Loomings

映画・舞台の感想や俳優さん情報等。基本各種メディア込みのレ・ミゼラブル廃。近頃は「ただの日記」多し。

Shall We Dance?

2005-11-20 10:18:24 | 映画・DVDレビュー
Shall we Dance ?(初回限定版)

東宝

このアイテムの詳細を見る


ご存知、周防正行監督『Shall We ダンス?』のハリウッド版リメイク。
よく言われることですが、ストーリイラインは日本版とほぼ同じで、きわめて忠実なリメイクになっています。
それでも細部には、と言うよりむしろ細部にこそ、日米の差異が感じられるのが面白い所で、実は自分の感覚では、「キャラ立ち」具合は米版の方が好みだったりします。

主人公の職業がしがないサラリーマンから弁護士に変わったことが日米の違いを表しているとか、主演がリチャード・ギアだから、とか言われていましたが、弁護士と言っても、華々しく活躍するエリート法廷弁護士などではなく、大きい事務所に所属して、仕事も職場の人間関係も無難にこなし…というあたり、感覚的にはサラリーマンと大差ないように描かれています。

更に大きい変化は、奥さんが日本の典型的な専業主婦から、有能なキャリアウーマンになったことですが、仕事も主婦としての仕事も地域活動もちゃんとやっているような人でも、そこに安住してしまったら夫の心の動きなどには鈍感になるものだし、夫への疑惑も面と向かって問い質すこともできないまま、探偵に調査を依頼してしまったり…というあたり、むしろ日本版よりリアリティを感じました。
もちろん、この役にスーザン・サランドンという名女優を得たことも大きかったと思います。
また、実は私は日本版のあのクライマックスに、作劇上いささか居心地悪いものを感じていましたので、この夫婦の「ダンス」をクライマックスに置いたアメリカ版の方がドラマの展開としては素直に受け入れられました。
ジョンのあの「演出」ぶりは、アメリカならではと言うか、それこそリチャード・ギアならではという感じで、まああれは日本人にはなかなかできないでしょうね。(日本版のぎこちなく物悲しい心の通い合いも、それはそれで好きですが。)

ふと思ったのが、「立て前」社会と言われる日本よりもアメリカの方が、職業なり社会的地位なりのペルソナに相応しい生き方を要求されるプレッシャーは、却って大きいのではないかということ。
でも、人間なんてそういう外的なことに規定されるべきものじゃないよ、というのが、この米版の隠れたテーマだと、私は思いました。
いささかマイナーな社交ダンスというものを通じて、登場人物たちが本来の自分自身に気づき、望んでいたものを得て行く、というモチーフが、日本版では「日常のゆらぎ」の中で繊細に描かれ、米版ではよりわかり易く前面に出ています。

その部分を担うのが、主人公ジョンのダンス仲間たち。ダンスのうまいガールフレンドにプロポーズするため教室に通い始めたヴァーン。「女の子にモテるため」と公言するチック。
しかし、このチックくん、実は隠れゲイということなんでしょうか?ポリーナ(ジェニファー・ロペス)の模範演技に涙するような感受性の持ち主なのにマッチョを装っていた彼も、最後は本来の自分を受け入れられたと考えていいのかな?

と、殆ど新キャラクターの二人に対し、リンク(スタンリー・トゥッチ)とボビー(リサ・アン・ウォルタ-)が、設定も描写も竹中直人&渡辺えり子そのままなのが笑えます。それだけ元のご両人が強烈だったんでしょうねえ…
でも、例のズラを着けると怪しさ大爆発の竹中さんに対し、トゥッチ氏のズラ姿は、なぜか往年のスター、リカルド・モンタルバンに似て、けっこうハンサムに見えました。
それとこの人、ジェフリー・ラッシュがエミー賞を受賞した『ピーター・セラーズの愛し方~ライフ・イズ・コメディ!』で、キューブリックの役を演じているんですね。なんて濃い顔合わせだ!

探偵さんたちのすることも、ほぼ原作通り。でも日本版よりちょっぴり軽く感じられるのは仕方ないことでしょう。何しろ元のキャラクターを演じていたのは、怪優度では竹中さんをもしのぐ(と思う)柄本明氏ですからねえ。
「あなたは探偵であって、カウンセラーじゃないでしょう」という助手くんの名台詞がそのまま使われていたのが妙に嬉しかったです。

さて、一方でジョンがダンスを始めるきっかけとなったポリーナのキャラクター設定も、実は日本版とはかなり違います。
生まれながらのダンスエリートとして順調に歩んで来て、そのクライマックスとも言うべき地点で挫折、今は「場末のダンス教室」の教師などしていることに屈辱を感じつつ、プライドばかりは無駄に高く……という日本版の設定のままにジェニファー・ロペスが演じたのでは、とてもコワイことになってしまうと思います。
つましいクリーニング屋の娘が、やっと檜舞台に躍り出たところで挫折、公私ともにパートナーだった人とも別れ、その傷が癒えぬまま心を閉ざしている……と、日本版よりむしろ繊細な感じのキャラクターへの変更は、良かったのではないでしょうか。
特典映像の中の、教室に来ている子どもたちへの自然に優しい接し方を見て、ジェニロペへの好感度もちょっとアップしました。

特典の方に見るべき点はそれほどないけれど、カットされたシーンで、あの「特訓」は残してほしかったとか、当初のオープニングの演出はもっと「才気」に走ったものだったようだけど、あれは現行の淡々とオーソドックスなものにして正解、とかいろいろ思いました。

何にしても、日本版を知っている人も知らない人も、それぞれに楽しめるハートウォーミングストーリイです。
コメント (2)    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 『オーストラリア映画史』 | トップ | ヒューヒュー!・128 な、な... »
最新の画像もっと見る

2 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
Shall We Dance? (misao)
2005-11-22 01:17:04
 これ好きでしたよ。日本版見た当時は社交ダンスやってた経験があったので、思い当たる節が多かったのです。(笑)役所さんも好きな俳優の一人でしたし、草刈さんの品の良さが好きでした。(バレリーナでしたよね?)竹中さんのは濃すぎてひいてしまいましたが、あれをあのままリメイクするとは恐れ入った!まじめに踊るより、かえって大変だったそうですよ。

 J-LOさんは意外でしたが、なんか無表情すぎて?でした。さすがに踊りはうまかったですけどね。リメイクはほとんど文句ないですが、日本と違ってダンス習ってる男って、別に恥でもなんとも無いので、言い訳がちと苦しかった・・それとギアさんタキシード着慣れすぎ(笑)フツーのサラリーマンではないよ、あれ。
返信する
Let's dance! (Q)
2005-11-22 13:38:25
このタイトルだと上のボウイ氏ネタでも使えますね



日本版のクライマックスでは、あの着のみ着のまま、サラリーマンのスーツスタイルで駆けつけて来るところが良かったんですけどねえ…

タキシードだと、その役と言うよりやっぱり「ギア様」という感じになってしまいます。でも、最後にやはり「スター」らしさを出しておきたかったのかも。
返信する

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

映画・DVDレビュー」カテゴリの最新記事