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経済なんでも研究会

激動する経済を斬新な視点で斬るブログ。学生さんの就職準備に最適、若手の営業マンが読めば、周囲の人と差が付きます。

新次元・SF経済小説 【 プ レ ー ト 】

2018-08-26 07:04:43 | SF
第5章 ニッポン : 2060年代

≪47≫ 奇跡の生還 = 気が付いたとき、目に入ったのは真っ白な天井だった。どうやら眠っていたらしい。4年間も眠り続けたのに、どうしてまた眠ってしまったんだろう。宇宙船が大気圏に突入する前、マーヤが差し出した黒い丸薬。地上の重力に早く慣れるための薬だと言っていたが、睡眠薬も含まれていたに違いない。

ここは病院だ。その証拠に、女性の看護師が歩いてきた。でも残念ながら、マーヤではない。小太りのおばさん風だ。
「あら、目が覚めましたか。もう大丈夫ですよ。貴方はけさ早くに、鵠沼海岸で倒れていたんです。救急車でこの病院に運ばれてきたんですが、いろいろ検査をした結果は特に悪いところもないそうです。いま先生を呼んできますから」

それから3日間、病室には警察や航空自衛隊の幹部が次々と現われた。航空自衛隊の制服を着ていたことから、ぼくが11年前に宇宙船で飛び立った隊員だったことがすぐ判明したらしい。DNA調査も一致したという。そこで、みなさんが聞いてくることはただ一つ。
「11年もの間、どこにいたんだ。どうしていたんだ」

――判りません。全く記憶がないんです。気が付いたら、この病院にいたんです。
ウソをつくのは心許ないが、ウラノス博士との約束だから仕方がない。警察署長も自衛隊の大隊長も、首を振りながら帰るしかなかった。

それでもマスコミが嗅ぎ付けたらしい。新聞には「奇跡の生還。11年間の記憶なし」という大見出しが。テレビでは専門家と称する人が「宇宙人に捕まっていたとしか考えられません。彼らが地球に送還するとき、記憶を喪失させたのでしょう」と声高に解説していた。

1週間ほどで退院。東京の郊外にある目立たぬマンションに部屋を借りた。そこへ1通の手紙が。開けてみると活字のようにきれいな字で『もらった退職金の半分を使って、宝くじを買ってください。それから山梨県のリニア新幹線に近い場所で、大きな工場を建てられる土地を探しておいてください。こちらの準備は順調です。もうじきお会い出来ます。元気でね。摩耶』と書いてあった。
 
                      (続きは来週日曜日)

新次元・SF経済小説 【 プ レ ー ト 】

2018-08-19 08:05:41 | SF
2018-08-19-Sun CATEGORY: 政治・経済


第5章 ニッポン : 2060年代

≪46≫ 2061年12月 = まだ学生だったころ、真夏の日本アルプスを縦走したことがある。家に帰ると疲れ果てて、まる1日眠りこけた。そのときと同じ感覚で熟睡し、パッと目覚めたら可愛いマーヤの顔があった。ぼくの手首を握りながら「お早うございます。血圧も正常です」と言い、にっこり笑う。

「もう起きてください。あと1時間で地球の大気圏に突入します。すべて予定通りですから、何も心配はありません」

――えっ、もう4年も経ったということか。君はずっと起きていたの?
「あなたの寝顔を見たり、地球でやることを復習したり。バッテリーを節約するために、横になったりしていました。いろいろ話したいこともありますが、もう時間がありません。これから大事なことを申し上げますから、しっかり聞いてくださいね」

――ああ、完全に記憶は取り戻した。気分も上々だから、何でも言ってくれ。
「まず、この宇宙船は日本時間の2061年12月20日の夜明け前に、神奈川県の鵠沼海岸に着陸します。私は今後の準備やダーストン国との連絡をするため、貴方を海岸に降ろしたら、そのままUFOに向かわなければなりません」

――えっ、まさか帰っちゃうんじゃないだろうね。
「大丈夫、帰りませんよ。ただ準備に2か月ほどかかります。ですから2か月後には、貴方がどこに住んでいようと必ず見つけて伺います。その間、気を付けて元気でいてくださいね」

――淋しいけど、判ったよ。でも、どうして2061年なんだろう。行きと帰りで8年半ぐらい宇宙船に乗ったはず。ダーストン国には5年ほどいたから、いまは2063年じゃあないのかい。
「ダーストン星の公転周期は168日ですから、1年が地球の半分もないんです。だから地球の時間で言うと、貴方がダーストン国に滞在した時間は約2年半。お間違いないように。これから私たちは、地球の時間で暮らすことになるのですから。

海岸に座っていれば、すぐに救急車がやってきて、貴方を病院に運ぶはずです。病院で健康が確認されれば、貴方は自由になる。11年前に宇宙船で飛び立った航空自衛隊の隊員だということも明らかになり、マスコミが騒ぎ立てるに違いありません。ただ貴方には11年間の記憶がない。ダーストンのことは決して喋らない。これだけは肝に銘じてください」

いつの間にか、マーヤに命令されるようになっている。こちらがロボットになったような気分だ。

                            (続きは来週日曜日)

新次元・SF経済小説 【 プ レ ー ト 】

2018-08-12 08:03:12 | SF
第5章 ニッポン : 2060年代

≪45≫ 帰国へ = ぼくとマーヤを乗せた宇宙船は11月11日の早朝、この島の北端にある発射場から打ち上げられた。船内は日本製の宇宙船よりやや広く、ベッドと椅子が固定されている。ダーストン星は瞬く間に見えなくなった。もう、この星に来ることはないだろう。ちょっと悲しかった。

それにしても、いい人たちだった。みんな異星人のぼくを気持ちよく受け入れ、歓迎してくれた。マーヤに淋しくないかと聞いてみると「少しは悲しい。でも私には親兄弟がいません。それより貴方と地球に行けることの方が嬉しい」という答えが返って来た。

すぐに無重力状態になったが、立ち上がったマーヤは浮き上がらずに歩いている。不思議に思っていると、マーヤがすぐ説明した。「靴底が磁石になっているんです」

ぼくもサンダルを履いて歩いてみた。少しベタつく感じで歩きにくいが、何かにつかまらなくても移動できる。サンダルを脱ぐと体が浮き上がるので、マーヤに抱き付く。来たときとは大違いで、楽しく賑やかな宇宙旅行になった。

まるで新婚旅行のよう。あっという間に1週間が過ぎた。するとマーヤが悲しそうな顔で言った。
「そろそろ貴方には、薬を飲んで眠ってもらわなければなりません」

そう、別れの挨拶に出向いたとき、病院長のブルトン博士にこう言われたのだった。
「君がこの星に来たときは、宇宙船のなかで4年間も冷凍されていた。だが冷凍だと筋肉が固まってしまうから、地上に降りたとき重力に慣れるまでが大変だ。わが国では、薬で眠る方法を採用している。動物の冬眠と同じで、これだと睡眠中も筋肉は動いていて固まらないんだ。薬は私が調合するから、安心してもらいたい。

それから胸のプレートは、下着や服には映らないようにしておいた。服の上から見えたのでは、地球に戻ってから困るだろうからね。ああ、マーヤのプレートも同じだ。だから裸にならない限り、誰にも見られないよ」
そのとき、ぼくのプレートは≪61≫に、マーヤのは≪66≫になっていた。

ぼくはいま、来たときと同じような航空自衛隊の制服を着ている。マーヤは茶色の地味なワンピース姿だ。このまま2人で手を組んで銀座通りを歩いても、誰も何とも思わないだろう。外見だけではなく、マーヤはどこから見ても中年の日本女性に変貌した。もう日本語の読み書きも万全らしい。大化改新、徳川家康、東京オリンピックも、よく理解したという。素晴らしい。

                                (続きは来週日曜日)

新次元・SF経済小説 【 プ レ ー ト 】

2018-08-05 07:08:50 | SF
第5章 ニッポン : 2060年代

≪44≫ 結婚 = 朝からそわそわしているが、気持ちはきょうの秋空のように澄み切っている。いま、ぼくは薄黄色のローブ、隣のマーヤは薄桃色のローブに身を包み、例の完全自動車に乗っている。でも高速道路で遠くに行くわけではない。街なかを時速10キロぐらいで、ゆっくりと走っている。

道路の両側には多くの人とロボットが集まり、何か叫びながら手を振っている。この街には約1万人の人間とほぼ同数のロボットが暮らしているが、その半分以上が沿道を埋めている感じ。マーヤも興奮して言い返しているが、その意味は解らない。そう、まるで優勝したスポーツ選手の凱旋パレードのようだ。

あれから物事が、どんどん進捗した。賢人会のウラノス議長から、次々とマーヤに連絡が入る。まず地球に帰る宇宙船は11月11日に発射される。賢人会は近く「人間とロボットの結婚を正式に認める」ことになった。君たちさえよければ、その第1号として結婚しないか。9月になったらすべてを公表するから、その直後に披露のパレードをやってほしい・・・・。

この国には、宗教と呼べるものがない。昔はあったのだそうだが、いまは消滅してしまった。だから教会や寺のようなものもない。たしかに神仏の前で「健康でありますように」とか「合格しますように」と祈る必要もない社会だ。したがって結婚式もなく、新郎新婦はただ町内を巡ってお披露目するだけ。考えてみれば、親族や親しい友人だけで行う結婚式よりも、ずっとオープンで効率的かもしれない。

1時間ほどでパレードが終わると、マーヤが解説してくれた。
「みんなが喜んで興奮していました。まるで私たちが、人間とロボットの結婚に道を拓いたように受け取られたようですね。みんなが『おめでとう』『ありがとう』と祝福してくれたので、とても感激しています」

ぼくも嬉しかった。でも同時に、結婚とはなんだろうと考え込んでもいた。男性と男性、女性と女性、そして人間とロボットの結婚。大昔の人類は、子孫を残すために結婚した。だが、いまは違っている。子どもを産んでも産まなくても、結婚は結婚だ。人間の男女が結婚しても、セックスレスが少なくないという。結局、結婚は単なる一つの絆に過ぎないのだろうか。

                                (続きは来週日曜日)

新次元・SF経済小説 【 プ レ ー ト 】

2018-07-29 06:33:44 | SF
第5章 ニッポン : 2060年代

≪43≫ 絶対条件 = 「君の帰国は、これで本決まりじゃ。ただ1つだけ、絶対に守ってもらわなければならないことがある。それは地球に帰ったら、このダーストン星のことはいっさい口外しないこと。君がこの国で5年過ごしたことも、話してはならない。地球人にはダーストン国の存在を知られたくないからね。

君は例のダーストニウム合金を地球に持ち帰り、太陽光発電を各国に広める仕事を始める。しかし仮に君がこの約束を守らないときは、UFOがダーストニウムを破壊する光線を発射することになるだろう。すると地球は再び深刻なエネルギー不足に見舞われる。マーヤの神経系統にも異常をきたすから、十分に注意してもらいたい」

ウラノス博士の顔つきは引き締まり、声はいっそう低くなった。
――判りました。絶対に秘密を守ります。

「この5年間、君は記憶を喪失していたことにしてくれ。とにかく計画はわれわれが練り上げ、マーヤがそのすべてを記憶する。だから君は、マーヤの指示に従って行動してくれればいい」

あくる日から、マーヤはがぜん忙しくなった。病院に行って、日本の文字についての読み書き能力をインプットする。どこかで日本の女性に関する思考や習慣も、記憶装置に投入しているらしい。さらに科学院にも通って、ウラノス博士が言う“われわれが練り上げた計画”なるものを学んでいるようだ。

逆に、ぼくの方はやることがない。行き付けになった近所の居酒屋風集会所に、ひとりで出かけることが多くなった。顔見知りも増えたが、やはり言葉は通じない。それでも、みんなが歓迎してくれるから嬉しい。身振り手振りで、なんとか意思は通じるようになっている。特にガーシュおばあちゃんがいると、身振り手振りでも盛り上がった。

夜遅く、マーヤが帰ってきた。
――大変だね。疲れたろう。
「いいえ、ロボットは疲れません。貴方と大きな仕事が出来るので、とっても嬉しいんです。日本の女性のことも、ずいぶん判ってきました。貴方こそ、もう寝ないと」

このごろ、マーヤはぼくの隣で寝ることが多い。もちろん、ロボットだから本当に眠りはしない。でも、ぼくの方はマーヤの手を握っていると、深い眠りに落ちる。

                           (続きは来週日曜日)


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