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蓮の会ホールオペラ「椿姫」

2013年05月18日 | pocknのコンサート感想録2013
5月18日(土)蓮の会ホールオペラ第7回公演
川口総合文化センター リリア 音楽ホール

【演目】
ヴェルディ/「椿姫」全3幕


【配役】
ヴィオレッタ:坂野多巳予/アルフレード:小林 浩/ジェルモン:旭 潔/フローラ:鈴木千賀子/アンニーナ:京島麗香/ガストン:大石将史/ドゥフォール&医者:笹倉直也/マルケーゼ:小林和浩/フローラの友人:森田沙矢佳/バレリーナ:笠原由希子
ピアノ:大賀美子

今年の「蓮の会ホールオペラ」は、アニヴァーサリーイヤーを迎えたヴェルディの名作「椿姫」。このオペラシリーズは、評判が評判を呼んで年々お客が増え続け、今夜も会場いっぱいの聴衆のなか開演した。短い序奏に続いて華やいだ宴の様子を伝えるオーケストラパートは、いつものように大賀さんのピアノソロ。幕が上がる前の「どんな舞台になるだろう」という、ちょっぴり緊張した気分が、宴の音楽に入ると一気にワクワクした気分に導かれる。大賀さんのピアノはいつもながら、こうした劇場的な気分をリアルに伝えてくる。

役の衣装を身に纏った登場人物の歌手たちが、ちょっとした小道具だけのシンプルなステージいっぱいに熱唱・熱演を繰り広げた。このオペラには、聴かせどころとなる名アリアがいくつも散りばめられているほか、複数の歌手によるアンサンブルが重要な場面に置かれている。旭さんや小林さんら、このシリーズを長く支える歌手陣に、坂野さんなど、ホールオペラ初登場の歌手も加わったキャストの面々は、それぞれのソロだけでなくアンサンブルでも、登場人物たちの人間関係や心模様を色濃く表現し、緊迫感を伴ってこのオペラの劇的な展開を鮮やかに伝えてきた。

そのキャストのなかでも一際光輝いていたのが、タイトルロールのヴィオレッタを歌った坂野多巳予さん。ホールオペラは初登場だが、以前、本庄市で行われたコンサートで「蝶々夫人」から「手紙の二重唱」を聴いたたことがあり、この時のお蝶さんも、気高さと緊迫感を伝えて素晴らしかった。今回は、この全幕公演でほぼ出ずっぱりで数々の名アリアやアンサンブルをこなさなければならないヴィオレッタを、抜群の存在感で最後までものの見事に歌い、演じ切り、このオペラの正に「花」を印象づけた。清楚で艶がある美声で歌う、細やかな表情の歌唱からは、男の扱いに慣れ、斜に構えた姿よりも、アルフレードを一途に想い、胸の奥に熱くて強い芯が通った気高い女性の姿を伝えた。

「椿姫」で重要な役割を担うもう2人の登場人物のうち、ジェルモン役はもちろん旭さん。旭さんならではの貫録や迫力だけでなく、温かで寛大な心も伝わる名唱で、いつもながら抜群の存在感を示した。アルフレードには、やはりこのホールオペラで欠かすことのできない存在の小林さん。一見ひょうひょうとしていながら、聴かせどころのポイントをしっかりと押さえ、幕が進むほどに頼もしさを増して行った。他の歌手陣も、出番は多くはなくてもソロも立派にこなし、充実したアンサンブルの一翼を担っていた。また、この公演では2幕の第2場でバレエ(笠原さん)が挿入され、華やいだ気分を盛り上げた。

このように、このオペラでは様々な要素が総合されて劇的な雰囲気を盛り上げ、観る者の気持ちを高めて行くが、全幕に渡って常に演奏し続け、歌手達を束ねる指揮者の役割まで果たしていたのが、最初にも触れたピアニストの大賀さん。各場面の細やかな表情からオペラ全体の大きな流れまで全てを的確に捉え、背景作りを極め、劇的な効果を最大限に引き出していた。しなやかな腕の動きによる入魂の打鍵が、その姿と同様の素晴らしい音として会場に鳴り響くのを聴くと、視覚も聴覚も刺激されてオペラの世界に没入させられる。このホールオペラの成功は、大賀さんの存在なくしては考えられない。今夜の公演で、それを益々実感した。


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