「このようにして失われる金の二十分の一でも手にすることが出来たら」とある頭の良い男が二十年ほど前に嘯いたものだ。「私なら一財産築いてみせる!」
これを言ったのはアントワーヌ・ヴォドレという男で、パリ中の人々がその名を知っていた。というのは、かのリスカラの裁判で、如才ない彼は愚かにも騙された男を演じ一躍有名人となったからである。このように公言した後、彼はある考えを思いつき、それを誰にも言わず密かに温めていた。六カ月間彼はその考えを練り上げ、検討し、あらゆる角度から吟味し、長所及び弱点を見定めた。そしてついに実行に移すに十分と判断した。早速その年に、どこから調達したか誰も知らぬ資金を基に新たな事業を始めた。それは新しい需要に応えるべく設立された前代未聞の奇妙な稼業であった。アントワーヌ・ヴォドレは初の『探し屋』になったのである。正式名称を用いるなら、初の『相続人追跡調査人』となった。
これは怠け者が徒やおろそかに出来る仕事ではない。特殊な資質を巧みに操る能力、ある種の適性、集中的な行動力、エネルギーといったものが必要であり、柔軟でありながら大胆でもあり、あらゆる分野の人々と交流を持ち、社交術に長けていなければならない。相続人追跡調査人は、ゲームに興じる際の無鉄砲さ、決闘に赴く者の冷静さ、警察官の直観力と忍耐強さ、最も狡猾な代訴人の能力とずる賢さが必要なのだ……。
このようにこの職業を言葉で説明し、その仕組みを分解して見せることは、実際にそれを実行することよりも簡単なことだ。まず彼は相続人が存在しないケースが発生する事情によく通じていなくてはならない。それに法曹界に知人を持っていることも重要だ。裁判を傍聴するにせよ、書記官や裁判所の廷吏から情報を得るにせよ。ある男が明らかな相続人のいない状況で死んだと知らされたとき、どうするか? 彼はすばやく行動を起こし、死者の遺した財産を調べ、それがやってみる値打ちのあるケースかどうかを判断する。相続財産が手数料を十分賄えるだけの額であれば、彼は仕事を開始する。まず何を置いても知らねばならないのは亡くなった人間の名前である。彼の姓名、もしあるなら異名、身体的特徴及び年齢。これらを得ることはたやすい。それよりも入手が難しいのは出生の場所、職業、これまでに居住した場所、好み、生き方など、一言で言えば伝記が書けるほどの個人的情報である。これら不可欠な要素を武器に、彼は慎重に調査に取り掛かる。人々の注意を喚起しないことが彼には是非とも必要なことだからだ。犯罪を追う警察官ならば、これほど細心な注意をもって捜査することも、これほどの忍耐づよさ、粘り強さ、そして工夫の才を必要とすることもない。相続人追跡調査人が財産を持ったまま死んだ男の足跡を調査する際の比類なき巧妙さは驚くばかりである。7.29