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経済なんでも研究会

激動する経済を斬新な視点で斬るブログ。学生さんの就職準備に最適、若手の営業マンが読めば、周囲の人と差が付きます。

新次元・SF経済小説 【 プ レ ー ト 】

2018-06-17 08:01:57 | SF
第4章  錬 金 術 と 太 陽 光

≪37≫ シュべール博士 = この星では大勢の人と出会ったが、シュベール博士ほど変わった人はいない。胸のプレートは≪20≫だ。長身でやせ形、長く伸びた白髪の間からギロリと目が睨む。まるで仙人のようだ。ニコリともせず、こう言った。「君がうわさの地球人かね。われわれと、そんなに変わらないんだな」

マーヤが賢人会のウラノス議長に連絡すると、折り返し手紙が届いた。すべて無線で用が足りるこの国では、とても珍しいことだという。開けてみると「シュベール博士と会いなさい」と書いてある。この島の南端に突き出た半島にある、エネルギー研究所の所長だそうだ。紹介状も同封されていた。

紹介状を一瞥すると、そのシュベール博士はへの字に曲げた口を開き、低い声で語り始めた。
「新金属ダーストニウムのことを教えてやってほしい、と書いてある。ウラノスさんが言うんだから仕方ないが、本当は教えたくないんだ。なにしろ最高の国家機密だからね。まあ、いい。何が知りたいんだ」

――少量のダーストニウムを混ぜると、鉄や金やニッケルなどの金属が簡単に融合する。そうして出来た合金は、強度が格段に増したり、強い磁性を帯びると聞きました。その新しい合金は何に使うのでしょう。
「うむ。使い道は秘密でも何でもない。君はここへ来るのに、高速道路に乗ってきただろう。その路面には、ダーストニウム合金で作った細い線を内蔵した強化ガラス板が敷き詰められているんじゃ。何のためだか、判るかね」

――もしかして、太陽光を集めて発電しているんじゃないですか。
「おう、なかなか勘がいいね。その通りだ。高速道路は延べ5万キロにも達するから、これだけで必要な電力は十分に賄える。雨はできるだけ夜のうちに降らせるようにしているから、昼間はたいてい発電できるんじゃ。次の質問は?」

――ほかにも何か利用しているんですか?
「ああ、沢山あるよ。その高速道路の中心部には、鉄に新合金を混ぜたレールが敷いてある。その磁力で車をほぼ浮かしているから、車は小さなモーターでも高速で走れる。鉄道の時代に完成していたリニアの技術を使っているんだ。この磁力の力で、車は絶対に軌道から外れない。前後左右の車と衝突することもない」

金属精錬所のロボット所長が「ダーストニウムの発明で、エネルギー供給と交通手段が革命的に変わった」と言ったのは、こういうことだったんだ。

――でも、なぜそれが国家機密なんですか?

こう尋ねると、シュベール博士は背筋を伸ばして、ぼくを睨みつけた。

                            (続きは来週日曜日)

新次元・SF経済小説 【 プ レ ー ト 】

2018-06-10 08:21:25 | SF
第4章  錬 金 術 と 太 陽 光

≪36≫ 国家機密 = また1ブロック先のレストランに来ている。落ち着いた間接照明で、高級感と居酒屋的な気安さが同居している住民の集会所だ。いつかマーヤに名前を尋ねたら「満足」という意味だという。人々は人生に満足しているからここへ来るのか、していないから来るのか。よく解らない。

よく一緒になるSさんとMさんの夫婦が、今夜も酒を飲んでいる。そこで隣に座ってもいいかと聞いたら、4人とも手を挙げて歓迎してくれた。断わっておくが、ダーストン語で言ったわけではない。身振り手振りで、そう伝えたのだ。ダーストンの言葉は難しくてとても覚えられないが、そのくらいのことは出来るようになった。

しかし考えてみると、日本に宇宙人が迷い込んだらどうだろう。こんなに打ち解けて歓迎するだろうか。本当にダーストン人は優しくて寛容でもある。健康な生活が保障され、犯罪や争い事もないから、大らかなのだろうか。

ピスコという発泡酒で乾杯したあと、世間話が続いた。もちろんマーヤの通訳入りである。たまたま2組の夫婦は、すべて40歳代。子どものことや教育に関する話が多い。なかで教育をロボットに任せることの是非については、意見が一致しなかった。

折をみて、ぼくが金属精錬所を見学したと言うと、みんながびっくりしたようだ。遠くからドーム型の工場を見たことはあるが、なかに入ったことはないと言う。Sさんが「あそこは国家機密の場所になっていて、一般の人は立ち入り禁止だと思うよ」と断定すると、みんなが首をタテに振った。そこで聞いてみた。

――ダーストニウムという新発見された金属を知っていますか。

「知りませんね。学校でも教わらないし、ネットで調べても出てこないでしょう。それは何ですか」

――あそこの工場長が言うには、この金属のおかげでエネルギーの供給と交通手段が革命的に変わったそうですよ。

「へえ、でも解らないなあ」「たしかにモノは何でもロボットが作っている。しかしロボットも電気は作れないだろう。電気はだれが、どこで作っているのか。いつも不思議に思っていました」

この国の人たちは、ダーストニウムのことを知らないらしい。これは今夜いちばんの収穫だ。もう少し詳しく知るためには、どうすればいいのだろう。帰り道でこう考えていると、マーヤがささやいた。
「あす一番で、賢人会のウラノス博士と連絡を取りましょう」

ぼくのマーヤは秘書としても素晴らしい。2人は一心同体の関係になってきた。

                            (続きは来週日曜日)


新次元・SF経済小説 【 プ レ ー ト 】

2018-06-03 08:14:27 | SF
第4章  錬 金 術 と 太 陽 光

≪35≫ ダーストニウム = 東京ドームに似た巨大工場の天井から見下ろした光景は、圧巻だったがグロテスクでもあった。直径が3メートルもありそうな太い金属パイプが、大蛇のようにとぐろを巻いている。そのパイプには数百本の細いパイプが突き刺さり、電線が蜘蛛の糸のように張り巡らされていた。音はほとんどしない。歩き回ったり、計器を見ているロボットたちが、小人のように見えた。ロボットのリースト所長が説明し始める。

「これが精錬所の第1工場です。この太いパイプは沖合30キロ、水深5000メートルの深海に繋がっています。そこでは定期的に海底が爆破され、砕かれた岩石や砂が、このパイプを通じて吸い上げられてくるのです。海には何百億年もかけて、あらゆる元素が溶け込み沈殿していますから、それを原料にして必要な金属類を精製します。

この第1工場では、いろいろな技術を使って金属類の種分けをしています。鉄や銅、金やプラチナという具合に。それをあそこに見える第2工場に送って、溶解して延べ棒にするわけです。ですから昔は貴重品だった金やプラチナなんかも、いくらでも生産できるのです」

いやー、びっくりした。最新鋭の錬金術だなあ。でも、これで金の家が造れることも理解できた。気を取り直して、質問をぶつける。
――ところで、いちばん向こうの第3工場では、何を造っているんでしょう。  

「本当は国家機密なんです。でも賢人会の許可がありましたから、お話ししましょう。100種類に近い金属を造っていますが、なかには使いようのないものもありました。ところが40年ほど前のこと、ある若い化学者が大発見をしたんです。それまでは捨ててしまっていた役に立たない金属の一つが、思いもよらない性質を持っていました。

ごく少量のその金属を、一定の温度と圧力の下で鉄に混ぜる。さらに銅やコバルト、レアメタルなどを混合すると、金属同士が完全に融合して新しい金属が誕生したのです。こうして出来上がった新しい合金は、不思議な力を持っていました。強度が鉄の10倍以上になり、しかも強力な磁性を帯びたのです」

――その新しい合金を、あの第3工場では造っている?  でも何に使うんですか?

「人間たちは、この新金属をダーストニウムと名付けました。実はこの金属が誕生したおかげで、この国のエネルギー供給と交通手段が革命的に変化したんですよ」

                               (続きは来週日曜日)


新次元・SF経済小説 【 プ レ ー ト 】

2018-05-27 07:21:38 | SF
第4章  錬 金 術 と 太 陽 光

≪34≫ 純金の家 = ずっと考えてきたけれども、まだ解らないことがいくつかある。その1つは、人々が望んだモノをロボットたちはすべて造れるのかという疑問だ。どんな材料でも入手できるのだろうか。食料品や家具などは、たしかに工場で生産されていた。しかし、たとえば純金の家が欲しいと言ったら・・・。

その晩、この疑問をマーヤにぶつけてみた。するとマーヤは首をかしげながら、こんな話をしてくれた。
「もう50年ぐらい前のことですが、ある人が純金の家を建てて欲しいと言ったそうです。たちまちロボットたちが純金の資材を運び込んで、金ピカの家が建ち上がりました。多くの人が見物に訪れましたが、その人は1年も経たないうちに純金の家を壊して引っ越してしまったんです。

冬になったら寒くて仕方がない。暖房を入れると、柱や壁までが熱くなってしまう。夏になったら暑くてどうしようもない。冷房を入れると、家中が凍り付く。こんな住みにくい家はない、というのが引っ越しの理由でした。話を聞いた人たちも、大笑いしたそうです。それから純金の家を注文する人は、ひとりもいません。面白い話ですが、本当にあったこと。純金の家でも造れることは確かですよ」

――へえ、ほんとかね。そんなに沢山の金をどこから手に入れるのだろう。この小さな島に、大きな金山があるとは思えないが。
「そこまでは私も知りません。どこに行けば判るのか、調べておきましょう」

その結果、この島の北側に“金属精錬所”があることが判明した。マーヤが壁に航空写真を映し出すと、海岸沿いにかなり大きなドーム状の建物が3つ並んでいる。いずれも東京ドームほどの大きさだ。ここからは例の完全自動車で1時間足らずの距離である。

数日後、ぼくとマーヤはその巨大な精錬所を訪れた。出迎えてくれたのは、リーストという名前のロボット。この精錬所の所長だという。驚いたことに、この精錬所は約100体のロボットが管理しており、人間は1人もいないのだと説明された。 

彼女の胸には≪51≫のプレート。実にキビキビしていて、見ていて気持ちがいい。
「食品工場などと違って、この工場では動くものが見えません。すべての作業が太い管のなかで、自動化されています。ですから工場の全体を見ていただくしかありません。そのため、このエレベーターで天井にまで昇ります。さあ、どうぞ」

                               (続きは来週日曜日) 


新次元・SF経済小説 【 プ レ ー ト 】

2018-05-20 07:56:18 | SF
第3章  経 済 が な い 世 界 

≪33≫ 200年後の地球 = この星で暮らし始めてから、早いもので2年が経過した。といってもダーストン星の公転周期は168日だから、地球の時間で言えばまだ1年に満たない。それでも生活にはすっかり慣れ、この国の人々ともずいぶん仲良くなった。見聞きしたことについては毎日メモを付けているが、この辺で2年間のまとめを書いておこう。そう思って、ノートに書き始めると・・・。

いつの間にかマーヤが机の前に来て、ノートを覗き込んでいる。ロボットなら何でも一瞬にして記憶できるから、ノートに書き込むなんていうことはしない。人間は面倒な作業をするものだと、あきれて見ているのだろう。そう思ったが、無視して記憶をまとめることに集中した。

1)完璧な医療技術-----どんな病気でもケガでも完全に治してしまう。だから人間が死ななくなった。人口の増え過ぎを抑えるために、憲法で「全ての国民の寿命は100歳」と定めている。あと200年もすれば、日本の医療技術もこの水準に達するかもしれない。しかし寿命を100年に決めることは、絶対にムリだろう。

2)人間的ロボットの完成-----ロボットの頭脳回路に、人間のDNAを組み込むことに成功。これによりロボットが、人間的な思考や感情を持つことになった。いま人々やロボットたちの最大の関心事は、国の執行機関である賢人会が「人間とロボットの結婚」を認めるかどうか。

3)経済が消滅-----モノの生産や輸送は、すべてロボットに委ねられている。このためコストが全くかからない。人々は欲しいモノを注文すれば、何でも無料で届けられる。だから街中には小売店が見当たらない。すべてがタダだから、通貨も必要がなくなった。人々の生活態度や生活意識も、ずいぶん変わったものになっている。

4)地球の将来像-----この国の科学・技術は、地球より少なくとも200年は進んでいる。ということは200年たてば、地球にも人間的ロボットが出現するかもしれない。だが人間的ロボットが出来なくても、機械的ロボットが進化して生産・流通の仕事をこなすようになれば、経済は消滅する可能性がある。100年後には、そうなるのではないか。そのとき地球人の生活意識は、いまのダーストン人のように変化するのだろうか。

マーヤはまだ食い入るように、ぼくのノートを見つめている。目と目が合うと、言い訳をするように「日本の文字と文章を学習しているんです。いつか役に立つと思いますから」と、つぶやいた。これが素晴らしい予言になるとは、神ならぬ身の知る由もなし。

                           (続きは来週日曜日)
          

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