他の時代であったなら、マダム・ダルジュレのこの話は全くあり得ないもののように見えたことであろう。が、今の時代、こんな話はさして珍しくもない。上流社会のお偉方である二人の紳士、陳腐な言い回しを使うなら、下々からあがめられているような紳士が二人協力して警察の目をかいくぐり賭博場を開き、哀れな女に不道徳な真似をさせて金を稼ぐ……品性のかけらもない!
マダム・ダルジュレは驚くべき真実を吐露したのだったが、その声には偽りでは出せないような響きが籠っていた。彼女は氷のような冷静さを装っていたのだが、内心では自分の長年に亙る自己犠牲と苦しみが息子から感謝と思い遣りの叫びを引き出すのではないかと密かに期待していた。そうすれば自分が味わってきた拷問の苦痛も報われるであろう。
それは不毛な幻想だった。ウィルキー氏の目から涙の一滴を引き出すよりは、岩から泉を迸らせることの方が容易であったろう。
この告白を聞いて、彼は奇妙な話としか感じなかった。彼が大いに驚いたのは、マダム・ダルジュレが出資者のことを破廉恥な人間たちだと考えていることだった。
「悪くない考えだ」彼はにやにや笑っていた。「なかなか賢いやり方じゃないか!」
それから好奇心ではち切れんばかりになって言った。
「その二人の紳士の名前が分かるんだったら、一ルイぐらい喜んで払ったっていい……どうかお願いです、言ってくださいよ! これは大いに儲かりそうな話だ!」
この若者以外の人間だったら、このときの母の視線に怯えてぺしゃんこになっていたであろう。彼女の目には深い苦悩とこれ以上ないほどの軽蔑が相克していた。
「あなたは頭がおかしくなったようですね」と彼女は言い放った。
ウィルキー氏は自分の頭の良さが疑われたことに呆気に取られ、居ずまいを正したとき、彼女はぶっきらぼうに付け加えた。
「話はここまでです!」
彼女はすばやく隣室に行き、しばらくして戻って来たときには、いくつかの円筒状にした書類を手に持っていた。
「これが婚姻の契約書」と彼女は説明し始めた。「それから、あなたの出生を証明する抄本、それに私の相続放棄の写し---これは完璧に法的な効力を持ちます。不在の夫の代わりに裁判所が正式に認めたものなので。これらすべての書類をあなたに渡す用意があります。但し、条件が一つ……」
この最後の言葉は、有頂天のウィルキーに浴びせられた冷水のシャワーのようなものだった。
「条件……とは?」 と彼は不安そうに尋ねた。
「あなたがこの証書に署名することです。これは私の公証人が作成したもので、あなたがド・シャルース伯爵の財産を相続する際、私に二百万フランを与えるというものです」
二百万フランとは! その額の大きさにウィルキー氏は言葉を失った。というのも、彼がド・コラルト子爵に支払うと約束した……しかも書面で……成功報酬のことを忘れてはいなかったからだ。
「それじゃ僕には殆ど残らないじゃないですか」と彼は哀れっぽい口調で言った。「そんなんじゃ割に合わない……」4.3
マダム・ダルジュレは驚くべき真実を吐露したのだったが、その声には偽りでは出せないような響きが籠っていた。彼女は氷のような冷静さを装っていたのだが、内心では自分の長年に亙る自己犠牲と苦しみが息子から感謝と思い遣りの叫びを引き出すのではないかと密かに期待していた。そうすれば自分が味わってきた拷問の苦痛も報われるであろう。
それは不毛な幻想だった。ウィルキー氏の目から涙の一滴を引き出すよりは、岩から泉を迸らせることの方が容易であったろう。
この告白を聞いて、彼は奇妙な話としか感じなかった。彼が大いに驚いたのは、マダム・ダルジュレが出資者のことを破廉恥な人間たちだと考えていることだった。
「悪くない考えだ」彼はにやにや笑っていた。「なかなか賢いやり方じゃないか!」
それから好奇心ではち切れんばかりになって言った。
「その二人の紳士の名前が分かるんだったら、一ルイぐらい喜んで払ったっていい……どうかお願いです、言ってくださいよ! これは大いに儲かりそうな話だ!」
この若者以外の人間だったら、このときの母の視線に怯えてぺしゃんこになっていたであろう。彼女の目には深い苦悩とこれ以上ないほどの軽蔑が相克していた。
「あなたは頭がおかしくなったようですね」と彼女は言い放った。
ウィルキー氏は自分の頭の良さが疑われたことに呆気に取られ、居ずまいを正したとき、彼女はぶっきらぼうに付け加えた。
「話はここまでです!」
彼女はすばやく隣室に行き、しばらくして戻って来たときには、いくつかの円筒状にした書類を手に持っていた。
「これが婚姻の契約書」と彼女は説明し始めた。「それから、あなたの出生を証明する抄本、それに私の相続放棄の写し---これは完璧に法的な効力を持ちます。不在の夫の代わりに裁判所が正式に認めたものなので。これらすべての書類をあなたに渡す用意があります。但し、条件が一つ……」
この最後の言葉は、有頂天のウィルキーに浴びせられた冷水のシャワーのようなものだった。
「条件……とは?」 と彼は不安そうに尋ねた。
「あなたがこの証書に署名することです。これは私の公証人が作成したもので、あなたがド・シャルース伯爵の財産を相続する際、私に二百万フランを与えるというものです」
二百万フランとは! その額の大きさにウィルキー氏は言葉を失った。というのも、彼がド・コラルト子爵に支払うと約束した……しかも書面で……成功報酬のことを忘れてはいなかったからだ。
「それじゃ僕には殆ど残らないじゃないですか」と彼は哀れっぽい口調で言った。「そんなんじゃ割に合わない……」4.3