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N響 2018年6月B定期(尾高忠明 指揮)

2018年06月23日 | pocknのコンサート感想録2018
6月21日(木)尾高忠明 指揮 NHK交響楽団
《2018年6月Bプロ》 サントリーホール


【曲目】
1.カバレフスキー/チェロ協奏曲第2番ハ短調 Op.77
 【アンコール】
 伝ナレクの聖グレゴリオ/ハヴン・ハヴン
 Vc:マリオ・ブルネロ
2.チャイコフスキー/交響曲第5番ホ短調 Op.64

N響の6月B定期を指揮するのは尾高忠明。他のプログラムはアシュケナージが振るので、尾高が唯一担当するプログラムだ。尾高が指揮する演奏会は特に近年好印象なので今夜も期待はしていたが、それを大きく上回る名演を聴かせてくれた。

前半はチェロのブルネロを迎えて、初めて聴くカバレフスキーのコンチェルト。解説では、ソビエト体制下のプロパガンダ的要素を含む時代遅れの感ありの作品ながら、捨てたもんじゃない魅力もある、といった書き方たったが、これが大変充実した名曲で、最初から最後まで聞き入ってしまった。ほの暗い情感を湛え、時に熱く訴えかけ、また時にロマンチックに歌を紡ぎ、厳しさと抒情性が格調高く綴られている。

チェロのブルネロはこの音楽にぴったりの熱っぽさを伴って、深く粘っこく、切々と、そしてエレガントに歌いかけてきた。ふくよかで温かみのある音色には色香が具わり、心のヒダの隅々まで思いが行き届く。2回登場するカデンツァは、どちらも孤高の境地を表現するモノローグで、静かな情熱に支配されていた。尾高/N響は、こんなブルネロのチェロの表現にぴったりの温かな響きと、滑らかな語り口でチェロを盛り立てた。テクスチュアの起伏を丁寧に編んで行く尾高のアプローチは、後半のチャイ5の名演を予感させた。

そしてチャイ5。これは「超」をつけたい名演。演奏を一言で表現すると、「筋金入りのロマンティシズム」、或いは「ロマンティシズムの真骨頂」。「ロマンチック」という言葉には、甘ったるさやセンチメンタルなイメージもあるが、そういうものとは異なる、本物の「ロマンチック」。歌、語りかけ、ドラマ性、響き、息遣い、熱気… 曲の最初から最後まで全てが美しく、栄養をたっぷりと湛え、極上の色彩と香りを放っていた。オケの響きが、温かくて深く、森の香りのような芳香まで漂わせていた。そして、盛り上がりの場面での熱いドラマは、名画の感動シーンのような深みがある。究極はフィナーレ。金管アンサンブルの美しさと言ったら!怒鳴らず叫ばず、それでいてホールを包み込む存在感。終演に向けて動悸とトリハダが収まらなかった。

尾高さんの音楽作りは繊細で緻密、僅かなアゴーギクの変化、息遣いやメリハリのコントロールが、微に入り細に渡って行き届き、それらが有機的に繋がって大きな感動へ導かれて行った。それに応えたN響の技とハートも感嘆ものだ。その代表として、2楽章でまさに「ロマンティシズムの真骨頂」を聴かせたホルンの今井さんに、尾高さんが花束を届けるシーンも良かった。この花束は、尾高さんとN響の全員に渡したい。

尾高は派手な話題性はないが、2004年に代役でN響定期に登場してブラ1をやった究極の名演は今でも忘れられないし、2015年6月定期で聴いたラフマニノフの1番も素晴らしかった。こんな身近に、こんな素晴らしい指揮者がいることを、もっとちゃんと認識すべきだと思う。今夜だって、もっとカリスマ性のある指揮者が同じ演奏をしたら、ブラボーが出まくるはず。でも「ブラボー」なんて所詮気分屋が叫ぶものなのかも知れない。今夜の拍手はいつになく熱くて盛大で、いつまでも続いた。

4月からのN響は良い演奏が続いている。実は、今シーズンで長年の会員をやめようと本気で考えていたのだが、やめなくて良かった!

尾高/N響 ラフマニノフ:交響曲第1番他 2015.6.19 サントリーホール
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