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松井亜希 ソプラノリサイタル

2018年03月13日 | pocknのコンサート感想録2018
3月10日(土)松井亜希 ソプラノリサイタル
 ~優しき歌~
ソフィアザール・サロン(駒込)

【曲目】
♪ メンデルスゾーン/歌の翼に
♪ メンデルスゾーン/春の歌
♪ ドビュッシー/《雅やかな宴 第一集》
♪ アイアランド/春の悲しみ
♪ ベルク/《7つの初期の歌》
♪ ♪ ♪
♪ ブリテン/乳母の歌
♪ フォーレ/5つの歌曲集《ヴェネツィア》
♪ アーン/リデ
♪ アーン/リラに来るうぐいす
♪ バッハ/カンタータ第147番~「主よ、人の望みの喜びよ」
♪ 中田善直/《こどものための8つの歌》
♪ 宮沢賢治/林光編/星めぐりの歌

【演奏】
S:松井亜希/Pf:山田剛史


ソプラノの松井亜希さんは、藝大バッハカンタータクラブでのピュアで瑞々しい歌唱に魅せられて以来、BCJや、リゲティの前衛作品発表など、多方面で大活躍している姿に度々接しているが、リサイタルを聴くのは藝大の学位審査演奏会以来となる。聴衆の心に優しい色彩を届けたいという思いから「優しき歌」と題されたこのリサイタルは、駒込の個人宅の小さくてアットホームな空間で行われた。

最初の「歌の翼に」から松井さんは、繊細で温かく、まさに「優しき歌」で、聴き手の心を引きつけた。それに続く数々の歌でも、繊細さと温かさがいつも心に残った。

松井さんの歌は言葉の美しさも魅力だ。どの歌でも、言葉が消える最後の瞬間の小さな子音一つにまで、周到な配慮が行き届いている。自分の魂を言葉に乗せて発し、それが行き着く先まで見届けているような、言葉への「思いやり」を感じた。それが、詩の情景や心情を、繊細でリアルに、そして優しくイメージさせてくれる。例えば、ベルクの「夜」で、闇の中から浮かび上がってくる情景を「見つめるのだ!」と2度歌う言葉の2度目が、より心にリアルに迫ってくるように。

この繊細で精巧な表現力で、熱い思いやユーモア、色っぽさなど、曲の様々なキャラクターを鮮やかに描き分けた。アーンの「リラに来るうぐいす」では、ナイチンゲールを思いの女の子に見立てて、心をくすぐるような妖艶さで聴かせたあとに、バッハの有名なコラールとなった。これは、イエスへの敬虔な愛を歌うものだが、単独で取り上げられる今回は、アーンの延長上、色っぽささえ秘めたラブソングとして歌うのもありかな… でもそうは歌って欲しくないな… と思っていたら、ピアノの山田さん共々、ここでは間を置いて気持ちを切り替え、本当に清らかで美しい、イエスへの思いを清廉潔白に告白する歌唱となり、心が洗われ、身がシャンと引きしまった。清澄で美しく、迷いのない真実の愛を歌う姿に、「すごい!」と、心の底からゾクゾクして、松井さんのバッハをもっともっと聴きたいと思った。

今日のリサイタルでもう一つ核となったのが、子どもにまつわる歌。後半のブリテンと、日本語の歌曲がそれに当たるが、ここでは松井さんは、溢れる愛情で赤ちゃんや子供にやさしい眼差しを注ぎ、包み込んでいった。そこからは、客観的ではない、もっとプライベートで親密な息遣いが感じられ、聴衆との距離がぐっと縮まり、すぐ耳元でささやいているようだった。中田喜直の作品は、音もシンプルで童謡のようでありながら、深い情感と繊細な描写があり、山田さんのピアノもこのメッセージを的確に捉え、冴えた音色とタッチで美しい絵本のような世界を表現した。最後の宮沢賢治作の「星めぐりの歌」で、会場に満たされた優しく温かな空気が最高潮に達した後、静かな余韻がいつまでも残った。

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