QOOTESの脳ミソ

テキストのみで地味にやらせてもらってます。

初スキューバダイビング。

2024-07-05 23:28:06 | 日記
30歳になって少し経った頃に一度だけスキューバタイビングをやったことがある。いわゆる体験ダイビングなるもので、友人の友人がやっているダイビングショップで連れて行ってもらった。

場所は奄美大島の一番南の瀬戸内町と言うところ。その当時友人夫妻が住んでいたので、10日ほど何をするでもなくその町に滞在して、友人にいろいろな集落に連れて行ってもらったり、初めて会う地元の漁師と酒を飲んだりしていて、時間があるなら体験ダイビングにでも行って来たら?と勧められたのがきっかけだった。

因みに僕は泳げない(笑)。ま、水に浮くくらいはできるけど、推進力がない、息継ぎができない。「でもスキューバはタンクを背負っていて息ができるから、泳げなくても大丈夫だよ」と言われた。

体験ダイビングとはいえなかなかスパルタで(笑)、最初から「じゃ、バックエントリー行ってみますか。」と。(えっ?後ろから倒れて水に入るやつ?無理じゃない?)と思ったものの、変なアドレナリンも出ていてノリでやってしまったのだった。

連れて行ってもらったのは奄美大島と加計呂麻島の間の海で、海中にガンダムの「ルナツー」みたいな巨大な岩がそびえたっているポイント。水深は15mくらいと聞いた覚えがある。

なんとか潜って水の中から見ると、思いがけず海の中にまた別の大地が広がっていて、自分が海に溶けてなくなってしまいそうなほど見とれてしまい「いかん、いかん」と意識的に我に戻らなければならなかった。

その日の客は僕一人。しばらく海底の景色に見とれていていろいろな角度から「ルナツー」を観たり、ニモをよく観察していて気がついたらダイビングショップのご主人を水中で見失ってしまっていた。しかも、その時急にマスククリアがうまくいかなくなってしまい、どんどんマスク内に海水がたまってきた。(うーん、これは、よくないなあ・・・)と思い、周りを見回すとダイビング用と思われる固定されたロープが少し向こうに見えたのでマスクの中がほぼ海水で満ちている状態で、ロープのところまでなんとか移動してそれを伝ってゆっくり水面にまでのぼって行った。

船にはショップのご主人の奥様がいたので合図しておく。ほどなくしてご主人も水面に顔を出された。彼も僕を海中で見失ったので焦ったようだったが、僕が楽しかったというのを聞いて安心されたようだった。

その時は瀬戸内町にある「南洲旅館」という宿にずっと泊っており、10日間ほどの滞在中、宿泊客はほとんど僕一人きりだった。

海から直接宿までご夫妻に送っていただき、玄関の引き戸を開けると宿のおばあちゃんが居間から走ってきて「あんたぁ、大丈夫だったの?」と言う。

「大丈夫です。ダイビング楽しかったですよ!」と言うと、「さっきニュースでもやってたし、町の人からも聞いたけど、今日ダイビングの客がおぼれて死んだって聞いて、兄ちゃんじゃないかと思って心配していたんだよ。」と。

今度は僕が驚く番だった。驚きは長く続かず、それはすぐに恐怖に変わる。

(僕だったのかもしれない・・・)

そのあとダイビングショップのご夫妻から連絡があり、ちょうど僕と全く同じ時間にほかのダイビングショップの船ですぐ隣で潜っていた東京の商社のカップルがおぼれたと聞いた。女性の方がおぼれそうになっているところを彼氏が助けようとして二人ともなくなってしまった。初心者ではなくかなり本数を重ねていたベテランだったということだった。

あの日、海で彼らの船を見たことは覚えていた。それよりも、あの日の朝ダイビングに出かける直前に港の近くのスーパーでそのカップルが買い物をしていたのを見たことも覚えていた。あまり観光客のいないエリアだし、二人とも背が高い人の目を引く美男美女のカップルだった。

あの朝、スーパーで彼らを見かけたたった4~5時間後に、僕の近く、同じ海の中で彼らが死んで、霧のように消えてしまったんだということがなんだか夢の中の出来事のようで、いまだに実感がわかない。もう20年は経つのに。

あの世の彼らも、20年超もの間、僕が彼らの姿を覚えているとは予想だにしていないと思う。

こういうのを心が弱い人間はトラウマと呼ぶのだろうが、僕はそう名付けない。

心の傷ではなくて、年輪みたいなものだから。治療したり忘れるのではなく、自分の血肉にすることでしか本当には癒されない。

素人目にはわからなかったが、ショップのご主人によるとあの日は(ダイビングができないほどではなかったけれども)ちょっと海も荒れ気味で潮の流れもあって気にはなっていたので、僕を見失って(僕も彼を見失っていたのだけれど)かなり焦ったとのことだった。マスククリアできなかった時に僕は結構焦ったけれども、海中で(落ち着け、落ち着け、考えろ、考えろ)と自分に言い聞かせていたのも、ちょうどいいくらいだったのかもなと思った。海が荒れていたのなら、焦っていたらもっとひどいことになっていたかもしれない。

生まれて初めての最初のスキューバダイビングでそんなことがあったので、それ以来海には潜っていない。来週は石垣島に行くが、それでも海には入らない(笑)。

今日仕事の締め切りを終えたのだが、最後の10ページほどを必死で書いていた時に、頭の別のところでなぜかこの話を思い出していた。正確には覚えていないが、もしかしたら今日は彼らの亡くなった日なのかもしれない。ちょうど今くらいの時期だった。たぶん20回忌くらいになると思う。