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経済なんでも研究会

激動する経済を斬新な視点で斬るブログ。学生さんの就職準備に最適、若手の営業マンが読めば、周囲の人と差が付きます。

新次元・SF経済小説 【 プ レ ー ト 】

2018-09-30 08:08:54 | SF
第5章 ニッポン : 2060年代

≪52≫ 救世主 = 地球は人間が自ら生み出した氷河期を抜け出し、かつての春夏秋冬を取り戻していた。しかし人々を取り巻く政治的・経済的な環境は、暗くて重苦しかった。アメリカと中国が覇権を競い合い、国連は機能を停止した状態。核兵器のおかげで軍事衝突こそ免れているが、2つの大国は重要な資源の獲得に血道を上げている。

その結果、金属や食料などの価格が高騰。企業も個人も、物価高に悩まされている。特に原油の国際価格は1バレル=250ドルにまで上昇した。買い漁りに加えて、原油そのものの埋蔵量が底をついてきたためである。エネルギーを輸入に依存する日本は、とりわけ苦しい立場に置かれていた。

2065年、日本の人口は8800万人にまで減少していた。経済はずっとマイナス成長とインフレの継続。原発は周辺住民の反対で建設できず、再生エネルギーは高コストで普及しない。結局は原油頼りだが、人々は電気やガス、それにガソリンの節約を強制される生活を続けていた。国会では、相変わらず不毛の議論ばかり。多くの国民は「もう不満を言っても仕方がない」と、諦めムードが支配的になっていた。

ぼくとマーヤの画期的な太陽光発電装置が世に出たのは、こんなときである。JRリニア新幹線会社は業績が劇的に改善し、世間を驚かせた。全国の高速道路会社や在来型の新幹線会社から、マヤ路床の注文が殺到。JRリニア社は、工場の拡張工事に追われていた。

新型の路床が普及したことの経済的な効果は、想像を絶するほど大きかった。日本の電力消費量は2067年に1億5000万キロ・ワット時に達していたが、その8割を国内の太陽光発電で賄うことが出来るようになった。貿易収支は急速に改善し、電気料金も上がらなくなった。このため企業は輸出競争力を回復、個人も安心して消費を増やせるようになった。

ぼくもマーヤも忙しく働いていた。日本経済が日に日に立ち直り、人々の笑顔が増えて行く。それが何よりの励みになった。でもマーヤはこのところ、少し太ったように見えてならない。率直に聞いてみると・・・
「中年太りですよ。私はもう人間なんですから」と言って、ケラケラと笑った。

だが数日後、ダーストン星からUFO経由で悲報が届いた。あのウラノス博士が亡くなったという。考えてみれば、いろいろ教えてもらい、地球の救世主となるような仕事も頂いた。満月を眺めながら、マーヤと一緒に泣いたあの夜のことは忘れられない。

                             (続きは来週日曜日)

新次元・SF経済小説 【 プ レ ー ト 】

2018-09-23 07:56:31 | SF
第5章 ニッポン : 2060年代

≪51≫ 無償供与 = 机の向こう側にずらりと並んだJRリニア社の重役たちは、びっくり仰天。しばらくは開いた口が塞がらなかった。真ん中に座っていた副社長が「それでいいのですか」と、何度も何度も念を押した。

JR側の技術者がマヤ社製の新しい路床を入念にテストした結果、その優れた性能が完全に確認された。このためJRリニア社は、新製品の購入を決定。その最終的な契約交渉の席で、ぼくとマーヤが「ダーストニウムと製造技術はタダで差し上げますから、製品はそちらでお造りください」と言ったときのことだ。JR側は、おそらく10億円単位の交渉になると考えていたに違いない。

ただし『他の企業から購入の希望があったときは、できるだけ安い値段で売れるようにする』という条件だけは付けておいた。

JR側の対応はリニア並みに速かった。さっそく広島県のサッカー場ほどもある広大な敷地に、巨大な製造工場を建設した。リニア新幹線は東京―福岡間を2時間半で結んでいたが、東京―大阪間438キロの75%はトンネルで発電効率が悪い。そこで大阪―福岡間550キロの大改修工事から始めることにしたらしい。

試算によると、大阪―福岡間の工事が完成すると、JRリニア社はその太陽光発電ですべての消費電力を賄える。そのあと東京―大阪間を改良すれば、その分は売電に回せることになるはずだ。

この計画が公表されると、世間は大騒ぎになった。新聞やテレビは「JRリニア社が起死回生の賭け」と解説。また「新技術の中核は、奇跡の生還を果たしたあの宇宙飛行士が発明したものらしい」とか「宇宙人から教わった技術ではないか」など、連日のように大見出しの記事が飛びかった。

だが、ぼく自身はマスコミの取材を完全に拒否し続けた。下手に対応すると、ダーストン星の秘密が漏れる心配があったからである。その代り、マヤ工業の試験的な工場は一般に開放した。このため山梨県の工場には見学者が絶えず、専属の案内人を3人も雇ったほどである。

やがて高速道路会社や鉄道。さらには空港などからも、マヤ式の太陽光発電装置を買いたいという申し込みが殺到した。これを受けてJRリニアは山梨工場の建設を前倒し。これらの需要にも応じることとなった。

そして海外からも引き合いが来る。JRリニア社はぼくたちとの契約に従って、アメリカや中国、ヨーロッパや中東にも子会社を設立する計画を建て始めた。

マーヤが帰ってきてから、わずか3年半。2065年秋のことである。

                            (続きは来週日曜日)

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新次元・SF経済小説 【 プ レ ー ト 】

2018-09-16 06:43:59 | SF
第5章 ニッポン : 2060年代

≪50≫ マヤ工業 = マーヤが帰ってきたとたん、ぼくは急に忙しくなった。市役所に結婚届を出し、宝くじを買うため都内にもたびたび出かけた。そして会社の設立と工場の建設。会社名は前々から「マヤ工業」に決めていた。

リニア新幹線に近い山梨県の土地は、予想外に安い値段で手に入れることが出来た。不況と人口減少が、地価を下落させていたのだろう。この土地に、全長80メートルほどの細長い工場を2棟建てた。設計図は細部に至るまでマーヤの記憶から取り出されて印刷されている。だから、この点であれこれ気を遣うことはなかった。

工場が3か月ほどで完成すると、こんどは機械の搬入が始まる。小型の電気炉や金属加工用の特殊な機械など。富士山がよく見える秋空のもとで、いよいよ商品の生産が始まった。生産工程はすべて自動化されているから、従業員は1人もいない。

手前の工場で製造されたのは、長さ50メートルの鉄道用レール。向こう側の工場では、特殊ガラスの板が何枚も生産された。それを工場と工場の間に造ったコンクリートの床の上に運んで並べる。レールの両側に、ガラス板がきちんと敷き詰められた。長さ50メートル、幅3メートルの新しい路床である。

紅葉の山肌を眺めながら、ぼくとマーヤは近くにあるリニア新幹線の車両基地を訪ねていた。所長さんは、JRリニア新幹線会社の専務である。企画書を見せて説明すると、全く半信半疑の様子。それでも技術者を連れて、新製品を見にきてくれることになった。

所長さんが眉に唾をつけたのも、当然だったろう。企画書には「リニアの運転に関わる消費電力を20%減少。東京―福岡間を新しい路床に取り換えれば、JRリニアが使う電力の2倍以上を太陽光で発電できる。余った電力は売電が可能」などと書き連ねてあったのだ。

JRリニア会社は、不況による利用客の減少と、原油価格の上昇による電力料金の高騰で、苦しい経営状態に置かれていた。そのため藁をもつかむ思いで、わがマヤ社の新製品に飛びついたのだろう。さっそく、専務が技術者たちを引き連れて何度もやってきた。その結果、新しい路床の驚くべき性能が明らかになると、こんどは東京から副社長までがお出ましになった。

ひやひやしたのは、こうした人たちとの会合で、マーヤが瞬間的に回答してしまうこと。複雑な数字でも計算でも、間髪を入れずに答えてしまう。

夜になって「マーヤ、もう少し人間的になってくれないと危ないよ」と、頼み込んだものである。

                             (続きは来週日曜日)        

新次元・SF経済小説 【 プ レ ー ト 】

2018-09-09 07:36:40 | SF
第5章 ニッポン : 2060年代

≪49≫ 再会 = 2062年3月1日の夜10時すぎ、ぼくは駅から家へ向かって歩いていた。まだ肌寒いが、おぼろ月夜。街なかを抜け小さな公園に差しかかったとき、後ろからハイヒールの足音が迫ってきた。直感的にマーヤではないかと思ったが、振り返るわけにもいかない。

追い付いてきた女性が、低い声で囁いた。「ただいま」
ああ、やっぱりマーヤだ。幸い人通りもなかったので、二人はそのまま抱き合った。

マーヤは薄いベージュ色のツーピースを着て、中型の鞄を手にしていた。どこからみても、30代の主婦が旅行から帰ってきたように見える。声もロボット特有の機械音が消えて、おっとりした奥様風の調子になっている。

その晩は、明け方まで寝られなかった。私たちが乗ってきた宇宙船は、マーヤを乗せたまま音もなくUFOに吸い上げられた。マーヤはそのままUFOにとどまり、ずっとダーストン国と連絡を取り合っていたのだという。そして、あのダーストニウム合金も、UFOにはもう届いているそうだ。

こちらは宝くじを買ったら、なんと10億円が当たった話をした。何か細工をしたのかい? と聞いても、マーヤは「うふふ」と笑うだけだった。

お互いの報告が済んだとき、マーヤが鞄から一通の書類を取り出した。見るとマーヤの戸籍謄本である。市役所に結婚届を出すためだという。どうやって手に入れたのか疑問に思ったが、追及はしなかった。

その戸籍謄本には『二階堂 摩耶』と書いてあった。そう、ぼくの名前は二階堂純一だ。ここでマーヤは思いがけないことを、白状した。
「ダーストン語で、二階堂というのは“大ウソつき”という意味です。だから私が貴方の名前を知ったとき、これはまずいと直感しました。そこで貴方がよく口にした“ぼく”という言い方を名前にしてしまいました。ダーストン語では“豊か”という意味で、あの国では誰もが貴方の名前は“ぼく”だと思っているんです」

へえっ、そうだったのか。でもその機転のおかげで、ぼくは歓迎されたのかもしれない。マーヤ、ありがとう。
いまの日本では奇跡的に生還した宇宙飛行士として、ぼくの名前は全国に知れ渡っている。しかし宇宙での5年間は、記憶喪失したまま。やっぱり、ぼくは大ウソつきなのかもしれない。

                              (続きは来週日曜日)

新次元・SF経済小説 【 プ レ ー ト 】

2018-09-02 07:06:56 | SF
≪48≫ 二流国 = 地球はすっかり昔の姿を取り戻していた。10年前のあのどす黒い雲は、まったくない。2月の日本はまだ寒いが、青空の下で桜の芽が確実にふくらんできている。だが人々は、どうして上空のメタンガスが急に取り除かれたのか。だれも知らない。

ところが街を歩いてみると、どうにも活気がない。最大の理由は人口の減少だ。日本の総人口はすでに1億人を割り込んでいる。しかも4人に1人は75歳以上という超高齢社会。年金や医療費が増え続け、それを支えるために税金や保険料が加速度的に増加している。だから働く若い人の生活水準は、なかなか上がらない。

エネルギーの問題も、日本経済を苦しめていた。原発は10基ほどしか稼働できず、再生可能エネルギーの普及も進まない。結局は輸入に頼っているが、原油やLNG(液化天然ガス)の価格は新興国の需要増加で高騰。日本はエネルギーの輸入代金を通じて国内の購買力が海外に流出する構造から、いぜん抜け出せないでいる。

少子化が進んで、保育所や幼稚園、それに小学校から大学に至るまで定員割れ。リニア新幹線が東京と福岡を2時間あまりで結んでいるが、満員にはならない。だからリニアを、ほかに走らせる計画もない。GDP成長率はマイナスが続き、日本は過去に蓄積した海外の資産を売り食いしている状態だ。

残念ながら日本は、この10年ほどで二流国になってしまったようだ。しかし政府や国民の多くは、そんな現状を仕方がないと諦めているようにみえる。たしかに10年前は存亡の危機に瀕していたのだから、それに比べればマシだと考えているのかもしれない。国会も相変わらず揚げ足取りの議論に終始し、国民が活力を取り戻すような政策は思いつかない。

そんな観察をしながら、このとこと街を歩いては宝くじを買いあさっている。実は自衛隊から、退職金と慰労金という形で500万円を貰った。その半分を使って宝くじを買えというマーヤの指示に従っているのだが、これがなかなか大変だ。でも、おかげで銀座や新宿など繁華街の様子も、ばっちり知ることができた。

それにしても、いまマーヤはどこにいるのだろう。まだUFOにいるのか、それとも地上に降りてきているのか。手紙には「2か月経ったら、お会いしましょう」と書いてあった。そろそろ2か月になるが、まるで音沙汰なし。ほんとうに戻ってくるのだろうか。少々心配になり始めた。

                               (続きは来週日曜日)

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