明日を見る放射線治療医から

人々へ
放射線治療医からのメッセージ
大切なメモ

パターナリズム という魔物

2011-03-26 13:04:54 | 医療の問題
安心しろ安心しろといった専門家たち。

安心させようとしたのが逆に強い不信という蛇を生んだのかも知れません。
日常の診療で不安な患者さんを安心させるためのやさしいことばと、社会で共有すべき言葉は、まったく環境が異なることに注意すべきでしょう。
医師にパターナリズムを期待する患者との関係を、悪意無くそのまま適応してしまったように思います。
"どういうふうに言えば安心してくるのか...”
は、確かに、癌の患者さんを診る私たちにはしっかり考えなければいけない問題です。しかし根本は、気休めでなく、つまらないたとえ話でなく、事実を目をそらさずに見つめて対峙して、その上での状況判断を行い、ベストは何かを議論することです。
私のゴールのひとつはパターナリズムの放棄です。


数日前にキャンドウという名前の100均みたいな名前の調査会社の方がお見えになり、実に詳しくたくさんの質問を受けました。その中で
彼女 ”III,IV期の進行頭頚部癌の患者さんで治癒や根治でなく痛み止めなどの緩和(苦痛を取り除くこと)を目的とした放射線治療の患者さんの割合はどれだけですか?”
私 ”緩和のみを選択される方というのはごくまれです。ほとんどいません。”
彼女 ”???”
私 ”半分とか6割とか7割とか、を期待していたのですか?”
彼女 ”はい”
私 ”誰でも治癒を希望します。そして誰でも苦痛を取り除くことを希望します。どちらか一方だけという選択はありません。それにいろいろな奥の手がありますから大抵は局所の治癒を目指すことができます。”
ーーーー
明日に目隠して緩和を提示されることは、苦痛です。
治癒が具体的な目標になったとき、頭をぼんやりさせる痛み止めが要らなくなり、食べられなかったご飯が食べられるようになり、動かなかった手足が動くようになり、世の中が美しく見え、時間が美しく感動に溢れます。
私はこの仕事のおかげでそういうすばらしい人々の喜びに接してきました。
日本の現状もマッチ売りの少女のように心の中に世界を求めるしかない場合では決してありません。
直視して本当の治癒を目指せばよいと思います。

放射線治療医は多かれ少なかれ私のようなスタンスに立たされているのでないかと思います。
「最初、求められるパターナリズム」 という魔物に負けない医師を(自分自身の目標、そしてそういう医師を育てることを)目指します。
本当の信頼の第一歩のために。

選手宣誓!!

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