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経済なんでも研究会

激動する経済を斬新な視点で斬るブログ。学生さんの就職準備に最適、若手の営業マンが読めば、周囲の人と差が付きます。

新次元・SF経済小説 【 プ レ ー ト 】

2018-07-22 07:10:05 | SF
第5章 ニッポン : 2060年代

≪42≫ 驚愕の提案 = 「やあ、元気そうだね。きょうは大事な話をするから、よく聞いてくれたまえ」
ウラノス博士は開口一番、こう切り出した。白髪に丸顔、低くて柔らかい声。最初に会ったときと、ぜんぜん変わっていない。ただ変わったのは胸のプレート番号。≪12≫から≪07≫に変わっている。ああ、あれから5年もたったんだ。

「以前に『君にはやってもらいたいことがある』と言ったのを覚えているかな」
――もちろん、よく覚えています。でも何をすればいいのか、いまだに全く判りません。博士の頼みならばどんなことでもやるつもりですが。

「よろしい。君には地球に帰ってもらいたいのじゃ。そして地球の人類にも、われわれダーストン人のためにもなる仕事を始めてもらいたい」
――えっ、そんなことが、ぼくに出来るんですか。

「われわれの予測だと、地球人は再びエネルギーで大問題を惹き起こす可能性が高い。たとえば、われわれの祖先が使用済み核燃料の処理で失敗したようにな。すると地球人はまたまた脱出先の星を探して、このダーストン星を発見するかもしれない。わしらの賢人会は、そんな事態を未然に防ごうと考えたんじゃ。
君もよく知っている例のダーストニウム合金を、地球上の国に普及させる。そうすれば太陽光発電だけで、エネルギーを賄うことができ、不測の事態は起きんじゃろう」

――びっくりして、心臓が止まりそうです。なるほど、考え方はよく解りました。しかし、ぼくにそんな能力はありませんよ。また、ぼくが日本に帰っても、航空自衛隊には戻れないでしょうし、親類も友人もいません。

「大丈夫。われわれがすべて計画を練り上げる。君は指示通りに動いてくれればいいんだ。それに補佐役兼連絡係として、このマーヤを付けてあげる。君さえ決心してくれれば、あと半年の間に宇宙船を造り、マーヤを日本人の女性に改造する」

正直に言って、この提案を受け入れるのは、とても不安だった。その半面、日本のいまの様子を知りたいという気持ちも強かった。そんな心の葛藤を破ったのは、マーヤを連れて行けるという博士の発言。十分に計算したうえのひと言だったに違いない。そっとマーヤの横顔を覗き込んだが、表情に変化はなかった。

                              (続きは来週日曜日)


新次元・SF経済小説 【 プ レ ー ト 】

2018-07-15 07:43:00 | SF
第4章  錬 金 術 と 太 陽 光

≪41≫ 別世界? = たしかに、この国は住みやすい。だいいち働かなくても、結構な暮らしができる。おカネの心配もない。病気やケガは完全に治してくれて、100歳までの健康が保障されている。喧嘩や犯罪もない。人々は自分の好きな道を選んで、生きがいを感じているらしい。

でも、それだけに刺激というものが全くない社会でもある。最初のうちは「他人と競争しようなんて思わない」とか「現状に不満なんてない」といった人々の声を聞くと、ぼくは疑ったものだ。突如として出現した地球人に、強がりを言っているのではないか。そんな風に感じていたことは、否定できない。

ときどき、わが愛するマーヤにも聞いてみた。だがマーヤは常に「人々の言うことに嘘はないでしょう」と断言していた。このロボットと人間との関係も判りずらい。ぼくが地球で知っていたロボットは生産工場で人間の代わりをしたり、会社やホテルで受付の業務をこなしたり。まだ進化した機械に過ぎなかった。それが、ここでは人間と変わらない肢体を持ち、人間以上の知能を有し、社会では人間並みに扱われている。

だがダーストン星に5年も住み着いてみると、ぼくの考え方もは変わってきた。ここの人たちは、どうも心の底から現実を受け入れているようだ。そんな感じが次第に強くなってきた結果、最近では「それがダーストン人なのだ」と思うようになっている。この人たちは、こういう環境で生まれ育った。だから200年以上も前の競争的な人生や戦争や犯罪が多発した社会のことは、教科書でしか知らないのだ。

ところが、ぼくはつい数年前まで、実際にそういう社会に住んでいた。そのギャップは限りなく大きい。もし、ぼくがこの星にずっと住み続けるとしたら、多分そういう人生観に変わって行くのだろう。だが、どうしても理解できないことが1つある。

それはダーストン国というのは、地球とは完全に違う『別世界』なのか。それとも『地球も200年すれば、この国のように変わって行くのか』という大いなる疑問だ。この大問題は、おそらく賢人たちに聞いても判らないだろう。そうして、こんな問題に頭を悩ませている日本人が、4.2光年も離れた星で暮らしている事実を、地球上ではだれ一人として知らない。こう考えると無性に寂しくなって、思わずマーヤの手を握りしめた。

そんなとき、賢人会のウラノス議長から連絡があった。真剣な顔をしたマーヤが「重要な話をしたいので、あした来てくださいと言ってます」と告げた。

                            (続きは来週日曜日)


新次元・SF経済小説 【 プ レ ー ト 】

2018-07-08 06:45:46 | SF
第4章  錬 金 術 と 太 陽 光

≪40≫ ダーストン人 = それから半年あまり、ぼくは精力的に人々と付き合い、集会などへも積極的に参加した。この国の人たちを、もっと知りたいと考えたからである。まるで世論調査をしているようだと感じながら、毎晩メモしたノートは20冊を超えた。おかげでダーストン人の思考や生活態度も、ずいぶん判ってきたように思う。

エネルギー研究所のシュベール博士から聞いたダーストニウム合金と太陽光発電の話は、ぼくに強烈な印象を与えた。そこで数多くの人に聞いてみたが、驚いたことに知っている人はごく僅かだった。ほとんどの人からは「知りませんね」とか「聞いたことはありますが、あまり関心は持っていない」という答えが返ってきたのである。

電気はいつも十分に供給されている。完全自動車に乗れば、どこへでも安全に行ける。そんなことは当たり前のことであって、その仕組みを知っている必要なんかない。だからダーストニウムなどという名前も知らない。たいていの人は、こんな調子だ。知っていたのはごく僅か、ほとんどが理科系の学者だった。

その学者でさえも「人類は初め木を火種とし、石炭と石油を燃やし、さらには原子力をエネルギー源とした。そして最終的に太陽光発電にたどり着いたのです。これは歴史的にみて当然の帰着ですから、驚くには当たりません」と、のんびり構えている。その顔には「この地球人はなんで、こんな当たり前のことに驚いているんだろう」と書いてあった。

それだけではない。究極の再生医療、人間に近いロボットの製造。この驚くべき科学技術の成果についても、人々はもう当然のこととして受け入れている。それが物凄いことだという考え方は、ほとんどない。たしかに、この国の人々はそういう世界に生まれ育ってきた。すべてを当たり前のことだと思ってしまうのも、ある意味では仕方がないのかも。

ところが、このぼくはほんの数年前まで病気と闘い、自動車事故で多くの人たちが命を失う社会に住んでいた。ロボットは人間の代わりに働き出したが、まだ機械にすぎない。原発は事故を起こし、メタン・ハイドレードは人類に牙を剥いた。そんな世界から突然この地に来たのだから、そのギャップの大きさに圧倒されても仕方がない。

こう考えてくると、ぼくの気持ちはずいぶん楽になった。いままではダーストン星に呑み込まれていたが、これからは距離を置いて見ることが出来そうだ。理解に苦しんだ主婦や若者の生活態度も、なんとなく解ってきそうな気がしてきた。もう少し、ぼく流の世論調査を続けることにしよう。

                                (続きは来週日曜日)


新次元・SF経済小説 【 プ レ ー ト 】

2018-07-01 08:05:50 | SF
第4章  錬 金 術 と 太 陽 光

≪39≫ 道路革命 = 帰りの車では、改めて高速道路の状態を観察した。もう何回となく走っているが、これまでは遠くの景色を眺めていたことが多い。車の上半分は強化ガラスで造られているから、外はよく見える。でもスピードが速いので、近くのモノには焦点が合わない。

高速道路は片道3車線で、幅は20メートルほど。両側には高さ1メートルぐらいの壁が続いている。その壁には点滅する小さなライトが、いくつも並んでいた。走る車の真下には鉄道のレールのような黒い線が見え、はるか遠くまで延々と伸びている。これがダーストニウム合金で、車を浮かせて誘導しているに違いない。

ぼくたちを送り出しながら、シュベール博士がつぶやいた言葉は印象的だった。
「100年ぐらい前までは、自動車にカメラや赤外線装置を積み込んで、人や障害物とぶつからないようにする。その技術ばかりを追求していたんじゃ。この自動運転車はかなり進歩したんじゃが、やっぱり人間が運転席におって注意していないと事故が起きてしまう。

そこで技術者たちは、考え方を一変した。自動車ではなく、道路に車をコントロールさせる。この革命的な発想の転換で、いまの交通方式が完成した。人間は全く関与しない完全自動車で、事故は皆無。だが本当は道路革命と呼ぶべきだと、私は常々思っておるんじゃ」

ぼくが地球を飛び出したころ、日本でも自動運転車の開発が進んでいた。車が障害物を感知して、ブレーキをかける。この技術のおかげで事故はかなり減ったが、皆無というわけにはいかなかった。やはり発想を転換して、道路に主導権を持たせた方がいいのかもしれない。

路面を利用した太陽光発電にも、感心せざるをえない。日本では建物の屋上とか、田舎の休耕田に発電パネルが敷き詰められていた。それより道路にパネルを敷いてしまえば、景観も損なわれない。送電線を張る手間もなくなる。日本もそうしたらいいと思ったが、そのためにはダーストニウム合金が必要であることに気が付き、ちょっとがっかりした。

国家機密である新合金の製法は、教えてもらえそうにない。だが、その存在やその弱点を、どうしてぼくに教えたんだろう。いくら考えても判らない。彼らは結局「あの男が地球に戻ることはない」と考えて、安心しているのだろうか。

                             (続きは来週日曜日)


新次元・SF経済小説 【 プ レ ー ト 】

2018-06-24 07:21:08 | SF
第4章  錬 金 術 と 太 陽 光

≪38≫ 人工の光線 = 「この話は絶対にオフレコだぞ。マーヤも承知しておけ。本当は話したくないんだが、賢人会の議長から『話しておくように』と、わざわざ指示があった。なんで、あのウラノス博士がこんなことを言うのか、私には解らない」

不満そうな口ぶりで、シュベール博士が訥々と喋り始めた。名指しされて、マーヤも緊張の面持ちで聞いている。
「われわれが発見した新金属ダーストニウムは不思議な力を持っていて、少量を混合するだけで鉄と金とニッケルなどを融合させてしまう。この新しい合金は素晴らしい強度と強い磁性を帯びるから、これを使って高速道路の路面で太陽光発電をしていることは、もう知っているな」

シュベール博士の顔が、いちだんと引き締まった。こちらも思わず身を乗り出す。

「ところがダーストニウム合金には、唯一の弱点があるんじゃ。それは、ある特殊な光線に当たると、例の魔法の力を瞬時に失ってしまうことなんだ。だから、この光線を照射されると、発電設備が破壊される。自動車も磁力を失い、走行できなくなる。
マーヤ君、君の体内にも微量の新合金が使われていることは知らんだろう。神経回線の接着用に、電導率の高いこの金属が使われているんだ。だから、もし光線Xが天から降ってくると、ロボットは直ちに機能しなくなってしまうだろう」

――それは大変だ。ところで、どんな光線なんですか。

「それは言えない。ただ有難いことに、この光線は自然界には存在しない。あくまで人工的な光だとだけ言っておこう。でも、ちょっとした知識と技術があれば、誰でもこの光線は作り出せる。そこが怖ろしいところなんじゃ。

要するに、この光線が発射されると、わが国のインフラは破壊される。それどころか、気象のコントロールもできなくなるだろう。君も知っている宇宙バリア。あれもダーストニウム合金の細い線で造られている。その強力な磁性の吸着力と反発力を利用して、人工衛星から投網のように発射して広大な網を空間に広げるわけだ。これも人工光線が注がれると、破れてしまう。すると気象のコントロールができなくなり、この国は厳しい自然に曝される」

シュベール博士はやれやれという表情で、こう締めくくった。「ダーストニウムと人工光線の話は、だから国家機密なんじゃ。おそらく知っている人は10人もいないだろう。それなのに何で、地球人の君に教えるのか。ウラノス議長はとても思慮深い人だから、何かを考えているんじゃろうが」

                             (続きは来週日曜日)


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