ド・ヴァロルセイ氏はそのことよく理解したので、元気よく答えた。
「そうですか! 親愛なるドクター、二万フランほどで良ければ、喜んでご用立ていたしますよ」
「本当ですか?」
「名誉にかけて!」
「で、いつ用意して頂けますか?」
「三、四日後には」
取引は成立した。ジョドン医師の方では、ド・シャルース伯爵の掘り起こされた遺体から何らかの毒物が検出されるよう準備をしておくこととなる。彼は侯爵の手を握り締め、こう言った。
「どのような事態になりましょうとも、私にお任せください」
やっとド・コラルト子爵と二人だけになったド・ヴァロルセイ氏は、それまでの遠慮をかなぐり捨て、音を立てて大きく息を吸いながら立ち上がった。
「何と骨の折れる会合だ!」と彼は呻るように言った。
ド・コラルト氏は椅子の上でぐったりとし、一言も発しなかったので、侯爵は彼の方に近づき、肩をポンと叩いた。
「具合でも悪いのかい。そんな風にじっとしてるなんて、まるで一巻の終わりみたいに」
ド・コラルト氏は突然夢から覚めた人間のようにびくっとした。
「どこも悪くなんかないさ」と彼は乱暴な口調で答えた。「ただ考えていただけだ……」
「その顔つきを見れば、あまり嬉しくないことらしいな」
「まぁそのとおりだ……私たちの前に貴方が敷いたレール、それに乗って行けばどういう運命が待っているのかを……」
「ああ、不吉な予言はなしにしてくれ……それにもう、ここで熟考に沈んだり、退却を考えたりするときではない。ルビコン川は渡ってしまったのだ……」
「そうなんだ。私が困っているのはそこなのだ。私の忌まわしい過去、そのおかげで貴方はまるで短刀をかざすが如く私を脅してくるが、それさえなければとうの昔に奈落への道を辿るのは貴方一人にして貰っていたところだ。確かに、貴方はかつて私を助けてくれた……。トリゴー男爵夫人に私を引き合わせてくれたのは貴方だし、私が今のような一見贅沢な暮らしが出来ているのも、貴方という後ろ盾があるおかげだ……。しかし、貴方の危険極まりない策略の手先となるのは、返礼としてあまりに高すぎはしないか! カミ・ベイを騙す手伝いをしたのは誰か? こっそり貴方の持ち馬のドミンゴ以外の馬に賭けたのは誰か? パスカル・フェライユールの手に前もって準備しておいたカードを滑り込ませたのは誰か? いつ発覚するかもしれない危険な行為なのに? コラルトだ……いつもいつもコラルトだ……」
ド・ヴァロルセイ侯爵は一瞬怒りを表す身振りをしたが、すぐにそれを抑え、返答はしなかった。それから部屋の中を大股で五、六歩歩き回った後、平静さを取り戻したと感じたのか、ド・コラルト氏の前に戻って来た。
「正直言って」と彼は話し始めた。「私は君のことが分からなくなった。この期に及んで恐くなってしまったのかい? 君ともあろう者が? いつからそうなった? 成功は目前じゃないか」
「そうだといいのだが……」5.30
「そうですか! 親愛なるドクター、二万フランほどで良ければ、喜んでご用立ていたしますよ」
「本当ですか?」
「名誉にかけて!」
「で、いつ用意して頂けますか?」
「三、四日後には」
取引は成立した。ジョドン医師の方では、ド・シャルース伯爵の掘り起こされた遺体から何らかの毒物が検出されるよう準備をしておくこととなる。彼は侯爵の手を握り締め、こう言った。
「どのような事態になりましょうとも、私にお任せください」
やっとド・コラルト子爵と二人だけになったド・ヴァロルセイ氏は、それまでの遠慮をかなぐり捨て、音を立てて大きく息を吸いながら立ち上がった。
「何と骨の折れる会合だ!」と彼は呻るように言った。
ド・コラルト氏は椅子の上でぐったりとし、一言も発しなかったので、侯爵は彼の方に近づき、肩をポンと叩いた。
「具合でも悪いのかい。そんな風にじっとしてるなんて、まるで一巻の終わりみたいに」
ド・コラルト氏は突然夢から覚めた人間のようにびくっとした。
「どこも悪くなんかないさ」と彼は乱暴な口調で答えた。「ただ考えていただけだ……」
「その顔つきを見れば、あまり嬉しくないことらしいな」
「まぁそのとおりだ……私たちの前に貴方が敷いたレール、それに乗って行けばどういう運命が待っているのかを……」
「ああ、不吉な予言はなしにしてくれ……それにもう、ここで熟考に沈んだり、退却を考えたりするときではない。ルビコン川は渡ってしまったのだ……」
「そうなんだ。私が困っているのはそこなのだ。私の忌まわしい過去、そのおかげで貴方はまるで短刀をかざすが如く私を脅してくるが、それさえなければとうの昔に奈落への道を辿るのは貴方一人にして貰っていたところだ。確かに、貴方はかつて私を助けてくれた……。トリゴー男爵夫人に私を引き合わせてくれたのは貴方だし、私が今のような一見贅沢な暮らしが出来ているのも、貴方という後ろ盾があるおかげだ……。しかし、貴方の危険極まりない策略の手先となるのは、返礼としてあまりに高すぎはしないか! カミ・ベイを騙す手伝いをしたのは誰か? こっそり貴方の持ち馬のドミンゴ以外の馬に賭けたのは誰か? パスカル・フェライユールの手に前もって準備しておいたカードを滑り込ませたのは誰か? いつ発覚するかもしれない危険な行為なのに? コラルトだ……いつもいつもコラルトだ……」
ド・ヴァロルセイ侯爵は一瞬怒りを表す身振りをしたが、すぐにそれを抑え、返答はしなかった。それから部屋の中を大股で五、六歩歩き回った後、平静さを取り戻したと感じたのか、ド・コラルト氏の前に戻って来た。
「正直言って」と彼は話し始めた。「私は君のことが分からなくなった。この期に及んで恐くなってしまったのかい? 君ともあろう者が? いつからそうなった? 成功は目前じゃないか」
「そうだといいのだが……」5.30