桜の木

日常のあれこれ
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君死にたまふことなかれ

2023年08月28日 | 感想
先日BSで放送され録画しておいたものを観た
「マンゴーの樹の下で」
ご覧になった方も多かったのではと思うが‥

太平洋戦争中、フィリピンへタイピストとして派遣されたある日本人女性
米軍侵略により帰る術を失ってルソン島に逃れ 多くの命が失われたる中
「生き伸びよう‥生き伸びよう‥」と必死に生きようとした その実体験を手記にして書き残した物をもとにした作品である

憧れの女性である岸恵子さんと
「透明のよりかご」からずっと気になっていた若手の女優 清原果耶さん
内容は勿論、演技も素晴らしかった
が戦時下を生きてこられた方々の実際の体験は
ドラマチックに描かれた映像などとは程遠く
実際は私などが想像など出来る様なことでは無く、その数億倍、またそれ以上の計り知れない程恐ろしく悲しく苦しく辛いものだったのだろう

今の平和の有り難さは勿論のこと
争いから何一つ生み出されるものは無いこと
そしてニ度と繰り返してはならない事と強く感じた



話は変わるが

数年前 劇団に所属していた時分
与謝野晶子を題材にした作品で劇中に
「君死にたまふことなかれ」を読み伝えるシーンがあった
文面だけではなく感情面をもっと掘り下げて刻み込む為に意味と背景を理解し何度も読み込んだ
でもどうしても その奥がうまく表現できず
以前 森繁久弥が語った
「君死にたまふことなかれ」を音声で聴いた
森繁久弥の奥深く悲壮感に溢れた
その声に胸が苦しくなった
戦争をくぐり抜けて来た人の語る言葉は、その凄まじい地獄を知っているからこそ ひとの心を鷲掴みにして離さないのだろう


子どもの頃、何度かテレビで見たことのあるその人、
すっかり大人になった今、とても惹かれている


「君死にたまふことなかれ」
与謝野晶子

あゝをとうとよ、君に泣く
君死にたまふことなかれ
末に生まれし君なれば
親のなさけはまさりしも
親は刃をにぎらせて
人を殺せとをしへしや
人を殺して死ねよとは
二十四までをそだてしや。

堺の街のあきびとの 
舊家をほこるあるじにて
親の名を継ぐ君なれば
君死にたまふことなかれ
旅順の城はほろぶとも
ほろびずとても、何事ぞ
君は知らじな、あきびとの
家のおきてに無かりけり。

君死にたまふことなかれ
すめらみことは、戰ひに
おほみづからは出でまさね
かたみに人の血を流し
獣の道に死ねよとは
死ぬるを人のほまれとは
大みこゝろの深ければ
もとよりいかで思されむ。

あゝをとおとよ、戰ひに
君死にたまふことなかれ
すぎにし秋を父ぎみに
おくれたまへる毋ぎみは
なげきの中に、いたましく
わが子を召され、家を守り
安しと聞ける大御代も
母の白髪にまさりぬる。

暖簾のかげに伏して泣く
あえかにわかき新妻を
君わするるや、思へるや
十月も添はでわかれたる
少女ごころを思ひみよ
この世ひとりの君ならで
あゝまた誰をたのむべき
君死にたまふことなかれ




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