良質な、がつんと読みごたえのある本を読みたい、だが仕事で疲れてるのでエンタテイメント性も十分欲しい、というリクエストに答える小説を探していて、選んだのがこれ。
ええーなんでこれ?と思われるに違いない一作。
ホラー苦手なので、横溝作品は全てスルーしてきたのですが、長く読み継がれる作品にはそれなりの理由がある、食わず嫌いはせずにとりあえず一作読んでみて決めよう、と思って横溝作品の中でもピカイチの知名度を誇るこの作品を選んでみました。
昔々、私がまだ子供だった頃、テレビで(再放送なのか映画なのかはもう記憶が定かではないですが)やっていたのをたまたま見始めてしまい、
「佐清、そのマスクをとっておやり」
のシーンで、おずおずとマスクを取り始めたところで思わず目を覆って見なかった、という記憶があります…そしてその後はもう怖くて見なかったという。
スケキヨといえば、横溝読んだことがない人でも「白マスク&逆立ち」で知っている人も多いキャラクターです。
本屋で買うのにちょっと勇気がいりました。
怖えー。表紙からして怖い。
現在発刊されているのは、違う表紙のもの(モノクロで文字だけのもの)なのですが、私が行った本屋にあったのはこの昨年のタイプ(往年の名カバーの限定復刻版)だったんですよね。
呪われそう(苦笑)。
結果。
いや、参りました。
やはり長く読み継がれる作品にはそれなりの理由がある、と思った自分に間違いはありませんでした。
もしかしたら他の作品よりホラー度は低いのかもしれませんが、なんと言うか生ぬるい空気の気持ち悪さみたいなものは十分伝わってきます。
が、面白い。読ませます。がっつり読ませます。
ページをめくる手を止められませんでした。
職場の昼休みでも、「あと10分…あと5分…あと、あああ、もう1ページだけ!」という感じでした。
思ったよりもグロい描写は少ないのですが(多分映像の方がリアルに見せる分だけグロくなるのでしょう)、古い日本の田舎の旧家や因習がかもし出す、おどろおどろしい感じが何とも言えずよろしいです。
結構そういうの好きなんだよなあ、という意外な自分の一面も発見したり。
また、推理小説としても非常に質がよく、筋の通った推理(と事実)であり、偶然がかなり重なるのが若干不自然と言えば不自然なのですが、それはご愛嬌と言えるほどよくできていました。
文章・文体も非常に整然としており、「読ませる」文章にそれが貢献しています。
恥ずかしながら国語の能力自体はかなり高い方と自負しているのですが、この作品では所々に知らない単語が出てきて、辞書で引いて意味を知っていくのも楽しい作業でした。
(いやさすがに「衆道」は知ってましたけどね・笑)
しかし、金田一さん、これだけ死人が出てから推理してたんじゃ遅いでしょ(笑)。
読後も気になっているのは、ラストで宮川香琴が三姉妹の前で隠してきた正体がばれるのもかまわず金田一さんの推理に合いの手を入れていますが、それに対して何も三姉妹が言及しなかったこと。
香琴が〇〇だったということを知っていたはずはなく(知っていたらもちろん家には入れなかっただろうし、もっと酷い目にあわせていたと思われる)、そこで初めて正体を知ったというくだりだと思うのですが。
…推理を聞くのにそれどころではなかった、ということなんでしょうか。
原作では、スケキヨさん、黒の頭巾と顔型(お面のような)マスクで白マスクじゃないんですね~。意外。
ラストも良かった。幕引きの鮮やかさが素晴らしい。
余韻を残しつつも、引きずらずにすっと終わる。
ニューヨークのブロードウェイミュージカルのカーテンコールみたいな潔さです。
というわけで、横溝作品、しばらく続けて読んでみようかと思います。
ううう、怖いけど。