facciamo la musica! & Studium in Deutschland

足繁く通う演奏会の感想等でクラシック音楽を追求/面白すぎる台湾/イタリアやドイツの旅日記/「ドイツ留学相談室」併設

マゼール指揮 N響の「チャイ4」 ~NHK音楽祭12~

2012年10月29日 | N響公演の感想(~2016)
10月29日(月)ロリン・マゼール指揮 NHK交響楽団
~NHK音楽祭2012~
NHKホール

【曲目】
1.ベートーヴェン/序曲「レオノーレ」第3番ハ長調
2.グリーグ/ピアノ協奏曲 イ短調 Op.16
 【アンコール】
 リスト/「パガニーニによる大練習曲」~第5番ホ長調「狩り」
Pf:アリス・沙良・オット
3.チャイコフスキー/交響曲第4番ヘ短調 Op.36
【アンコール】
グリンカ/歌劇「ルスランとリュドミラ」序曲

マゼール指揮のN響、先週のB定期では期待したような演奏は聴けなかったが、「ボレロ」の後半で聴かせてくれた濃密でエネルギーが涌き出る演奏で今夜に期待がつながっていた。今夜の曲目は名曲コンサートのよう。まず1曲目の「レオノーレ」の最初のトゥッティの一撃は濃厚で充実したいい響きでテンションも十分。思わず3階席で身を乗り出した。しかしそれから後の演奏は、音はいいがドライブ感というか、強力なベクトルが伝わって来ず、お行儀のいい模範的な演奏という殻を破れないまま終わった感じ。聴かせどころの多いこの曲がこんな風に済んでしまって、この先への期待が萎んでしまった。

しかし、次のコンチェルトで一気にテンションが上がった。先週の定期で聴いたクラリネットコンチェルトも素晴らしかったが、これは一重にソリストの功績。今夜はソリストとオーケストラ双方が素晴らしかった。まずはピアノの紗良オット。明晰でダイナミック、躍動感や切れ味の冴えも申し分ない。軽快に進んでいくパッセージでも、細部をとても丁寧に、ひとつひとつのフレーズを噛みしめるように語りかけ、聴き手の心に刻み込む。ともすればロマンチックな感情にどっぷりと浸かってしまう曲だが、紗良オットは常に冷静な目で全体を見つめ、コントロールし、語りかけてくる。

そんな冷静さの好例が第1楽章のカデンツァ。ゆったりしたテンポで弾いたが、それは思いっきり感情移入してロマンチックに仕上げるためではなく、音楽の細部まで明晰に浮き上がらせるため。このカデンツァがこんなに透明感を持ち、奥に隠されたメロディラインやそれらの絡み、ハーモニーが鮮やかに浮かび上がってくるのは初めての体験。高音の美しさやピュアな強音も持ち味で、ひとつひとつを確実にクリアしながら感動的なフィナーレを築いて行った。

マゼール指揮のN響は、こうした紗良オットの持ち味を最大限に活かしたアプローチで、フレーズに合った語法で語りかけ、ピアノとの濃密で充実した対話を繰り広げていった。ピアノとのデュオを受け持った木管プレイヤー達の見事なソロ、チェロの深くたっぷりとした温かな響きと調べなど、オケとしての聴かせどころも耳を引く。勢いで押し切るのではなく、緻密で堅実、しかも熱気に満ちた演奏を積み重ね、素晴らしいクライマックスに達した。非常にハイレベルの宝石のような煌めくグリーグだった。

一旦萎んでしまった期待がこれでまた膨らんだ。けれどその期待は残念ながら満たされずに終わった。N響は、チャイ4で終始芯のある濃厚でボリューム感もある充実した音を鳴らした。だがこの響きが、音楽として十分に訴えかけてこない。 両端楽章に登場する「運命の動機」の金管ファンファーレにもっとパワーが欲しいとか、細かい注文もあるが、それよりも全曲を通して最初のベートーヴェン同様、ドライブ感や明確なベクトルがどうしても伝わってこない。強烈な稀有の個性を持っているはずのマゼールがこの曲で何をやりたいのかが見えないまま、思いっきりためたエンディングで終演となった。

そんな醒めた気持ちとは裏腹に、満員の会場はものすごい拍手とブラボーで沸き返った。これだけの人達が共感したという事実を認識しても、多分僕は何度この演奏を聴いても感動はしないと思う。オケが退いてもマゼールが何度も呼び出される「一般参賀」が起きるだろうな、でもそうなったら失礼しようと思っていたのだが、オケが退くと同時に潮が引くように拍手が止んでしまったのは意外だった。感動すればオケが退いても拍手を続けるタイプの人達には自分と同じ気持ちの人が少なくなかったのだろうか。

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 2012年10月B定期(マゼール指... | トップ | 庄司紗矢香&ジャンルカ・カ... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

N響公演の感想(~2016)」カテゴリの最新記事