今回は、不当解雇(リストラ)に関する判例を紹介します。
第1 上告代理人佐藤興治郎の上告理由について
1 上告理由のうち民訴法312条2項1号及び2号に掲げる事由がある旨主張する部分について
民訴法23条1項6号にいう「前審の裁判」とは,当該事件の直接又は間接の下級審の裁判を指すと解すべきであるから(最高裁昭和28年(オ)第801号同30年3月29日第三小法廷判決・民集9巻3号395頁,最高裁昭和34年(オ)第59号同36年4月7日第二小法廷判決・民集15巻4号706頁参照),労働審判に対し適法な異議の申立てがあったため訴えの提起があったものとみなされて訴訟に移行した場合(労働審判法22条参照)において,当該労働審判が「前審の裁判」に当たるということはできない(なお,当該労働審判が同号にいう「仲裁判断」に当たらないことは明らかである。)。したがって,本件訴訟に先立って行われた労働審判手続において労働審判官として労働審判に関与した裁判官が本件の第1審判決をしたことに違法はない。論旨は採用することができない。
2 その余の上告理由について
論旨は,理由の不備・食違いをいうが,その実質は事実誤認又は単なる法令違反を主張するものであって,民訴法312条1項及び2項に規定する事由のいずれにも該当しない。
第2 上告代理人佐藤興治郎の上告受理申立て理由(ただし,排除された部分を除く。)について
1 本件は,上告人の従業員であった被上告人が,上告人による普通解雇が客観的に合理的な理由を欠き,社会通念上是認し得ないもので違法であるとして,上告人に対し,不法行為に基づく損害賠償を求める事案である。
2 原審の適法に確定した事実関係の概要は,次のとおりである。
(1)ア 被上告人は,平成12年8月16日,建設機械器具の賃貸等を業とする会社である上告人に雇用された。被上告人は,同日から同17年3月まで営業部次長を,同年4月からは営業部長を務め,同19年5月1日には統括事業部長を兼務する取締役に就任した。
イ 上告人の就業規則35条1項2号(以下「本件規定」という。)は,普通解雇事由として「技能,能率又は勤務状態が著しく不良で,就業に適さないとき」を掲げている。
(2)被上告人は,酒に酔った状態で出勤したり,勤務時間中に居眠りをしたり,社外での打合せ等と称し嫌がる部下を連れて温泉施設で昼間から飲酒をしたり,取引先の担当者も同席する展示会の会場でろれつが回らなくなるほど酔ってしまったりすることがあった。
このため,被上告人の勤務態度や飲酒癖について,従業員や取引先から上告人に対し苦情が寄せられていた。上告人の代表取締役社長(以下「社長」という。)は,被上告人に対し,飲酒を控えるよう注意し,居眠りをしていたときには社長室で寝るよう言ったことはあるが,それ以上に勤務態度や飲酒癖を改めるよう注意や指導をしたことはなく,被上告人も飲酒を控えることはなかった。
(3)ア 被上告人は,平成19年6月4日(月曜日),取引先の担当者と打合せをする予定があるのに出勤せず,常務から電話で出勤するよう指示されたのに対し,日曜日だと思っていたと弁解した。被上告人は,その後連絡を取った部下の従業員からも出勤するよう求められたが,これにも応じず,結局,全日にわたり欠勤した(以下,この欠勤を「本件欠勤」という。)。
社長は,被上告人に代わって上記取引先の担当者と打合せをしたが,この打合せの後,同取引先の紹介元であり,上告人の大口取引先でもある会社の代表者から,被上告人を解雇するよう求められた。
イ 被上告人は,同日の夜,社長と電話で話をした際,酒に酔った状態で「(自分を)辞めさせたらどうですか。」と述べた。この言葉を聞いた社長は,苦情を寄せている従業員や取引先から被上告人をかばいきれないと考えた。
(4)社長は,被上告人の上記発言を退職の申出ととらえ,翌日の取締役会で被上告人の退職の承認を提案したところ,被上告人を弁護したり慰留すべきであるとしたりする取締役がいなかったため,退職が承認された。
上告人は,被上告人が自主的に退職願を提出しなかったことから,同月15日付けで被上告人を解雇した(以下,これによる解雇を「本件解雇」という。)。その後上告人が被上告人に送付した書面によれば,本件解雇は本件規定に定める解雇事由に基づくものとされている。
3 原審は,上記事実関係の下において,次のとおり判断して,被上告人の請求を一部認容すべきものとした。
(1)本件解雇の時点において,被上告人の勤務態度の問題点は,本件規定に定める解雇事由に該当する。
(2)しかし,社長は,本件欠勤まで,被上告人に対し,勤務態度や飲酒癖を改めるようはっきりと注意や指導をしておらず,かえって被上告人を昇進させたために,被上告人に自分の問題点を自覚させることができなかった。また,上告人は,本件欠勤の後も,取締役の解任,統括事業部長職の解職,懲戒処分など,解雇以外の方法を講じて被上告人が自らの勤務態度の改善を図る機会を与えていない。
このような事情からすると,上記の他の手段を講じることなくされた本件解雇は,社会通念上相当として是認することができず,被上告人に対する不法行為になる。
4 しかしながら,原審の上記3(1)の判断は是認することができるが,同(2)の判断は是認することができない。その理由は,次のとおりである。
前記事実関係によれば,被上告人は,入社直後から営業部の次長ないし部長という幹部従業員であり,平成19年5月以降は統括事業部長を兼務する取締役という地位にあったにもかかわらず,その勤務態度は,従業員からだけでなく,取引先からも苦情が寄せられるほどであり,これは被上告人の飲酒癖に起因するものであったと認められるところ,被上告人は,社長から注意されても飲酒を控えることがなかったというのである。
上記事実関係の下では,本件解雇の時点において,幹部従業員である被上告人にみられた本件欠勤を含むこれらの勤務態度の問題点は、上告人の正常な職場機能,秩序を乱す程度のものであり,被上告人が自ら勤務態度を改める見込みも乏しかったとみるのが相当であるから,被上告人に本件規定に定める解雇事由に該当する事情があることは明らかであった。そうすると,上告人が被上告人に対し,本件欠勤を契機として本件解雇をしたことはやむを得なかったものというべきであり,懲戒処分などの解雇以外の方法を採ることなくされたとしても,本件解雇が著しく相当性を欠き,被上告人に対する不法行為を構成するものということはできない。
5 以上と異なる見解の下に被上告人の請求を一部認容すべきものとした原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨はこの趣旨をいうものとして理由がある。
第3 結論
以上説示したところによれば,原判決は破棄を免れない。そして,被上告人の請求は理由がないから,第1審判決中上告人敗訴部分を取消し,同部分につき被上告人の請求を棄却すべきである。
よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。
なお、不当解雇(リストラ)について専門家に相談したい方は、不当解雇(リストラ)に強い弁護士に相談してください。また、企業の担当者で、従業員の解雇についてご相談があれば、顧問弁護士にご確認ください。そのほか、個人の方で、保険会社との交通事故の示談交渉、刑事弁護を要する刑事事件や多重債務(借金)の返済、遺言・相続の問題、オフィスや店舗の敷金返却(原状回復)などでお困りの方は、弁護士にご相談ください。
第1 上告代理人佐藤興治郎の上告理由について
1 上告理由のうち民訴法312条2項1号及び2号に掲げる事由がある旨主張する部分について
民訴法23条1項6号にいう「前審の裁判」とは,当該事件の直接又は間接の下級審の裁判を指すと解すべきであるから(最高裁昭和28年(オ)第801号同30年3月29日第三小法廷判決・民集9巻3号395頁,最高裁昭和34年(オ)第59号同36年4月7日第二小法廷判決・民集15巻4号706頁参照),労働審判に対し適法な異議の申立てがあったため訴えの提起があったものとみなされて訴訟に移行した場合(労働審判法22条参照)において,当該労働審判が「前審の裁判」に当たるということはできない(なお,当該労働審判が同号にいう「仲裁判断」に当たらないことは明らかである。)。したがって,本件訴訟に先立って行われた労働審判手続において労働審判官として労働審判に関与した裁判官が本件の第1審判決をしたことに違法はない。論旨は採用することができない。
2 その余の上告理由について
論旨は,理由の不備・食違いをいうが,その実質は事実誤認又は単なる法令違反を主張するものであって,民訴法312条1項及び2項に規定する事由のいずれにも該当しない。
第2 上告代理人佐藤興治郎の上告受理申立て理由(ただし,排除された部分を除く。)について
1 本件は,上告人の従業員であった被上告人が,上告人による普通解雇が客観的に合理的な理由を欠き,社会通念上是認し得ないもので違法であるとして,上告人に対し,不法行為に基づく損害賠償を求める事案である。
2 原審の適法に確定した事実関係の概要は,次のとおりである。
(1)ア 被上告人は,平成12年8月16日,建設機械器具の賃貸等を業とする会社である上告人に雇用された。被上告人は,同日から同17年3月まで営業部次長を,同年4月からは営業部長を務め,同19年5月1日には統括事業部長を兼務する取締役に就任した。
イ 上告人の就業規則35条1項2号(以下「本件規定」という。)は,普通解雇事由として「技能,能率又は勤務状態が著しく不良で,就業に適さないとき」を掲げている。
(2)被上告人は,酒に酔った状態で出勤したり,勤務時間中に居眠りをしたり,社外での打合せ等と称し嫌がる部下を連れて温泉施設で昼間から飲酒をしたり,取引先の担当者も同席する展示会の会場でろれつが回らなくなるほど酔ってしまったりすることがあった。
このため,被上告人の勤務態度や飲酒癖について,従業員や取引先から上告人に対し苦情が寄せられていた。上告人の代表取締役社長(以下「社長」という。)は,被上告人に対し,飲酒を控えるよう注意し,居眠りをしていたときには社長室で寝るよう言ったことはあるが,それ以上に勤務態度や飲酒癖を改めるよう注意や指導をしたことはなく,被上告人も飲酒を控えることはなかった。
(3)ア 被上告人は,平成19年6月4日(月曜日),取引先の担当者と打合せをする予定があるのに出勤せず,常務から電話で出勤するよう指示されたのに対し,日曜日だと思っていたと弁解した。被上告人は,その後連絡を取った部下の従業員からも出勤するよう求められたが,これにも応じず,結局,全日にわたり欠勤した(以下,この欠勤を「本件欠勤」という。)。
社長は,被上告人に代わって上記取引先の担当者と打合せをしたが,この打合せの後,同取引先の紹介元であり,上告人の大口取引先でもある会社の代表者から,被上告人を解雇するよう求められた。
イ 被上告人は,同日の夜,社長と電話で話をした際,酒に酔った状態で「(自分を)辞めさせたらどうですか。」と述べた。この言葉を聞いた社長は,苦情を寄せている従業員や取引先から被上告人をかばいきれないと考えた。
(4)社長は,被上告人の上記発言を退職の申出ととらえ,翌日の取締役会で被上告人の退職の承認を提案したところ,被上告人を弁護したり慰留すべきであるとしたりする取締役がいなかったため,退職が承認された。
上告人は,被上告人が自主的に退職願を提出しなかったことから,同月15日付けで被上告人を解雇した(以下,これによる解雇を「本件解雇」という。)。その後上告人が被上告人に送付した書面によれば,本件解雇は本件規定に定める解雇事由に基づくものとされている。
3 原審は,上記事実関係の下において,次のとおり判断して,被上告人の請求を一部認容すべきものとした。
(1)本件解雇の時点において,被上告人の勤務態度の問題点は,本件規定に定める解雇事由に該当する。
(2)しかし,社長は,本件欠勤まで,被上告人に対し,勤務態度や飲酒癖を改めるようはっきりと注意や指導をしておらず,かえって被上告人を昇進させたために,被上告人に自分の問題点を自覚させることができなかった。また,上告人は,本件欠勤の後も,取締役の解任,統括事業部長職の解職,懲戒処分など,解雇以外の方法を講じて被上告人が自らの勤務態度の改善を図る機会を与えていない。
このような事情からすると,上記の他の手段を講じることなくされた本件解雇は,社会通念上相当として是認することができず,被上告人に対する不法行為になる。
4 しかしながら,原審の上記3(1)の判断は是認することができるが,同(2)の判断は是認することができない。その理由は,次のとおりである。
前記事実関係によれば,被上告人は,入社直後から営業部の次長ないし部長という幹部従業員であり,平成19年5月以降は統括事業部長を兼務する取締役という地位にあったにもかかわらず,その勤務態度は,従業員からだけでなく,取引先からも苦情が寄せられるほどであり,これは被上告人の飲酒癖に起因するものであったと認められるところ,被上告人は,社長から注意されても飲酒を控えることがなかったというのである。
上記事実関係の下では,本件解雇の時点において,幹部従業員である被上告人にみられた本件欠勤を含むこれらの勤務態度の問題点は、上告人の正常な職場機能,秩序を乱す程度のものであり,被上告人が自ら勤務態度を改める見込みも乏しかったとみるのが相当であるから,被上告人に本件規定に定める解雇事由に該当する事情があることは明らかであった。そうすると,上告人が被上告人に対し,本件欠勤を契機として本件解雇をしたことはやむを得なかったものというべきであり,懲戒処分などの解雇以外の方法を採ることなくされたとしても,本件解雇が著しく相当性を欠き,被上告人に対する不法行為を構成するものということはできない。
5 以上と異なる見解の下に被上告人の請求を一部認容すべきものとした原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨はこの趣旨をいうものとして理由がある。
第3 結論
以上説示したところによれば,原判決は破棄を免れない。そして,被上告人の請求は理由がないから,第1審判決中上告人敗訴部分を取消し,同部分につき被上告人の請求を棄却すべきである。
よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。
なお、不当解雇(リストラ)について専門家に相談したい方は、不当解雇(リストラ)に強い弁護士に相談してください。また、企業の担当者で、従業員の解雇についてご相談があれば、顧問弁護士にご確認ください。そのほか、個人の方で、保険会社との交通事故の示談交渉、刑事弁護を要する刑事事件や多重債務(借金)の返済、遺言・相続の問題、オフィスや店舗の敷金返却(原状回復)などでお困りの方は、弁護士にご相談ください。