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映画・舞台の感想や俳優さん情報等。基本各種メディア込みのレ・ミゼラブル廃。近頃は「ただの日記」多し。

デイジーデイジー・144 Answered By Fire

2006-08-27 14:38:08 | DW出演作品レビュー

実はけっこう前に観ていたのですが、日々の情報に追われて、なかなか感想を上げることができずにいました。
オーストラリアーカナダ共同制作TVドラマ。前後編に分けて放送された全180分のミニシリーズです。
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主演はデイヴィッド・ウェナム──なのですが……

舞台は1999年夏の東ティモール。インドネシアからの独立の是非を問う住民投票が行なわれた頃の同地域と住民たち、そして選挙監視のため国連より派遣されたオーストラリア及びカナダの文民警察官たちの「闘い」(あらゆる意味での)の日々を描いたドラマです。
当時の社会状況と、それに関わる(関わらざるを得ない)人間たちのドラマの部分がバランスよく目配りされた秀作だと思いました。独立賛成派、反対派どちらかをイデオロギーで批判するのではなく、終始冷徹な視点を保った上で、数々の悲惨を経験し目の当たりにしてなお、未来を志向して行く人間の意志というものを強く感じさせる作品になっています。
NHKの「海外秀作ドラマ」枠などで(今もあるかどうか判りませんが)、是非日本でも放送してほしいと思います。

上でも書いたように、主演はオーストラリアのポリス・オフィサー、マーク役のデイヴィッド・ウェナムと、カナダの警察官ジュリー役イザベル・ブレイスということになっていますが、彼らはいわば狂言回しで、真の主役は、UNに協力するイズメニオとマダレーナ兄妹(彼らの両親はその地域の独立派指導者でもあり、ドラマが始まった時点で母は既に殺害されている)に代表される東ティモール住民、更にその時代の「状況」そのものです。

現実の東ティモールについてあれこれ言えるほどの知識はないので、以下は、非常に単純化した私見です。
様々な国や地域の戦争や内乱、紛争には、例えば民族的な、また宗教的な(もしくはイデオロギー上の)対立等の原因や背景があり、更にそれらが複合的に絡み合うことで争いが生まれると考えられています。
しかし、突き詰めれば、その根本的要因は殆ど「無知と貧困」という昔ながらの言葉に収斂されるものだという気がしてなりません。
東ティモールに限らず「民兵(ミリシア)」などと名乗る(自称他称問わず)グループは、平時であれば街の愚連隊にしかなれないような者たちによって構成されています。
単なる経済格差ではなく、「そうしかなれない」本質的な貧しさ。一生そこから逃れられない、またはそうだと思わされてしまう貧しさ。
西原理恵子は、その「逃れられない」ことをこそ、制度化されていなくとも「カースト」と呼ぶのだと喝破しています。それは日本国内にも存在しているとも。
ドラマの中で、イズメニオの従兄でミリシアの一員となっているシコが、彼に対して「インドネシア政府の金で大学まで行かせてもらったくせに」と難詰するシーンがありますが、自らの本質的な何かを収奪されていると感じる人間は、「持てる」者たちから際限なく収奪しようとするのでしょうか。
そして、その最も簡単な手段は暴力です。敵対する相手の生活も人間性をも貶め奪い破壊する、最も有効な方法です。

ドラマでも、勿論1999年当時の現実の東ティモールでも、投票が終了した時点から、インドネシア政府をバックにした武装勢力による略奪と虐殺が始まります。
イズメニオの一家や、UNに協力した仲間たちをも容赦なく襲う暴力と悲惨。
そのことは、状況を知りながら撤退を余儀なくされたUNメンバーたちの心にも深い傷を残し、彼らはそれぞれ平和な母国に戻っても、癒されることのない思いを抱え込む──

本当にどうなってしまうんだろうかと、特に後編にはいってから胸痛む思いでしたが、少しでも明るい未来を望めるような終わり方で良かったです。
現実世界を見れば、決して楽観できる状況ではなく、現にオーストラリアでこのドラマが放映された時点で、東ティモールでは新たに危機的状況が勃発していたのですが、それでも自分たちは前へ進むことを選んだ、というイズメニオの言葉に希望を繋ぎたいと思いました。

さて、デイヴィッド・ウェナムさんですが、絵空事のヒーローではなく、冷静で頼りがいのある上官で、珍しく(失礼!)ちゃんとカッコいい役であり、演技でありました。
制服姿も、ドラマが始まって間もなくのスーツ姿もいいですね~。ファンの間では、このイメージで刑事物をやってほしい!との声しきりです。ただ、これも皆さんおっしゃるように、あんな大きい娘さんが二人もいる役というのが、笑っちゃうような……いえ、彼の実年齢を考えたら、別に不思議じゃないですが。
その娘さんたちが父の日のカードに押した手形と、その頃東ティモールで、或る悲惨な情況下で押された「手形」が対比になっていることを思うと、胸が詰まります。

あと、これまた皆さんおっしゃるように、あのキスシーンは意味なかったですね。
ジュリーの側からすれば、頼れる男前の上官にちょっとフラッとしかけたものの、はずみでキスしてみて、やっぱりそれ以上のものにはなり得ないことが判った(妻子持ちだし)──という心の推移を表すのに必要なシーンだったかも知れませんが、マークの方にそんな理由づけはいらないし、まして死体を掘り返したりした後のことですしねぇ…

東ティモール住民を演じたのは、イズメニオ役のアレックス・ティルマンさんはじめ、殆どが実際に難民として同地から豪に避難して来た人たちだった、ということは、以前紹介したウェナム氏へのインタビューでも述べられていましたが、だかつさんのブログへのすなみさんのコメントで、シコ役ジョゼ・ダ・コスタさんの背景を知り、驚きました。本当にどんな思いで、あの役を演じたのでしょうか……

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