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映画・舞台の感想や俳優さん情報等。基本各種メディア込みのレ・ミゼラブル廃。近頃は「ただの日記」多し。

舞台『千と千尋の神隠し』

2022-03-29 21:19:33 | 演劇・ミュージカル

今日は美術館へ行こうかお花見に行こうかと考えていましたが、曇り空と気圧変動のせいでどうにも気力が湧きませんでした。どちらも早く行かないと終わってしまいそうなので、出かけたいのはやまやまですが。

というわけで、今更ですが3月20日、日比谷の帝国劇場で観た舞台『千と千尋の神隠し』の簡単な感想を書きます。主な役はダブルキャストとなっていますが、自分が観た日は下記の皆さんでした。



周知のように今作品は宮﨑駿監督の同題アニメーション映画を舞台化したものです。演出はジョン・ケアード。元々ロイヤル・シェイクスピア・カンパニーの演出家で、ミュージカル作品としては日本でも『レ・ミゼラブル』『ジェーン・エア』『ダディ・ロング・レッグス』等の演出で知られ、日本オリジナル作品『ナイツ・テイル』もあります。もちろん『千と千尋』も日本オリジナル。世界初演です。
あのアニメが舞台になるというニュースが出た時には、多くの日本人が危惧の念を示す中、ミュージカルファンはケアードの名を聞いて「それなら大丈夫」と安堵したということがありました。
そうして作られたこの舞台、予想通り素晴らしかったです。

まず、この舞台はミュージカルではありません。「音楽劇」というわけでもなく、基本はストレートプレイなのですが、ミュージカル的手法がふんだんに用いられています。歌も少しありますが、カオナシ役はじめダンサーが活躍する場面が多く、ダンスやバレエ、そのほか舞踊的表現や動きで進行します。
「アニメでしか表現できない」と言われたあの世界をどうやって表現するのか?が関心の的でしたが、映像が用いられるのは、開幕直後の車中から見える風景など極少。流行りのプロジェクションマッピングも、ワイヤーによる宙乗りさえもなく、ほぼ全ての動きが「人」によるものでした。釜爺の何本もの腕もススワタリたちも、湯婆婆の「巨大な顔」も、ハク龍の動きや飛翔も、全てアンサンブルキャストによる黒衣(くろご)の手で操作・操演されます。このあたり、文楽や歌舞伎の手法も取り入れられていたと思います。湯婆婆の私室にいる「オイ!オイ!」の「頭(かしら)」の三つ首には笑ってしまいました。
他、大小のぬいぐるみ(「大」はオシラサマやオクサレサマ、「小」は坊ネズミやハエドリ、青蛙など)を用い、帝劇ならではの回り舞台フル活用など、アナログに徹していました。
即ち「アニメーションでしか表現できない世界」の「舞台でしかできない表現」による見事な再現。何よりそのことに感動しました。第一幕、オクサレサマが河の神に戻り「善き哉」と飛び去るところから、全員による歌と踊りのクライマックスへの、それこそミュージカル的感動や祝祭感は殊に素晴らしく、客席からも拍手喝采でした。
宮﨑駿が「アニメーション」を信頼するように、ジョン・ケアードも「演劇」を深く信頼している。二人の優れたクリエイターによるこの共鳴、この対決、この融和を観られたことが幸福でした。

ストーリーは驚くほど原作に忠実。セリフも幾つかの言葉の付け足しや改変以外、脚本構成は映画と同じです。音楽は久石譲曲をベースに、新たな曲も加わりましたが、「いつも何度でも」は使用されていません。少し残念ですが、でもあれは映画のあのエンドクレジットあってこその曲だとも思いますし……
ラストの千尋があの世界でのことを憶えているか否か、については昔から意見が分かれていますが、舞台版は「憶えている」だったと思います。それに伴い、今更ですが『オズの魔法使(い)』(←映画版は送り仮名なし)からのインスパイアを、この舞台版によってはっきり認識しました。「二人の魔女」や「巨大な顔」だけでなく、舞台に於てはお母さん役の俳優さんがリンを、お父さん役が油屋の兄役を演じているからかもしれません。

そしてカオナシ。映画ではアニメだしハヤオさんだし ということもあって、何かと「ロリストーカー」呼ばわりされてしまう存在ですが、そうではないんですね。あの異世界に於てさえ居場所のないカオナシを呼び寄せたのは、同じく居場所のない(舞台ではそれが強調されています)千尋自身だったということが、すごく腑に落ちました。彼(?)は千尋の影。孤独な魂が呼び合ったと言うより、殆ど同じ存在だったのではないかと思います。そう気付いたのも、湯婆婆と銭婆婆の一人二役、先述した両親の俳優さんの一人二役のおかげかもしれません。
思えば原作映画からして、「誰しも違う貌(かお)を持つ」「目に見えるものが本当の姿ではない」ことは、様々なキャラクターによって繰り返し描かれているんですよね。豚になった両親、ハク、河の神、坊……千尋の冒険の意味はそこにこそあったのかもしれません。

出演者の皆さんについても簡単に触れておくと、上白石萌音さんの千尋は、立ち居振る舞いも動きも本当に10歳の少女にしか見えませんでした。ハクのような見るからに二次元キャラ、それもヒトではないものを演じられる男性俳優さんがいるのか?と思っていましたが、醍醐虎汰朗さんは見事に異世界の存在でした。夏木マリさんは、当然と言えば当然ですが湯婆婆そのもの。菅原小春さんのカオナシは、派手な動きだけでなく、消え入りそうな身体表現も見事。カーテンコールでは「顔あり」になってくださいました。
釜爺の橋本さとしさんは、開演前、二幕開幕前、そして終演後の場内アナウンスも担当。観劇マナーの注意などもわかり易く楽しく、いずれの時も笑いと拍手が起きていました。どれも「グッドラック」で締めるのも良かったです。田口トモロヲさんが釜爺を演じる日にはそれもトモロヲさん担当になるようですが、思えば【プロフェッショナル】と【プロジェクトX】のお二人ですね

舞台『千と千尋の神隠し』、実は本日が東京千穐楽でした。それぞれWキャストの皆さん、特に橋本環奈さんの千尋も観たかったですが、話題作ゆえのチケット難で、機会がありませんでした。でも某観劇会により、一番観たかった組み合わせで拝見できてラッキーではありました。
しかし、観られなかった方たちにも朗報あり。名古屋の御園座に於る大千穐楽公演の配信が決定したそうです。



自分の帝劇観劇の日にはWOWOWの撮影がはいっていたそうですが、そちらもいずれ放送されるのか、記録映像なのかは不明です。
帝劇前に着いた時、ぶっといケーブルが束になって歩道を這っていて「足元にご注意」との呼びかけがありましたが、それがWOWOW撮影班だったようです。

公式サイトへのリンクはこちら ↓

舞台 千と千尋の神隠し Spirited Away


参考までに、鈴木敏夫プロデューサー、ケアード氏、そして夏木マリさんの座談会記事にリンクした、文春オンラインのツイートも貼っておきます。




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