとⅡをベースにしています。

今回はタイトル通り、地球が物語の鍵となります。
真・女神転生の世界とは無縁ではあると思いますが、どう絡んでくるのかはお楽しみにw(自分で言うな



この物語はフィクションです!!




20XX年---------東京。

 「……そろそろ時間だな」
腕時計で集合時間を確認する。丁度よく、改札から出てくる。
「ごめんね~」
俺は首を横に振り大丈夫だ、と頭に手を置く。えへへとにっこり笑顔。
「行くか」
うんっと頷く。

 いつも通りの日常。
 いつも通りの町並み。
 この日常が壊れるまで------それを楽しみたい。


 -------新宿。
「これ!これなんて、可愛いよね!」
満面の笑顔で、服を俺に見せ付ける。そう、ここはブティック。値段はそこそこだが、品揃えが多く人気が高い。
「はいはい、可愛い」
そう流すと、むうとジト目になる。
「む~…」
「分かった、分かった。だから、唸るな」
近藤 那美(コンドウ ナミ)。俺の幼馴染みだ。昨年、引越してしまいご近所さんではなくなったが、こうしてちょこちょこ会っている。性格はのんびり屋。だからと言って時間とかにルーズなわけではない。家事はほぼ万能。思いやりもあるので、良いお嫁さんにはなれる。今日はこうしてショッピングに付き合っている。しかし、女はなんでこう買い物が長いかねぇ…と思う入店して1時間後の俺である。

 あれから、もう一時間経ってから店を出て喫茶店に入った。目の前には、満面の笑みの那美。2時間かけて服二着選んだが、良い買い物ができたようで。まあ、この笑顔が見れただけ良かったか。
「お待たせしました。アイスカフェオレとアイスレモンティとモンブランでございます」
ウェイトレスが注文した品々を持ってきた。丁寧にテーブルに置いていく。最後に、「ごゆっくりどうぞ」と一礼。那美も習って一礼。ウェイトレスが去ると、
「いただきまーす!」
と、嬉しそうにモンブランを食べ始めた。やれやれ、と苦笑しながらカフェオレを口にした。

 モンブランを美味しくいただいて、喫茶店を出ると幼馴染みの男の子がうーんと背伸びする。
「さて、次はどこに行こうかねぇ」
うーん、と考える私。その時だった。何気ない通りすがりの男の人が気になった。…この感じ…ただ人じゃない。私の視線に気付いたのか、男の人が私を見てニッと笑った。
「間もなくだ…間もなく…」
そう言うと、そのまま去って行った。
「どうした?」
はっとして、彼の方を見る。
「今の男の人の話聴いた?」
「ん?誰か何か言っていたのか?」

 今起こった事を那美から聴いた。ただの人じゃない…そう、那美は生まれつき『人ならざるもの』が分かるそうだ。現に何度か怪我を負った事があった。霊も出会ったが別のものとも出会っているらしい。那美は『悪魔』と呼んでいた。もちろん、俺も最初は信じなかったが幼い頃から何度も彼女が怪我負ったところを見ると信じぜざるえなかった。俺には見えないので、どうしようもできないのが辛いところだ。
「間もなく…何なんだろうな?」
「うーん、わからない」
二人して首を捻るが、考えても解らないので気にしない事にした。

 とりあえず、駅に戻る。その途中、アルタ近くで一人叫んでいる少女がいた。
「話を聴きなさいよ!!これから大地震がこの東京を襲うわ!」
大地震だって!?つい足を止めてしまう。那美は不安そうな表情を浮かべている。しかし、他の人はそうではなかった。
『何あれ?新手の予報手段?』
『大地震だとよ。ははは、起こるわけねー!』
『こんな街中で大声出して…。恥ずかしいわねぇ』
『つーか、誰か警察呼べよ』
誰もが非難をしている。確かに、異様には見える。だが、何故か俺…いや、俺達は非難する事ができなかった。そして、次の言葉に背筋が凍りついた。
「地震の後、さらに悪魔も出現するようになるわ!『こっちの方が』一大事なのよ!!」
真剣に語る少女に向けて、くすくすと笑い声。
「地震の次は悪魔だって、馬鹿じゃないの」
「駄目だ、あいつ頭おかしい」
「やっぱ警察じゃなくて病院だな」
と、周りはこれまた好き勝手言っているが…俺は動けなかった。悪魔…悪魔だって…?見ると那美は俺の服の裾をぎゅっと掴んで青ざめている。まさか、あいつも那美のように…いや、それ以上なのかもしれない…!
 そこへ、警察官2人が来て少女を掴んだ。
「何をしてるんだ!?通行人に迷惑だろう!?」
「放しなさいよ!せっかく『人間達』に知らせてあげているのよ!?どこが迷惑なのよ!?」
……人間達?
「分かったから!話は交番で聴くから!」
「離せって…言ってるでしょうっ!?」
パンっ!とはじくように警官二人を弾くように突き飛ばした。
「うわっ!?」
突然の事で驚く警官二人。気がつくと、周りの人達は皆足を止め、その様子を見ていた。…今、何をしたんだ?振りほどいたようには見えなかったぞ。
「もう一度忠告するわ!間もなく、大地震が起きる!そして、悪魔が出現する!!」
そう、ふと俺と目が合った。少女は俺を見てニッと笑った。
「…見つけたわ」
こちらに歩み寄ろうとしたところを再び警官二人に取り押さえられた。
「いい加減にしないか!こっちに来い!!」
ずるずると引きづられて行く。
「離せーっ!!も、っう~~!!」
怒りが爆発したのか、顔を赤くして最後にこう叫んだ。
「人間なんか、悪魔に食われちまえーーっ!!」

 「…………」
少女が連れて行かれてから、俺達はしばらく動けなかった。彼女の最後の台詞…誰も笑う事はできなかった。それだけ、真剣で敵意に満ちた声だった。人間の直感とはこういうのも感じ取る効果があるのだろうか。悪魔か…。突然、那美がぎゅっと腕にしがみついた。
「ど、どうした?」
青ざめて震えている。
「何だか……怖いの。私達、離れ離れになってしまいそうで…!」
……………。こんな那美は初めて見た。俺は抱きしめた。
「大丈夫だ、そんな事ないさ。……きっと」
 そんな時だった。ドスンっと突き上げるかのような音が聞こえたかと思うと地面が揺れだした。
「ま、まさか…!」
地震だ。揺れはどんどん大きくなっていく。立っている事ができなくなり、しゃがむ。窓ガラスの割れる音、悲鳴、何かが落ちる音。俺も周りもパニック状態だった。頭が真っ白だ。目の前の那美が見える。そうだ、那美を護らなくては!揺れはまだ続く。今、どのくらい経ったんだ?おそらく数十秒だろうが、何十分に感じた。あれ?何をするんだっけ?そうだ、那美を…!
しかし、そうはいかなかった。揺れが治まってきた途端、人々はどこかへ求めて逃げ出したのである。そんな人ごみに俺達は飲み込まれた。立ちあがってなかった俺は蹴られ、踏まれながらも手を伸ばした。
「那美っ!!!」
那美も涙を流しながらも必死の形相で手を伸ばしていたが、届かず…俺はあまりもの痛みに気を失ってしまった……。


 一面の花畑。そこを飛ぶように進んでいた。なんて綺麗な場所なんだろう…。進んでいくと川が見えた。あれは…そうか…。しかし、川にさしかかった時。一人の老人が現れた。
「待て。お前はまだここを渡ってはならぬ」
どういう…事だ?
「お前はまだやるべき事が残っている」
やるべき…事…?
「さあ。戻るがよい」
そういうと川からどんどんと離れていく。どんどん辺りが白くなって行き…光が広がった…。



真・女神転生 ~The earth ~


 ゆっくりとまぶたが開く。眼前に広がるのはコンクリートの天井だった。そこに、ひょこっと何かが割って入って来た。
「な…那美…?」
那美だった。ぼうっとぼやけて見える。
「(目が覚めた?)目が覚めましたか?」
二つの声が重なる。那美の姿が消えていき…別の女性の姿になった。那美じゃ…なかったか。
「しょんぼり、しないで下さい…」
女性が申し訳なさそうな顔をする。…綺麗な人だった。青く艶やかな髪、少し細めだか綺麗な瞳の目…美人とはまさにこの人みたいな事を言うのだろう。年は20代前半くらいか。
「ここは…?」
「臨時に設けられた病院です。簡単に言うと仮設住宅ですね」
左右を見ると、布団に横たわる人々がいた。苦しく唸っている人もいれば、静かに眠っているような人もいる。どの人も包帯だらけだ。
「あなたは?」
女性はにっこりと微笑み、右手人差し指を自分の口に当てた。
「人から名前を聴く時は、ご自分から名乗るのが礼儀ですよ。あなたのお名前、分かりますか?」
「俺は……草薙 勇人(クサナギ ユウト)だ」
ごもっともだと思い、名乗った。女性は安心したように頷いた。
「記憶の方は大丈夫そうですね。私は………そうですね……」
何故か考え込んでいる。
「由香里(ユカリ)にしましょう」
…しましょう?まぁ、いいや。とりあえず、身を起こす。
「…?」
変だな…全然痛みが無い。あれだけ踏まれて蹴られたのに…。
「私が治療しておきました」
「そうだったんですか。ありが……」
ちょっと待て。治療というとあれだろう?手当て。死んでしまうくらいの怪我を?
「今は何月何日何曜日何時何分ですか!?」
つい勢いつけて聞いてしまったが、由香里さんは驚く事なく困ったように微笑んだ。
「そんなに一気に聞かないで下さい。10月5日、日曜日、19時37分です」
自分の携帯電話を取り出し見せてきた。……なんで時計も見ないでそんな正確に言えるんだ?それよりも、4時間くらいしか経ってないのか…。だったら、なおさらおかしい。どんな現代医学であれ程の怪我を治す事は不可能だ。
「嘘…ついてませんか?」
ゆっくりと首を横に振った。
「その身体が証拠ですよ」
……確かに、痛くないからな。
「どうやったんですか?まるで魔法……」
コクンと頷く由香里さん。
「大声では言えませんが…」
もう何がなんだか分からない。地震の後だ、混乱してとう…ぜ…。
「そうだ!女の子!女の子が一緒に倒れていませんでしたか!?」
由香里さんの表情が暗くなった。
「ごめんなさい…。私がここに来たのは貴方がここに運ばれてから、ですから。女の子は…いませんでした」
がっくりと肩を落とす。そうか…あいつとははぐれてしまったのか。無事だと…いいんだが。
「実は、貴方とその女の子を探すのが私の目的です」
「どういう事ですか?」
「話すと長くなるのですが…」
と、言葉を切った。
「ここは、話をするのにふさわしくありません。移動しましょう。…立てますか?」
すっと笑顔で手を差し伸べてきた。少し照れくさくもあったが、せっかくなのでその手に頼る事にした。

小説第二段企画

2009-02-01 | 小説
久し振りに新しい小説を企画しています。
オリジナルでいきます。
別世界とか宇宙とか考えたんですが、けっきょく再び現代もんになりました。
mixiのもあるのでかなりゆっくりだと思いますが、UPした時に読んでくれたら嬉しいです^^

『この虹の先へ…』第二十八回

2008-05-21 | 小説
10月13日
 
翌日、俺は……部室に居た。何もせずに…。
あれから、麗菜は泣き疲れて寝てしまった。姉さんを呼んで、部屋に運んでもらった。俺は一睡できなかった…。目を閉じるたびに麗菜の泣き顔が出てきたからだ。
今朝は、麗菜の起きる前に家を出た。だから、早すぎて大学敷地内にも入れないから漫画喫茶で時間潰してから向かった。そして、講義も受けずに部室でただ座っていた…。
「あれ?珍しいな」
入ってきたのは正太郎だった。俺を見て、正太郎は笑みを失った。
「……どうした?」
こいつの真剣な顔は、漫画を読んでいる時が多い。…本来なら、身内の話をするもんではないが…こいつには話しても良いと思った。………いや、俺が話したいだけなのかもしれない。
俺は昨日の事を話した…。
 正太郎は黙っていた。当然といえば当然だろう。いきなり身内の話をされて困らない他人はいないだろう。しばらくして、
「麗菜ちゃん…頑張ったんだな…」
と呟くと、唐突に部室のドアを開け放った。
「英志、走るぞ!」
その表情は真剣だ。…そうだな、なんか走りたい気分だ。立ち上がると同時に部長が入ってきた。驚いた様子もなく、俺と正太郎の顔を見ると奥に入って着替えだした。
「部長!先に走ってますよ!」
正太郎が声を張り上げる。俺達はそのまま、部室を出た。
 グラウンドを使わせてもらって、トラックを走る。何も考えずに走り、部長が合流すると彼と競争するかのように俺達は走り続けた……。
 1時間後、途中休憩をいれたものの、へばってしまい私服だったが関係なくグラウンドに倒れこんでいた。俺だけでなく正太郎も。
「あちゃ~…しばらく走らないと落ちるもんだな」
はははと苦笑する正太郎。
「趣味に走るのも良いが、グラウンドも走れ」
部長の厳しい言葉が飛ぶ。走るのも趣味ですよ、と言う正太郎に部長はやれやれとため息をついた。そして、俺を見て、
「塚本、良い走りだった。今度はまたタイムを競いたいものだ」
と言い残し去って行った。正太郎は上体を起こした。
「どうだ?少しはすっきりしたか?」
「ーー……」
俺も上体を起こす。
「ああ、スッキリしたよ。ありがとうな、正太郎」
いえいえ、と正太郎は笑った。
 それからの講義を受け真っ直ぐ家に戻った。二階でばったり麗菜に出くわした。俺を見て、不安な表情を見せる。
 昨夜の話でも出たが、機械的な表情が固定したような状態になってしまった、なんて実感はない。それを見せたのは、最初だけであとはコロコロと表情を変えている。今だって不安げな表情をしている。
ーーーそう、実感はないが、俺が俺達家族が麗菜の心の傷を癒しているのだろう。俺も特別に意識した事はない。普通に、ありのままに接しただけだ。それが、麗菜にとって救いになったのだ。『家族』となる事に。そう、血が繋がっていようが繋がっていなかろうが『家族』に特別な理由なんていらないのだ。お互いを思いやり、お互いを助ける。それが、家族だと俺は思う。麗菜を助ける。
「麗菜、お前を護る」
俺はそう言った。麗菜はいきなりの事で、驚いたが意味を理解したのか涙を流しなら笑顔で………眩しい笑顔で……
『…はいっ。』
と、答えた…。
 
 九日後‥‥。
「おい、麗菜。早くしないと、時間来ちまうぞ!」
俺の呼びかけに、『待って下さい~』と2階から焦りの声が聞こえる。俺の前に立つ親父とおふくろが苦笑する(といっても、おふくろの苦笑は笑顔と区別ができない)。
「女は支度に時間がかかるものだ。少しくらい大目に見てやれ」
「あらあら、そうとは限りませんよ。男性の方でも支度に時間かかるではありませんか」
おふくろはそう言って親父を見る。む…と黙る親父。そう、親父も支度には準備をかける。仕事に行く前でもスーツ着るまで約30分。着るだけなら10分もあれば十分だが、シャツは何にするか、ネクタイはどうするかと毎日悩むそうだ。
「お待たせ~」
間延びした姉さんの声。麗菜と姉さんのお出ましだ。
「ーー…」
俺は麗菜を見て声を失った。
「どう?一昨日、二人で決めたオニューの服よ」
うふふと意味ありげな姉さん。麗菜は恥ずかしいのか目を伏せている。一昨日、今日の為に姉さんは麗菜の服選びに付き合ったらしい。姉さんはもの凄く張り切っていて、帰宅後の麗菜が言うには着せ替え人形体験を味わったそうだ。戸惑う麗菜をそっちのけで、あれもこれもと十数着を試着させられたそうだ。昔、おふくろも姉さんに同じような事をしたらしいが。血は争えないものである。真意は、可愛い妹に服を買ってあげるのがたまらなく嬉しかったんだろう。
「似合っているぞ」
俺は親指を立ててニカっと笑った。
「英志、慣れない笑い方は引かれるわよ~」
さらっと酷い事を言う。さすがは姉さんだ。
「ありがとうございます、兄さん」
笑顔。それが本当に嬉しいと分かる。
「さ、行くぞ。時間も迫ってる」
はいっ、と麗菜。
 さて、ここで叔父について話しておこう。叔父さんは、3日前に暴行容疑逮捕された。学校での身体測定で、背中に数多くの傷や痣が見つかり学校が児童相談所に連絡した事と神宮寺が以前から動いていたのもある。そして、決定的だったのは親父の行動だった。一週間前、俺が大学で走っている間に親父は有給休暇を取り叔父さんの家に行って話してきたらしい。隠す事なく、悪気が全くないように話したらしい。その話を録音をしたテープを警察・そしてマスコミに送ったそうだ。効果は抜群で、マスコミから逃げられず警察もすぐに動き逮捕となった。叔父さんもまさか身内から出るとは思わなかったそうだ。そして、横領や違法行為が次々と明るみに出て逃げる事ができなくなってしまった。頼りの財政界の人達も完全に見放したらしい。自業自得である。
さて、今日は約束通り麗菜を正太郎達に紹介する事になっている。それだけでなく、神宮寺と野口も呼んでいるそうだ。そして、神宮寺が良い場所を用意してくれているとの事。期待していいのか悪いのか難しいところだ。駅で待ち合わせだ。さっそく数人固まっているのを発見。正太郎達だ。合流すると、正太郎、美希、和枝は驚いた顔で金魚のように口をパクパクさせていたかと思うと…
「可愛い~~~!!」
と麗菜にいろいろ話し出した。ちなみに、正太郎は近づける事はなかった。奈央の裏拳に続き俺の蹴りによりうずくまっているからだ。麗菜は俺を見て助けてサインを出す。麗菜はもともと人見知りだしな。しかし、スイッチが入った二人を止める術は知らない。諦めろとジェスチャーする。ふえーんと泣き顔の麗菜。そんな時、ピピピッ!と音が鳴った。麗菜は慌てて携帯電話を取り出す。美希と和枝にすみませんと一言言ってから電話に出た。キョロキョロしだす。と、コンビニの方を見て手を振る。神宮寺と野口だ。野口は神宮寺の後ろに隠れながらだが。
そりゃあ、この光景みたら野口はひとたまりのないわな。そんでもって、再び可愛いと迫る美希和枝組。さすがの神宮寺もこれには困っていた。
 車を用意してあると、神宮寺に案内される。俺達は固まった…。
「うそ……ベンツじゃん…」
美希の言葉に、うんうんと頷く神宮寺。当たり前じゃないといわんばかりだ。何でよりにもよって高級外車なんだ。俺達は慎重に乗り込んだ。車乗るのにこれだけ気を使う事はそうないと思う。麗菜と野口は過去に何度も乗った事があるらしく、慣れたものだった。
 で、着いたのはでかい公園。車を降りて案内されたのは神宮寺家個別のバーベキュー場。そこには、メイドさんと執事さんが待っていた。
「おおおっ!!」
飛び上がりそうな正太郎に腹に思いっきりひじ打ちを入れておく。倒れる正太郎。しかし、メイドさん…と呟きながら這いずるイケメン君。
「おい、正太郎。その執念は大したもんだが回復に専念しとけ。野口が本気で怯えてる」
くっ…とうずくまり回復に集中する正太郎。この様子を笑顔で見守るメイドさんと執事さん。…この二人、プロだ。
「じゃあ、始めましょうか」
かしこまりました、とメイドさん執事さんが動き出す。さて、楽しいバーベキューの始まりだ!

 食べ終え、それぞれが草むらに座りくつろいでいる。俺の隣には麗菜。満足そうな表情だ。俺が見ているのに気付きにっこりと笑顔で返してくれる。本当に、この場所を用意してくれた神宮寺に、集まってくれたみんなには感謝だな。
「最後のサプライズー!」
神宮寺の大きな声。ホースから上空に向けて水が噴射される。背には太陽。-----そう、小さな虹の発生だ。まさかここで見れるとは思わなかった。
「綺麗ですね…」
麗菜の言葉に、ああと頷く俺。おーい!と呼ぶ声。みんなが集まっている。そう、小さな虹の向こう側に…。今まで、いろいろあった。短期間の中にいろいろと。虹の向こうには、新しい生活が俺達を待っている。
「行くか、麗菜」
「はいっ…!」
麗菜の手を引き、俺達は虹を通り抜け…虹の向こう側に……。

END。

長々と掲載してきた小説『この虹の先へ…』完結です。
いたらないところも多々あり、読みづらかったところもあると思います。
今まで読んで下さった皆様、ありがとうございました!(お辞儀

『この虹の先へ…』第二十七回

2008-05-05 | 小説
 時刻は午後11時を少し回っていた。家に戻り、居間の扉を乱暴に開け親父の向かい側に座る。
「親父、聞きたい事がある」
「何だ?」
「麗菜の事何故黙っていた?」
俺は冷静さをなんとか保ちながらもそう切り出した。
「なんの事だ?」
親父も真剣の顔をむけてくる。
「麗菜が虐待を受けていたという事だ」
 そう、神宮寺から聞かされた事は麗菜が以前住んでいた親戚から虐待を受けていたという事だった。主に身体的虐待。殴る・蹴る・平手。性的な虐待も2度ほどあったそうだ。原因は、麗菜の両親にあった。
 両親は居酒屋を経営しようとしていた。その時に親戚達に借金をしていた。が、麗菜が8歳の時に交通事故死。麗菜は親戚達からたらい回しされていた。そして、この家に来る前の所で虐待があったそうだ。それを聞いて頭に血が上った。神宮寺の前では出さないようにしていたが、神宮寺と別れてからが酷かった。こうした今も怒りがまるで収まらない。
「知っていたんだろう?」
親父に詰め寄る。
「ああ」
「警察には?」
「言ってない」
「何でだっ!?」
俺は怒鳴った。親父は睨むように俺を見た。俺も親父を睨んだ。虐待が行われているのを知っていて通報しないのか!そんないい加減な事があるか!
「ここに来る前は辰夫の家だ。ここまで言えば、頭に血が上った状態でも分かるだろう」
辰夫…その名前が出てくるとは思わなかった。辰夫というのは、親父の従兄弟だ。事業に大成功し、今や俺達の家系で最も金持ちだ。政財界にも知り合いもいる。しかし、性格が最悪で親戚の中でも評判がとても悪い。暴力なんてザラで、離婚もしている。警察沙汰にもなったが、知り合いや金の力でなかった事にされている。警察関係者も『なんとかして捕まえたい』という人も多数いるらしい。よりにもよって、あんな奴の世話になっていたなんて…。
「辰夫のおかげで、麗菜の両親の借金も全て返済されている」
「…よく呼べたな」
「…『飽きた』らしい」
どう表現したらいいかわからない怒り。くそっ!俺は居間を飛び出し、二階に駆け上がった。
 麗菜の部屋を少し乱暴にノックする。
「麗菜、俺だ。話がある」
どうぞ、と声。中に入ると、妹は不安の表情で俺を見ていた。
「虐待されていた事、何故黙っていた?」
………俺の言葉に麗菜の表情が凍りついた。そして、俯いた。
「…怒鳴り声が聞こえたので何かあったのではと思ったのですが…お父さんから聞いたのですね…」
「いや、神宮寺から聞いた」
「そう、ですか…」
しばらくの沈黙。
「俺もどうして気がつかなかったのかと思ってな。事故で着替えを覗いてしまった時もその痕が見えなかったし…」
「兄さんが見たのは…前でしたからね。傷は…背中にあります」
長い前髪で表情が見えない。声のトーンも…出会った時のように沈んでいた。
「黙っていたのは…言いたくなかったんです。楽しかったから…。それに、この事を知ったら兄さん達も変わってしまうのではないかと思って…怖かったんです」
           
              でも、いつまでもそれではいけないですよね……。
              そう呟いて、麗菜は顔を上げた。

              『今から、詳しくお話します』

 俺は、麗菜の隣に座り、手を握っていた。麗菜にそうお願いされた。
「…両親が亡くなってから、私は親戚を転々としていました。中学二年生の時でした。辰夫叔父さんが現れて、私を見て気に入ったと言って引き取ってくれました。それからは、玩具のように…人形のように扱われました。気に食わなかったり、言う事を聞かないと暴力を振るわれました。言葉の暴力も…性的暴行も受けました…。辰夫叔父さんは借金を全て払ってくれましたから、従うしかありませんでした。精神が崩壊しそうな時もありました。でも、こうしていられるのはお手伝いさんのおかげでした。辰夫叔父さんの見えないところで、心を癒してくれました…。秋絵ちゃんには、身体測定の時に…。当然、クラスメイトも先生も気付きましたし…。先生は、警察や児童相談所にも言ったそうですが…叔父さんの権力前では無力でした…。秋絵ちゃんも怒っちゃって叔父さんを捕まえるって言っていますけど…なかなかできないみたいです…」
手が…というより身体が震えている。顔色も悪い。当時の事が脳裏に蘇っているのだろう。だが、俺から止める事はできない。だから、俺が出来る事はこうして手を握って黙って聞くくらいだ。
「お手伝いさんに癒されていましたが、私は…私の心から靄が消えませんでした。叔父さんの前では、人形のように…機械のように…。それがどんどんエスカレートしていって…お手伝いさんの前でも秋絵ちゃんや優ちゃんの前でも叔父さんと同じように接するようになっていました。怖かった…怖くなってしまったのです…人間が…っ!」
ポロポロと涙を流す麗菜。だが、話を続けた。
「お手伝いさんも…お友達も…私の事を気遣ってくれて…。嬉しくて…でも…でも、申し訳なくて…。そんな迷惑かけてる自分が、情けなくて…っ!でも、変えられなくて…っ!」
悲痛の叫びに変わってく。握られる手の力も強くなってる。
「私なんて…私なんて、いなくなってしまえばいいって…っ!でも、私がいなくなったら…お手伝いさんが同じ目にあってしまうかもしれないと思って…もう、どうしたらいいか…わからっなくって……っ!」
限界だ。そう思った俺は、思い切り抱き寄せた。俺の胸で精一杯泣け、と。一瞬驚いた麗菜だったが、感情を制御できず声を立てて泣き出した。
俺は妹の頭を優しく撫で続けた。
泣き止むまで、ずっとずっと……。

『この虹の先へ…』第二十六回

2008-01-25 | 小説
大変長くなってしまい、申し訳ありません。小説の続きです!><;
そろそろ話の展開が重要なものになってきます。更新がまばらのうえに、まだ中盤ですがこれからもよろしくお願いします!(お辞儀

                10月12日


 「よし、こんなもんか」
いつも通りの支度をする。相手が女の子達だからといって別段オシャレするわけではない。わざわざ帰宅して着替えた麗菜と玄関で合流し、待ち合わせ場所の駅に向かう。はたして麗菜の友達とはどんな人物なのか。なんとなく想像できるが実際会うとなると楽しみである。駅に到着。この駅には待ち合わせ場所に適したものがある。それは、いろんな方向に向いていてなんの形かさっぱりなオブジェだ。名は『人間』。『いろいろな形がある』という意味らしい。なるほど、と思う。
 さて、到着したが…。麗菜はキョロキョロと辺りを見回すと、やや北東の位置を見て手を振り出した。見ると、二人の女の子が手を振っている。そして、小走りにこちらへ走ってきた。
「お待たせ~」
三人の声が重なる。
「いきなりだけど、この人が麗菜の兄貴?」
茶髪ショートカットの子が俺を指さして言う。…指を指すな、指を。
「はいっ」
嬉しそうに頷いた………ように見えたのは俺の気のせいだろうか。よし、ここはびしっと自己紹介でもするか!
「兄の塚本英志だ。妹が世話になってるようだな。ありがとう」
まぁ、こんなもんだよな。それに合わすかのように二人も自己紹介を始めた。
「神宮寺秋絵(じんぐうじ あきえ)。麗菜とは中学から一緒なんだ。よろしくくね」
神宮寺……聞いた事があるな。何だっけ?
「知らないって顔されてる。パパの会社って意外と知られてなかったり?」
神宮寺はジト目で見てくる。
「秋絵ちゃんのお父さんは、『神宮寺グループ』で大手の建築業なんです」
麗菜の言葉で思い出した。
 …神宮寺グループ。日本でも有名な建築関係の会社だ。株式上場で、有名人の豪邸建築にも関わっている。
「ああ、思い出したよ。という事はお嬢様か」
俺の言葉にむすっとした態度。
「あたし、『お嬢様』って嫌いなんだ。パパは尊敬しているけど、金持ちっていう身分は好きじゃない」
…驚いた。こんな言葉が出てくると思わなかった。表情を見る限り嘘は言ってはいないようだ。その真意は分からないが。
「悪かった。もう言わない」
判れば良い、といった感じで頷く神宮寺。で、もう一人は……。
「…………っ!」
目があった途端、顔を赤くして神宮寺の後ろに隠れる。
…って、おいおいおい。ちょっと待て。俺何かしただろうか?会ってから今までの事を思い出してみるが、思い当たらない。やれやれという表情の神宮寺。
「気にしないで。この子、男性恐怖症なの」
ああ、そういう事か。…って、恐怖じゃ駄目じゃん。
「秋絵ちゃん、恐怖じゃないです。凄く苦手なんです」
「分かりやすく言うと恐怖症じゃない」
麗菜のフォローもなんのそので曲げない。まぁ、神宮寺のいう事は間違いではないが男性からしてみては捉え方は違う。しかし、こんな状態でよく俺に会いたいと思ったもんだ。
「ほら、優。大好きな麗菜のお兄様なんだから挨拶くらいしなさいよ」
神宮寺の説得は効果がなく、ふるふるふると後ろで首を横に振っているのが分かる。
「無理…やっぱり無理だよっ…!」
小さく、しかしはっきりと聞き取れた。仕方ないな…。
「麗菜、どういう子なんだ?」
「野口優(のぐち ゆう)ちゃんです。内気で男性がとっても苦手なんです」
そして、体育以外なら成績優秀。キツネが好きでぬいぐるみ等キツネファンシーグッズはよく集めているそうだ。しかし、この状態で学校の男子達や男性教師は大丈夫なんだろうか。それを聞いてみると、案の定最初は駄目だったらしい。男子は女子高だからいないが(初めて聞いたので驚いた)、男性教師はいる。親御さんが事情を説明して、教壇からできる限り離れた席になっていたそうだ。今はようやく平気なったようだが…。まぁ、接していくうちに打ち解けてくれるだろう。
 喫茶店に入り、雑談を混ぜながらいろいろと聞こうと思ったが逆に聞かれてしまった。気がつくと、午後7時になろうとしていた。結構話し込んでしまったな。会計を割り勘にして店を出る。そのまま解散という形になった。野口は、初めて俺と向き合い『今度また…』とぎくしゃくしながらも一礼して去っていった。神宮寺には、別れ際に家に帰ったら読んでとこっそりと一枚の4つ折りされた紙切れを渡された。
 麗菜と帰り、すぐさま部屋に戻り先ほどの紙切れをめくる。細い字で、『21時にさっきの駅の待ち合わせ場所に来て』と書いてあった。
晩飯を食べ、少しまったりした後に駅へ向かった。
 到着すると、神宮寺はすでに待っていた。その顔は真剣そのものだった。
「どうしたんだ?」
「麗菜の事。話したい事あって」
重要な事だと思わずにはいられない雰囲気だった。適当のファーストフード店に入った。
 そう、そこで聞いたのは思ってもいなかった話だった……。

『この虹の先へ…』第二十五回

2007-07-15 | 小説
 「昔から…小学生の時から成績優秀で、周りからチヤホヤされて育ってきた。ボクもボクで、調子に乗っていた。
でも、そんなある日だった。高校1年の期末テストで初めて平均点を下回った時があった。悔しかった。けど、周りの反応はその悔しさをも吹き飛ばすものだった。先生には呆れられ、同級生達からはからかわれ、親からは見放され…たった一回、そうなっただけで目の色を変えられた。それは、ボクにとっては天地がひっくり返るくらいショックな事だった。そんな状況をなんとかしようと必死に勉強した。部活も休み、遊びにも目もくれず勉強のみに絞った。おかげで、2学期中間は学年トップになった。これで、元に戻ると思った…」
奈央はそこで、区切りジュースを飲んだ。そして、ふうっ、とため息し首を横に振った。
「…戻らなかったのか?」
「戻ったよ。でも、一度そんな事されて素直に喜べない事に気付いてしまった…。先生や友人はまだいいけど、親には……親とはなんだか一緒に居たくなくなってね。一人暮らしを始めたよ。今もそんな状態が続いてる」
苦笑する奈央。なるほど、人間不信になっているわけだ。無愛想というか…恐れているんだろうな。……しかし、気になる事がある。
「どうして、俺に話したんだ?」
飲み終えた缶ジュースの缶をベコッと潰し、奈央の顔を見た。奈央は笑顔でこちらを見た。
「わかんない。なんで、あんたなんかに話したんだろうね」
そう言うと立ち上がり、歩き出した。
「ジュース、ごちそうさま」
そう言い残し、てくてくと歩いて行く。…うーん、なんというか…。
「今の笑顔、可愛かったぞー!!」
と、大声で言ってやる。
「うるさい!馬鹿ーっ!!」
と、顔を真っ赤にして怒鳴られた。ずんずんという足音が似合うような足取りで去っていった。
「あ」
去っていった方を見たまま大事な事を思い出した。
「課題、手伝ってもらっている最中じゃんか」
がくりとうなだれる俺。仕方ない、一人でやるか…。
 ただいまー、と重たい袋を持ちながら玄関で靴を脱ぐ。まっすぐ部屋へ。途中会った麗菜に読書家ではないと説明して部屋に入る。ベッドに本を並べ、うーんと唸る。すると、コンコンとノックの音。
「どうぞー」
本とにらめっこしなら適当な返事をする。カチャと開く音。しばらくの間の後、
「…………あの、兄さん。本をじっと見つめてどうかされたのですか?」
遠慮がちな麗菜の声が聞こえた。
「うむ、兄さんは今忙しいんだ。何か用か?」
「あ、いえ、忙しいなら後にします」
ドアをしめようとする(正確に言うと音が聞こえる)麗菜にこう言い放った。
「ちなみにな、俺は24時間忙しいから言うなら今だぞ」
「えっ!?24時間ですか!?」
かなり驚いたようだ。
「あの……24時間は困ります…」
俺はようやく顔を上げると困ったような顔をしている麗菜がいた。
 麗菜がコーヒーを淹れてきてくれた。ベッドに腰掛ける二人。
「で?」
「は、はい…。あの、明日なのですけど…お友達が兄さんにお会いしたいと…」
「…は?」
いきなりな展開に間の抜けた声を出してしまった。明日って…。
「なんで、いきなりそうなるんだ?」
「その…兄さんの話をしていたら会いたいと…。そして、善は急げという事に…」
ごめんなさい、としゅんとしてしまった。うーん、女子高生に『会いたい』なんて言われるなんて思わなかったぞ。
「そ、それで、どうでしょうか?ほ、放課後とか!」
麗菜が押しに来た。もう後には引けないといった感じだ。表情も強気中に弱気が微々たるくらいは入っていた。まぁ、課題提出にはまだ時間はあるし…良いか。頷くと、ありがとうございます!と喜んでくれた。
 …そういえば、昨日の件はどうなったか聞いてみるか。
「麗菜、友達には怒ったのか?」
ギクッ!という反応された。
「それが……」
話によると、怒るには怒ったが上手い事避けられたらしい。しょんぼりする麗菜。うーむ…麗菜の友人というのは相当頭が切れるor麗菜の性格を知り尽くしているくらいの長い付き合いの子なのだろう。
 さてさて、明日はどうなる事やら。
                     
                        続く

『この虹の先へ…』第二十四回

2007-07-08 | 小説
          10月11日

 この日、宿題が出された。それは、別に珍しい事ではない。ただ、この先生から宿題出されるなんて思わなかった。昨年も同じ先生の講義を受けた。講義内容もそこそこ良かったし、宿題が一度も出なかった。あと、単位を取る為にちょうど良かったので再びこの先生の講義(昨年とは講義名と内容が違う)を履修したわけなのだが…。その宿題が小論文なのだから恐れ入る。期限は来週のこの時間提出。もちろん、単位取得に響く。今回の講義内容もなかなか面白いのは良いのだが、小論文は苦手なんだよなぁ…。資料を探しておいて土日に書きまくるしかないか。
 と、いうわけで図書館に来ていた。インターネットでも資料は探せるが、書物も十分に役に立ってくれる。むしろ、必須。
 探していたら、ばったりと奈央に出会った。
「あ」
と、一文字が重なる。
「……」
数秒の沈黙。先に口を開いたのは俺だった。
「よ、よう」
「こ、こんにちは」
…何だ、この空気。
「奈央も調べ物か?」
「…まぁね」
くっ…そっけない。どうも一人の時は話しにくいんだよなぁ。和枝や美希がいれば多少話しやすくなるんだが…。というか、まず口を開かない。開いてもこの前のように文句しか出てこない。
「…で?」
「でっ…て?」
つい聞き返してしまう。奈央の目つきは鋭い。
「何についての調べ物なのかって聞いているの」
ああ、そういうことか。とりあえず、言ってみるとスタスタと俺の脇を通って歩き出した。……なんだよ、おい。その背中は黙ってついて来いと言っているようだった。仕方なくついて行くと、少し歩いたところで止まった。そして、振り返って右を指差し、
「ここにあるので調べれると思う」
といつもの口調で言った。見ると、無数のある本の中から確かに必要なカテゴリーが書いてあるタイトルの本が並んでいた。
「ま、頑張って。ボクはもう行くから」
またしてもスタスタと俺の脇を通り抜ける。うーん…なんというか…。
「ありがとうな。案外、良いところあるじゃないか」
ピタリと止まり、勢いよく振り返ると大声を出してきた。
「れ、礼なんて言わなくていいよ!それに一言が余計よ!」
「おい、ここ…図書館…」
思わず耳を塞いだ。奈央の顔が真っ赤だ。うーん、新鮮だ。
「ま、静かにな」
ニヤリとする俺に、くっ…!と睨む奈央。しかし、赤面中の為迫力がない。
 「さて、と…」
本棚と向き合う。うーむ……どれが良いのか分からん。どれも良い資料だろうから、適当に数冊借りて行くのが早いか。本を数冊取り、戻ろうとするとまだ奈央が突っ立っていた。
まだ顔赤いし。
「あれ?どうしたんだ?」
う~…と唸る奈央。そして、ぷいっとそっぽ向くと捨て台詞のようにこう言った。
「あんた、これから時間は?」
「あるっちゃあある。昼からゲーセン行く気まんまんだが」
「ゲーセンはどうでもいいよ。ボクも時間あるから手伝ってあげる」
「ありがたいんだが、鍛えたい格ゲーが…」
「課題が早く終われば、その分練習できるでしょ」
そう言ってずるずると引きずられていく俺。……ま、良いんだけどさ。
 二人向かい合って資料を読みまくる。俺はそれを四苦八苦しているが、奈央はすらすらと読んでいる。必要な情報だけを的確に探しているという感じだ。
奈央は三人娘の中でも成績は一番だ。頭も良くて運動もできる。本人いわく、『勉強はそうでもないけど体育会系は得意』との事だが第三者から見たら同等だと思う。要は完璧超人。
しかし、完璧超人なんてそう存在するもんではないというのが実証するかのように性格は無愛想で人付き合いがよろしくない。これで愛想がよければ本当に完璧超人なんだが。そんな奈央が珍しくというか初めてな事なんだから美希達に言ったらさぞかし驚く事だろう。
「…ちょっと休憩しましょう」
パタンっと本を閉じる奈央。
「お、おう」
おそらく俺がお疲れモードになっているのが気付いたんだろう。頬杖をつく奈央。
「……ねぇ」
「ん?」
「ボクね、昔から成績優秀だった…」
「待った」
と、俺は止めた。さすがに図書館で話すような内容ではなさそうだ。図書館の職員にお願いして本を入れる為の袋をいただき、外に出て辺りが無人のベンチを見つけて缶ジュース片手に座った。
「……で?」
図書館出る前と変わらずの表情で…。

『この虹の先へ…』第二十三回

2007-04-13 | 小説
 夜、寝る前に風呂に入っていると扉の向こうから麗菜の声が。
「あの…兄さん、えっと、その…」
ガラス効果で姿はぼやけてて分からないが、顔が赤いような気がする。
「せ、背中……流しましょうか?」
……ちょっと待て。何だ、この展開は。いくら妹だからといって、良い年頃だ。しかも血は繋がってないし。自分に変な気が起こる前にきっぱりと。
「いや、結構。とりあえず、自分の部屋で待ってなさい!」
「でも……。…はい。わかりました」
洗面所から出て行くのが分かる。
「…はぁ…」
思わずため息が出た。
 「で、急にどうしたんだ?」
風呂から上がり、麗菜の部屋での第一声だ。妹は顔を赤らめてこう言った。
「その…お友達が…その…年が近い兄妹は背中を流し合っているのが一般的だから、麗菜もやってあげたら?と言われまして…」
ほうほう、それは素晴らしい一般的な事だ。しかし、そんな一般的な事は聞いた事がない。というか、そいつは本当に友達なのだろうか?いじめじゃないだろうな。言う方も言う方だが、信じる方も信じる方だ。
「なんだって、そんな嘘信じたんだ?」
麗菜は目をそらす。
「や、やっぱり…嘘だったのですね…」
本人も気付いてはいたようだ。それはそうだろう。いくら心が純真といえど、高校生にもなると騙されまい。しかし、それでも信じたのは何故だろうか。今度はこちらを見て、両手で握り拳を作った。
「お友達に怒っておきます!」
そういう麗菜の表情は真剣だ。怒っているようである。しかし、他者から見ると怒っているように見えない。これを本人に伝えると後悔しそうなので黙っておく。
 後日、この事が原因で問題が起きる事を俺達は全く予想していなかったのだ。その問題は、いずれ語る時が来るのでお楽しみに。

『この虹の先へ…』第二十二回

2007-03-28 | 小説
グラグラグラ!!激しい揺れに思わず上体を起こす。
「な、何だ!?地震か!?」
隣でクスクスと笑い声。
「おはよう~」
和枝だった。
「ちなみに、地震じゃなくて私が揺すったんです。呼んでも起きないんだもん」
そ、そうだったのか…。なんという失態を見せてしまったのだろう。くっ、恥ずかしいな。
「照れちゃってたり?」
くっ、バレバレかよ!しかし、頷く事はできずに目を逸らしながらポリポリと頭をかくしかない。
「新しい本、借りたから帰りましょう」
時計を見る。どうやら1時間くらい眠っていたようだ。そうだな、と立ち上がり二人で外に出た。
  で、何を借りたんだろうと尋ねてみると裁縫の本だそうだ。そのような本が置いてあるのが驚きだが、プロ級の力を持つ和枝が裁縫の本を読むのがさらに驚いた。って、プロ級でも本は読むか。プロなんかじゃないよーと本気で否定された。これで、プロ級って言われたらプロの人に失礼とまで付け加えた。いやぁ…それは逆なんじゃないかと。過去、マフラーだのセーターだのを見せてもらったが最初市販品と思ったくらいだ。腕だけではない、デザインも良く美希も高野も『店に出せば確実に売れる』と太鼓判を押していた。そんなんに、先ほどの台詞をプロに言ったら、それこそ逆に失礼というもんだろう。
「で、これからどうするんだ?まっすぐ帰宅か?」
「どうしようかな…」
悩む姿。
「どうだ?昼飯でも一緒に」
と、誘ってみたところ大きい頷きが帰ってきた。
 で、入ったのが定食屋。ファミリーレストランやファーストフードにでもしようと思ったのだが、和枝の希望でここにした。和枝が言うには、こういう定食屋の方が落ち着いて食べられるとの事。ファミリーレストランもファーストフード店もゆっくりは食べられるが、どこか落ち着かないところがあるそうだ。そんなもんだろうか、と俺にはイマイチ分からなかったが定食屋は嫌いじゃない。先ほどの2店とはまた違う満腹感が味わえるからだ。満足感もこちらの方が上だろう。そんなわけで、俺が注文したのはトンカツ定食。和枝が鯖の味噌煮定食。意外とシブい子である。なんでも、おふくろさんの得意料理で好物の一つだそうだ。まさに、『おふくろの味』だな。そんな話をしている間に、注文した品々がやってきた。
 トンカツは合格範囲の美味さだった。噌汁も合格。和枝を見ると、嬉しそうに、そして美味しそうに鯖の味噌煮を食べていた。その姿を見ると、異様に鯖の味噌煮が食べたくなってくる。そんな俺の意思に勘付いたのか、食べる?と差し出してきた。ほんとに勘の鋭い。じゃあ、と未使用の箸を使い味噌煮をちょっぴり取ってこちらの皿に移した。そして、トンカツ一切れをお返しに向こうの皿に乗せた。ありがとうと笑顔の和枝。さて、味噌煮の味は、っと…。……美味い。鯖も悪くないし、味噌も濃すぎずにちょうど良い味。和枝の表情が納得できた。また今度絶対来て、必ず頼む事にしよう。
 店から出て、駅で別れた。また明日、講義で会う事になるだろう。さて、どうしようか…。

                                    続く

『この虹の先へ…』第二十一回

2007-03-18 | 小説
夕方からアルバイト。んで、閉店とともに終了。帰宅すると、ぱたぱたとスリッパの音。麗菜だった。
「お帰りなさい、兄さん」
「ただいま。台所で何かしていたのか?」
「はい、柿を切っていたんです。兄さんの分もありますよ」
ご近所さんからのおすそ分け品らしい。小皿でいくつかもらい部屋に戻った。


10月10日

今日は2限目から。学校への道を歩いていると、これまた目立たなさそうで目立つ知った顔があった。
「和枝ー」
振り向く和枝。俺だと分かると、にぱっと笑顔になる。うーん、明るい笑顔だ。
「おはよう~」
「おはよ」
隣に並んで歩く。横顔を見る。美希とは違い、地味な印象を受けるが可愛い。麗菜もそのような感じがあるな。女3人組の中で最も家庭的な子だ、あいつとは一番早く仲良くなれるかもな。そんな俺の思考を読んだかごとく、和枝はこう尋ねてきた。
「妹さんとは仲良くしてる?」
「まぁ、そこそこ」
こっ恥ずかしいのもあってそう答えた。初日に比べたら、大分進展している。
「良かったね」
にっこりと笑顔。この笑顔で本当に『良かった』と思えるのだから恐るべしである。他の2名にはできない事だろう。
「そういう和枝の家族はどうなんだ?」
やられっぱなしというのも、癪だから返してみた。
「うん、仲良くやってるよ~」
「相変わらずで何より」
俺の言葉にうーんと唸る。
「でもね、2、3度危機的状況はあったんだよ?」
「そうなのか…」
まぁ、いろいろあるのだろう。しかし、先ほどから気になっている事があった。
「なぁ、和枝」
「なあに?」
「なんでこう、人が全然いないんだ?」
俺の質問に、笑顔でこう答えた。
「だって、今日は体育の日で祝日だもの」
…………。
硬直。
「な、なんで今まで気付かなかったんだ、俺は」
我ながらほんと間抜けである。しかし、なんで和枝までいるんだ?と、いうような表情で彼女を見ると苦笑しながら鞄から一冊の本を取り出した。文庫本である。
「この本の返却日、昨日だったの。私達の大学の図書館って祝日でも開いている場合があるじゃない?それで、電話してみたら午後3時まで開いてますって言っていたから返しに来たの」
知らなかった。ずいぶんと律儀な大学である。そういえば、以前正太郎にこの大学の図書館は学生だけではなく、付近の住民にも利用可能にしていて人気だとか。だから、人が多くて眠れない時なんてしばしばなのだ。
「じゃあ、返却し終わったらすぐ帰りか?」
「ううん。せっかくだからまた本を借りていこうかなって」
「そうか。なら、選んでる間は俺寝ているから終わったら起こしてくれ」
「え?待っててくれるの?」
頷く俺。ここまで来て引き返すのもなんだか癪だった。ありがとう、と礼を言われた。別に言われる事ではないんだけどな、と思い苦笑した。
 中に入り、いったん別れる。俺は上の階に向かう。肝心な事を言い忘れたが、この図書館は3階建てである。3階は、置いてある本が一般向けではないのか人は少ない方。寝るには適している。さすがに祝日だけあって無人である。これなら、熟睡できそうだ。さっそく、椅子に座り、伏せた。昨晩は夜更かししたせいか、すぐに眠気がきた。おやすみなさい…。

                               続く