1月30日(土)若林 顕(Pf)
サントリーホール
【曲目】
1.ラフマニノフ/コレルリの主題による変奏曲 Op.42
2.ショパン/練習曲集 Op.25
3.ベートーヴェン/ピアノ・ソナタ第29番 変ロ長調 Op.106「ハンマークラヴィーア」
【アンコール】
1.チャイコフスキー/くるみ割り人形~「こんぺいとうの踊り」
2.リスト/愛の夢 第3番
3.ショパン/革命エチュード
4.ムーンリバー
去年の6月、若林さんのサロンコンサートをたまたま聴く機会を得て、このピアニストの演奏にもっと向き合いたいと思っていたところ、サントリーホールでのソロリサイタルを聴いた。硬派の大曲が3作品並び、若林さんの意気込みが伝わってくる。
どの曲も作品自体が重量級であるが、若林は作品が持つパワーをダイナミックに引き出し、ストレートに伝えてきた。プログラム全般に言えることだが、重心が低く、太い根を張り、青々と葉を繁らせた巨木の風格とパワーを感じる。
この演奏から、随分昔、ハンス・リヒター=ハーザーというドイツのピアニストがいたことを思い出した。このピアニストは、重厚さやダイナミズムには人一倍長けていたが、一度リサイタルを聴いたときの古い記憶では、あまりの重々しさに息が詰まりそうになった。一方若林は、リヒター=ハーザーと共通する重厚さを持つが、行き場のない重苦しさではなく、オーケストラの響きのようなダイナミックな広がりで会場の空気を震わせ、聴き手の心に快く共振する。そこには常に熱い吐息と共に、真っ直ぐなひたむきさがある。そして、常に作品全体を俯瞰し、大きな流れ、大きな塊として捉えるという意味でのダイナミズムも備わっている。
1つ1つのバリエーションを太く大きな束でまとめたラフマニノフ、そして12曲から成るエチュードを「作品25」という一つの大曲として印象づけた圧巻のショパン。これは、本流のスピリッツを見失うことなく、常に全体の「顔」を意識していることの証であろう。
今夜取り上げた3作品は作曲家の個性も時代様式も大きく異なるが、若林のアプローチはそうした違いを越えて、それぞれの作品に共通する音楽の根源的なものを表現しようとする姿勢が窺えた。
そうしたアプローチが、後半の「ハンマークラヴィーア」で更なる大輪を咲かせた。冒頭のファンファーレ的なモチーフの硬質で密度が濃い輝かしい響きが、全体の演奏を象徴していた。若林は小細工をしたり、奇を衒うことなく、正々堂々と真正面からこの怪物のような難曲に挑み、道を切り開いて行った。
長大な第3楽章では、連綿と語り繋がれて迷路に入りそうな旋律線を、大河の流れのように泰然自若に捉え、向かうべき目的地を見失うことがなく、ベートーヴェンの強い意思が貫かれていることが伝わってきた。
フィナーレのフーガに入るまでの瞑想的な場面では神々しいほどに崇高な世界を表現し、いよいよフーガに突入するや、ともすれば空中分解を起こしかねない複雑さをもろともせず、揺るぎのない強く太い線で貫かれた堅牢な構築物の姿を提示し、高みへと登り詰めて行った。まさに王道を行くベートーヴェン演奏に会場は大きな喝采とブラボーのかけ声に包まれた。
「ハンマークラヴィーア」の後、しかもこんなに凄い演奏の後にアンコールを次々とやる若林さんのタフさにもビックリ。最後の「ムーンリバー」では、思いっきりムーディーな歌とハーモニーを聴かせ、それまでの演奏とはまた違った魅力で聴衆のハートをくすぐった。
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サントリーホール
【曲目】
1.ラフマニノフ/コレルリの主題による変奏曲 Op.42
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3.ベートーヴェン/ピアノ・ソナタ第29番 変ロ長調 Op.106「ハンマークラヴィーア」
【アンコール】
1.チャイコフスキー/くるみ割り人形~「こんぺいとうの踊り」
2.リスト/愛の夢 第3番
3.ショパン/革命エチュード
4.ムーンリバー
去年の6月、若林さんのサロンコンサートをたまたま聴く機会を得て、このピアニストの演奏にもっと向き合いたいと思っていたところ、サントリーホールでのソロリサイタルを聴いた。硬派の大曲が3作品並び、若林さんの意気込みが伝わってくる。
どの曲も作品自体が重量級であるが、若林は作品が持つパワーをダイナミックに引き出し、ストレートに伝えてきた。プログラム全般に言えることだが、重心が低く、太い根を張り、青々と葉を繁らせた巨木の風格とパワーを感じる。
この演奏から、随分昔、ハンス・リヒター=ハーザーというドイツのピアニストがいたことを思い出した。このピアニストは、重厚さやダイナミズムには人一倍長けていたが、一度リサイタルを聴いたときの古い記憶では、あまりの重々しさに息が詰まりそうになった。一方若林は、リヒター=ハーザーと共通する重厚さを持つが、行き場のない重苦しさではなく、オーケストラの響きのようなダイナミックな広がりで会場の空気を震わせ、聴き手の心に快く共振する。そこには常に熱い吐息と共に、真っ直ぐなひたむきさがある。そして、常に作品全体を俯瞰し、大きな流れ、大きな塊として捉えるという意味でのダイナミズムも備わっている。
1つ1つのバリエーションを太く大きな束でまとめたラフマニノフ、そして12曲から成るエチュードを「作品25」という一つの大曲として印象づけた圧巻のショパン。これは、本流のスピリッツを見失うことなく、常に全体の「顔」を意識していることの証であろう。
今夜取り上げた3作品は作曲家の個性も時代様式も大きく異なるが、若林のアプローチはそうした違いを越えて、それぞれの作品に共通する音楽の根源的なものを表現しようとする姿勢が窺えた。
そうしたアプローチが、後半の「ハンマークラヴィーア」で更なる大輪を咲かせた。冒頭のファンファーレ的なモチーフの硬質で密度が濃い輝かしい響きが、全体の演奏を象徴していた。若林は小細工をしたり、奇を衒うことなく、正々堂々と真正面からこの怪物のような難曲に挑み、道を切り開いて行った。
長大な第3楽章では、連綿と語り繋がれて迷路に入りそうな旋律線を、大河の流れのように泰然自若に捉え、向かうべき目的地を見失うことがなく、ベートーヴェンの強い意思が貫かれていることが伝わってきた。
フィナーレのフーガに入るまでの瞑想的な場面では神々しいほどに崇高な世界を表現し、いよいよフーガに突入するや、ともすれば空中分解を起こしかねない複雑さをもろともせず、揺るぎのない強く太い線で貫かれた堅牢な構築物の姿を提示し、高みへと登り詰めて行った。まさに王道を行くベートーヴェン演奏に会場は大きな喝采とブラボーのかけ声に包まれた。
「ハンマークラヴィーア」の後、しかもこんなに凄い演奏の後にアンコールを次々とやる若林さんのタフさにもビックリ。最後の「ムーンリバー」では、思いっきりムーディーな歌とハーモニーを聴かせ、それまでの演奏とはまた違った魅力で聴衆のハートをくすぐった。
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