XVIII
確かにマダム・リア・ダルジュレその人であった。彼女はまさに流行の最先端を行くすばらしくシックな装いをしていた。それを身に着ける女性はすべて一様に怪しげで挑発的な魅力をふりまくので、一家の主婦もいかがわしい職業の女も皆同じように見え、いかなグラン・ブールヴァール(パリの目抜き通りに立ち並ぶ通俗劇専門の劇場)の常連といえども両者の区別がつかないのである。
もとはロッテルダムで仕立て屋をやっていたファン・クロペンという男がこの名誉ある進歩に寄与しているのだが、それも理由がないわけではなかった。『女王陛下の仕立て屋』を自認するこの男がどのようにしてパリのファッションを支配するようになり得たのか? それを知ることは彼の店で身を破滅させる女性たちの良識を疑うことと同義である。確かなことは、彼が主体性のない女たちをうまく手玉に取っているということだ。彼が例えば丈の短い色とりどりの布を幾重にも重ねたスカートや胴の形を損ねるような切れ込み、レースの縁飾り、ルーシュ(プリーツやギャザーを施した襞飾り)や、背中の真ん中に滑稽なふくらみを拵える結び目のついたドレスを発表すると、女性たちはこぞってそれに従うのである。彼女たちは皆、遠くから見ると天蓋が歩いているように見える。
マダム・ダルジュレは絨毯製造業者の手から生まれたような衣装に身を包んでいた。おそらく彼女としては絹の飾りがこれほどゴテゴテしていない方が好みだったのかもしれないが、彼女の立場としては最新の流行であることが必要だった。彼女は更にピラミッド型の髷の上にあるかなきかの小さな平たい帽子を乗せており、その下から解けた豊かな髪が肩に掛かっていた。
「うわぁ!綺麗なひとだ!」とシュパンは驚嘆の声を上げた。
事実、この距離からだと彼女は三十五歳を過ぎているようには見えなかった。秋に芳醇な果実が放つ魅力を持った美しさだった。彼女は遊歩道に行くよう御者に命じ、ボタン穴に薔薇の花を挿した彼女の御者ははやる馬を抑えながら指示を聞いていた。
「天気は上々だし」シュパンは付け加えて言った。「マダムは湖の周りを一周なさるんでしょうかね……」
「ああ、彼女出発するぞ!」とフォルチュナ氏がその言葉を遮った。「走れ、ヴィクトール、走るんだ……馬車代をケチケチするんじゃないぞ。掛かった費用はちゃあんと後で払い戻してやるからな」1.25