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足繁く通う演奏会の感想等でクラシック音楽を追求/面白すぎる台湾/イタリアやドイツの旅日記/「ドイツ留学相談室」併設

西東詩集 ~風が織りなす、ふたりの秘密~

2022年09月13日 | pocknのコンサート感想録2022
9月6日(火)西東詩集
~風が織りなす、ふたりの秘密~
ドイツ文化会館OAGホール

【曲目】
♪ シューマン/愛の歌
♪ ブラームス/便り
♪ ブラームス/君がほんの一瞬でも微笑んでくれたら
♪ ブラームス/我が女王よ、貴女はなんと
(朗読)ゲーテ/『西東詩集 』ズライカの巻~おもかげ
♪ シューマン/ズライカの歌 Op.25-9
♪ メンデルスゾーン/ああ、あなたの濡れた翼に Op.34-4
♪ メンデルスゾーン/このそよぎは Op.57-3
♪ シューベルト/ズライカⅠ
♪ シューベルト/ズライカⅡ
ヴォルフの『ゲーテの詩による歌曲集』より
♪ 「きっかけが泥棒を生む」と言いますが
♪ 貴女の愛に包まれていると
♪ ユーフラテス川に船を浮かべていると
♪ その夢の解釈は私に任せてください
♪ 私にためらいはありません
♪ 愛する人、ターバンを巻いてください
♪ 昼の光から逃れても
♪ 私が貴女のことを考えていると
♪ 愛しい巻き髪よ、私を束縛しておくれ
♪ 貴方を失うのは嫌!

【演奏】
MS:吉成文乃/Bar:駒田敏章(ゲスト出演)/Pf:古野七央佳


これまでも折に触れて興味深く、しかも扱われることが少ないテーマを掲げ、演出も交えて明確なコンセプトによる演奏会を作り上げてきたメゾソプラノの吉成文乃さんが今回選んだテーマは「西東詩集」。ゲーテが東洋への憧れに端を発して晩年に編んだこの詩集から「ズライカの巻」を中心に、老年ゲーテと、恋仲だった若きマリアンネとの心の交感を、歌と朗読、洋館でのロケも行って制作したドラマ仕立ての本格的な動画や、解説のスライド投影など多面的なアプローチで、全体を完成度の高い一つの作品として仕上げた演奏会となった。吉成さんのアイディアや企画力、それを実現する熱意と実行力をまずは心から称賛したい。

そして演奏も素晴らしかった。歌はズライカ役とハーテム役をそれぞれ吉成さんとゲスト出演の駒田さんが担当。吉成さんは磨きのかかった存在感のある声で、見つめた一点に神経を集中させ、そこに熱い歌を注ぎ込んだ。そこには恋焦がれる熱い思いがこもり、詩の主人公に乗り移ったようなひたむきで純真で真剣な愛を伝えた。自ら選曲して、全ての原詩に対訳を付けたパンフレットを用意しただけでなく、訳詩を歌に合わせてスライド投影するという言葉に対する吉成さんの思いやこだわりが歌によって伝えられた。

駒田さんの歌では、瑞々しく朗々とした美声による表現力の広さと深さに引き込まれた。一つ一つの詩の言葉の意味を的確に捉え、それが歌に乗せられる。ドイツ語への研ぎ澄まされた感覚による美しい発音、圧倒的な声量と繊細で甘い声色を使い分け、言葉と歌を巧みに結びつけて囁きかけ、威圧し、抱擁する。その役者ぶりも見事に堂に入っていた。リート歌手の逸材と出会った気分。またじっくり聴きたい。

2人の歌手の全ての歌で共演した古野さんのピアノは、歌手と同じものを感じて歌い、夢見て、溢れる詩情を表現した。ウォルフでの取りつかれたような刹那的な表現では冴えた感覚がビンビンと伝わってきて、共演者と共に音楽を作り上げる姿勢が感じられた。

吉成さんによる最後のズライカの歌が終り終演を迎えたとき、得も言われぬ感動がこみ上げてトリハダが立った。道徳的な見地はさておき、老境に入っても若くて美しい存在を追い求めるゲーテのひたむきな情熱がリアルに迫ってきたためだろう。今回の吉成さんの企画は、これまでで一番の成功例と云える。次への期待が高まった。

「僕はアーノルド、宇宙とつながった男」 吉成文乃(MS)/岩下真麻(Pf) 2021.3.15 トーキョーコンサーツ・ラボ
吉成文乃(MS)/正住真智子(Pf):シューベルト「冬の旅」 2019.5.26 内田邸音楽室
東京藝術大学大学院音楽科学位審査会公開演奏会より 2019.1.15 藝大奏楽堂
Gebet ~祈り~(4人の歌手による祈りの歌) 2018.2.3 横浜海岸教会
(駒田敏章出演)明日を担う音楽家による特別演奏会 2014.3.13 東京オペラシティ
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