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山内雅弘 作曲個展

2021年06月07日 |  pocknのコンサート感想録2021
6月5日(土)山内雅弘 作曲個展

東京文化会館小ホール
【曲目】
1.虚無の構造 〜 2本のフルートとコントラバスのための〜        
2.OBOE Concerto !
3.弦楽四重奏曲第1番「Reflexion」
4.……そして、虚空へ 〜クラリネット・ソロのための〜 
5.螺旋の記憶 Ⅱ〜2つのヴィオラのための〜
6.差異について 〜トイ・ピアノとヴィブラフォンのための〜
7.忘却のリトルネッロ 〜6人の奏者のための〜

【演奏】
Fl:多久潤一朗、間部令子/Ob:荒木奏美/Cl:岩瀬龍太/Rec:鈴木俊哉/Vn:松岡麻衣子/Vn&Vla:甲斐史子/Vla:安達真理/Vc:山澤慧/Cb:佐藤洋嗣//Pf:大須賀かおり/Perc:會田瑞樹/Cond:馬場武蔵


作曲家、山内雅弘氏の還暦を記念した初の個展を聴いた。山内氏の作品は、オーケストラプロジェクトで聴いて強い感銘を受け、今回の個展は大いに期待し、ささやかながらクラウドファンディングに協力して出かけた。プログラムの7作品は、全てが今日のために書かれた新作というのもスゴイが、どれも短い期間に書かれたとは思えないほど多彩な個性を放った名品揃いで、素晴らしい演奏で作品の真価が発揮され、大盛況の客席からは万雷の拍手が送られた。

前半の3曲を聴いて感じたのは、どの作品も命が宿ったように生き生きと緻密なアンサンブルが展開されること。あるパートが発した音を他のパートが敏感に感じ取って呼応し、さらに他のパートが続くという、リアルで敏捷な連鎖でアンサンブルが生き物のように息づいていた。

「虚無の構造」では、ハーモニクスを多用した佐藤さんのコントラバスからフルートのような響きが生まれ、2本のフルートと共に、様々に形を変えて吹き抜ける風のようだった。

「OBOE Concerto !」は、コンチェルトと云うより3人による室内楽。中間部のコラール風のハーモニーに乗って荒木さんが奏でるのは、なんとオーボエの生のリード。これが、コラールの上を魂が漂っているように聴こえた。斬新なアイディアが施されながら、奇を衒った見せかけのものではなく、音楽の必然的な要素として存在しているところも流石だ。

弦楽四重奏曲では、アンサンブルが一段と強固な結束を示し、ひとつの宇宙を形成した。遥か彼方に浮かぶ天体に思いを馳せるような世界を4人のメンバーがリアルに体現した。

前半の曲目が、斬新さを持ちながらも現代音楽の古典のような品格を持っていたのに対し、後半では更なる可能性に挑んだような作品が並んだ。クラリネットのソロ作品「……そして、虚空へ」は、正直、今日のなかで唯一よくわからなかったが、音響装置を利用して即興的に繰り広げられる多次元の世界には新たな挑戦を感じた。

ヴィオラのデュオ「螺旋の記憶 Ⅱ」は、重音の多用で弦楽合奏のような多層的な広がりがあり、後半は打楽器的な奏法やリズムが躍動し、和太鼓の乱舞の情景のように迫ってきた。トイ・ピアノとヴィブラフォンのための「差異について」は、乾いた無機的な音色の玩具ピアノにヴィブラフォンの豊かな響きが寄り添う。けれど、そもそも響きが目立つヴィブラフォンが主導権を握るというより、両者が手を取り合うように進んで行ったのが印象的だった。

最後は6人のメンバーによる「忘却のリトルネッロ」。硬質で鋭角的なフレーズが飛び交い、暴れまくる。それぞれの楽器が同等にアンサンブルの一つのパーツとなり、一丸となって攻めてくるエキサイティングでワクワクする音楽。「放送事故?」と思わせるような長い無音は、緊迫感と取るか、遊びと取るか?演奏者も楽しそうで、なかでもパーカッションの會田さんは視覚的にも「見せる」パフォーマンスが場を一層盛り上げた。新たな挑戦状を突き付けたような強いメッセージ性のある作品を最後に置いたことで、山内氏がこの個展で、これまでの集大成ではなく、これからを見据えていることが示された。

終演後の挨拶では「もう個展なんて2度とやりたくない」と、それほど大変だったという注釈付きで話したあと、今後も5年おきぐらいにやりたいとのお話。山内氏は自身の曲については謙遜する一方で、演奏者を大絶賛していたが、今日の演奏は技もテンションもハンパない出来ばえ。新作初演では、譜面をなぞるだけで終わってしまうような演奏に立ち会うこともあるが、今日は演奏者がどの作品も完全に消化して自分の音楽として表現し、全ての音が意志を持って迫ってきた。それも、山内雅弘という作曲家の音楽への心からの共感と敬意があってこそだろう。今後の活躍が益々楽しみだ。

山内雅弘/SPANDA(オーケストラ・プロジェクト 2018)~ 2018.9.5 東京オペラシティ
山内雅弘/主題の無いパッサカリア(オーケストラ・プロジェクト 2016)~ 2016.9.7 東京オペラシティ

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